幸せの森のお話集

10年以上前に一年間ほど書き続けた、ハッピーツリーフレンズの二次創作集


 
彼と彼女の話(パターン2 青年と少女)
 
 「最近のフレイキーって、すっかり女の子だよね」
ドーナツショップのテラス席から外を見ていたギグルスが、急にそんなことを言った。
カフェオレを冷ますのに一生懸命だったカドルス(猫舌なのだろう)とナッツドーナッツをめいいっぱい頬張っていたトゥーシーは、ギグルスの視線の先を確認して至極納得した。
ちょうど向かいにあるランピーの雑貨屋に、買い物用のバスケットをさげたフレイキー。髪の毛よけにいつもまいている布が今日は可愛らしいマフラーになっているし、前髪には小さな花のピンまでついている。どう逆さまにしてみたって正真正銘の立派な女の子だ。
男の子だからサッカーをしたらゴールまで跳ね飛ばされた、女の子だから花を摘んでいたらハチに襲われた。そうやって死んで生き返ってを繰り返す中で、フレイキーはどっちかで危ない目にあう度に男の子か女の子かを変えてきた。どうやってなのかは本人の気持ちの問題だ。シフティとリフティだってどっちが兄かは生き返る度にジャンケンしている(ちなみにシフティが勝つ回数の方が圧倒的に多い)。
で、だ。最近のフレイキーはすっかり女の子で安定していた。女の子といったってフレイキーはまだ10歳やそこらのちびっこだから、体格に大きな変化はないのだが(だから、結局どっちだったのか分からない日もあったぐらいだ)、一応身なりに少しばかり気を配るようになったらしく服の柄やらなにやらについてがやはり女の子らしいものになった。
なんでそうなったのか。その理由についての見解は、カドルスもギグルスもトゥーシーもこの場にいないペチュニアもハンディーも果てはランピーまでもの間で一致している。
「だれのおかげかなんて分かりやすいにもほどがあるわよね」
「もう森中が知ってるみたいなもんだしな」
ギグルスとトゥーシーが半分呆れながら頷きあっていると、カドルスは少しつまらなさそうに言う。
「あーあ、野球のメンバーが減っちゃうや」
男の子である場合のフレイキーは、味方にすれば頼もしいバッターなのだ。そもそもこれでは人数自体が足りなくなる可能性だってある。
「あら、女の子はメンバーに入れてくれないの?」
「そうじゃないんだけど、女の子のフレイキーはあんまり野球とかしないんだ」
ボールとバットが怖いんだって。
それは確かに無理のない話で、その二つはどう見たところで死亡フラグだ。ボールが飛んで来れば目を撃ち抜かれ、バットを構えれば雷が落ちてくる。どれだけ無理があろうとも、これがこの世界での道理だった。
でもさ、とトゥーシーがドーナツの最後の一口を頬張りながら言う。
「野球よりよっぽど危ないところに遊びに行ってるじゃん」
「毎日チョコチップクッキーを焼いてね」
おすそ分けをくれるのはいいけどたまにはマーマレードマフィンとかも食べたいんだけどな、とギグルス。
キャロットケーキとかも!とカドルス。
ナッツ系はダメだろうなぁ、とトゥーシー。
揃いも揃って呆れた顔で、薄力粉とココアパウダーとチョコチップを買うフレイキーを眺めている。その二つで買い物は終わったようで、フレイキーはランピーの店から無事に出ていった。自分の家の方角へと去っていく小さな背中を見送って、トゥーシーが呟いた。
「何回殺されたかもよく分かんないぐらいなのに、それでも行くんだよな」
「しかたないわよ。フレイキーはそれでいいからああしてるんだもん」
「フレイキー、楽しそうだもんね。僕、それならそれでいいと思うよ」
幸せなのが大事だもん、とカドルスがやはり幸せそうに笑った。
そして、その場にいる全員が声をきれいに重ならせて、
「だよね、フリッピー」
皆の視線が集まった先は、うつむいて両手で顔を覆う俺。
「君たち、本当は俺のことすごい怒ってるだろ……
もう本当に勘弁してくれ、と本当に苦り切った呻き声をあげてしまう。
そもそもなんで俺がここにいるのかというと、前回の惨殺のお詫びとしてドーナツをおごらされている最中だからだ。
三人は少年少女らしい容赦の無さで次々と俺に要求する。
「ドーナツと、あとパフェも食べたい」
「オレ、メニューの右端から左端まで」
「ペチュニアたちへのおみやげ分もいいかな?」
「あと、フレイキーを幸せにしてあげて」
俺から見ればまだ未熟で脆弱なその体の一体どこにそれだけのものが収まると言うのだろう。
これで贖罪になるならいくらでもドーナツを買うけれど、しかし最後の要求だけは却下だ。
それだけは、本当にその命令だけは森の住人全てを皆殺しにした贖罪と言われたって飲めはしない。
「なんで?」
「だって、俺だから」
多分俺はどうしたって最後はあの子を殺してしまう。
それなのにどうしてあの子からの優しく心地よい好意に応える資格があるだろうか。
第一、戦争でちぐはぐなツギハギだらけになった俺の中に、そういうものを受け取れる部分がまだあるのかどうかだって分からない。
そんな俺に預けられてはあの子が不幸になるだけだ。
「だから、俺みたいなのじゃなくて、もっとちゃんとした誰かと幸せになって欲しいと思ってる」
俺がそう言うと、三人は押し黙った。
トゥーシーは呆れと諦めの中間の様な顔をし、カドルスは泣きそうだ。
ギグルスには思いっきり睨まれた。
「じゃあ、他の誰かがフレイキーを持ってっちゃってもいいっていうの?」
「フレイキーが選んだのなら」
……わからず屋」
なんとでも言えばいい。
俺は俺が出来る方法でフレイキーの幸せを願っている。
……ああ、でもあれだ」
そう想像しただけでもスイッチが入りそうになるんだけれど。
「もしそいつがフレイキーを少しでも泣かすなら、二度と生き返らないぐらいに殺してやる」
この発言の結果、じゃあアンタが幸せにしろよ、とトゥーシーには正論を言われ、だからそれが愛してるってことじゃない、とギグルスに指摘され、やっぱりフリッピーは本当にフレイキーが大事なんだね、いうカドルスの無邪気な感想が眩しかった。