幸せの森のお話集

10年以上前に一年間ほど書き続けた、ハッピーツリーフレンズの二次創作集


 
かみをあらう話
 
「ねぇ、フレイキー。僕は平気だから」
 だから、ね?と出来る限り優しい声で促しても、彼乃至は彼女(実のところ本人もよく分かっていないそうで、時々二人で遊び半分にどちらか論じ合っては結局どっちでもいいかと笑ったりする)(だってどっちであろうとも僕にとっては一番大事な友人であることに変わりない)は頑なに首を横に振った。
「だめだよ、フリッピー!ケガしちゃうよ!」
 泣きそうになりながらクッションで頭を隠す。フレイキーの髪がクッションにブスリと刺さって、そのことにまた泣きそうな顔になった。
 なんでこうなったかと言えば、本当に簡単な話だ。フレイキーの頭はフケだらけで、どうしてかと言えば自分の髪が手に刺さるのが怖くて洗えないのだという。
 それなら僕が洗おうかと言ってみたら、近くにあったクッションを引っ掴んで物凄い勢いで後退りで逃げられた。まるでかくれんぼの様に追っては逃げ逃げては追いを繰り返して(途中で痺れを切らした俺が何度か出てきかける度に必死で抑えた。余計に怯えるだろ!)、今ようやくテーブルの下でまるくなっているこの子に追いついて現状に至る。

 刺さっちゃうよ、ケガしちゃうよ、血が出るのは嫌だよう!と自分が痛い訳じゃないのに、フレイキーは泣きそうな顔でいやいやと首を振る。割とどうでもいいんだけど、頭を振る度にクッションが刺さった髪でぐりぐりとえぐられてそれこそ穴だらけだよ、フレイキー。
「そんなにキミの髪が危ないって言うんなら、俺にやってもらう?僕よりずっと危険物の取り扱いは慣れてるよ?」
 戦場にいた頃はブービートラップの設置とか全部やってくれてたし。(というか、僕がやろうとすると下手だのなんだのという文句と共に強制的に交代させられたんですが、あれは一体何なんでしょうか。しかもスニーキー達にまでその方がいいと言われましたが)
「うー?ぐんじんさん?」
 首を傾げて目を瞬かせる。ああ、これは多分、何を言われたのかよく分かってないんだな。
 軍人さん?と、もう一度呟いてみたらようやく分かったんだろう。物凄い勢いでテーブルの下から飛び出してきて、「ボク、やっぱりフリッピーに洗ってもらう!」「分かればよろしい」僕は非常に満足して頷いた。

 理髪店にあるような洗髪用の椅子はランピーから借りてきた。さすがほぼ毎日違う商売をしているだけあって、訊けばすぐに貸してくれた。地下室を十分も探さずにこれが出てきたんだから、彼の家に無いものは無いんじゃないかと思ってしまう。さっそくバスルームに運び込んで
「痒いところはありませんか?」
「んーん、だいじょーぶ」
 あんなにも嫌がっていたのが嘘みたいに幸せそうな声だ。
 そこは鋭いからもっと慎重にしろとかなんとか色々と頭の中で俺が口煩い。じゃあやってみろと言いたいけれど、俺にやらせたらやっぱりフレイキーが可哀想だ。
「ねぇ、フリッピー」
「ん?」
「なんだか眠たくなってきた……
「あはは、べつに寝ても大丈夫だよ」
「フリッピーは楽しそー……
「うん、楽しいね」
 他人の頭を洗うのは意外と楽しい。テレビのコマーシャルでたまに見る、大きな犬を洗うのはこういう感じかもしれない。
 フレイキーは気持ち良さそうで、僕は楽しくて、俺もなんだか穏やかで、これはすごい平和な気がする。
「ねぇ、フレイキー」
「なぁに?」
「これからもたまに、これ、やってもいい?」
「うー……フリッピーならいいよー……
 次は天気の良い暖かい日に、ビニールプールを出してやってみようか。