幸せの森のお話集

10年以上前に一年間ほど書き続けた、ハッピーツリーフレンズの二次創作集


 
 
 
ばかといわれた話
 
 それはちょうどフリッピーが目玉焼きのはりついたフライパン相手に史上稀に見る大苦戦を強いられていた時のことだ。
黒コゲの端っこはこれ以上ないぐらいにしっかりとフライパンと結合しており、それに対するフリッピーの得物はちっぽけなフライ返しひとつきりなのだから分が悪いとしか言いようがない。
(いい加減に食うのは諦めろ。しばらく水に浸けて後でブラシでこそげとれ)
「でもさ、これが最後の卵だったんだ。しかも双子だし」
(んなこと言っても無理だろ。スニーキーが作ったヘビの蒲焼きより焦げてんだぞ)
「カ・ブームの焼きリンゴよりはマシそうだろ」
(あれは焼いたんじゃなくて爆破したんだ)
一人で賑やかに奮戦していると、玄関の方で微かにドアの軋んだ音がした。侵入者だ。
体の芯がスッと冷える。さあ代われと実に楽しそうな声が頭の中に響く。
黙れよ戦争バカ。ここは戦地じゃないんだ。でも死地だろう。違う。違わない。じゃあなんでそんなに怯えてる?お前に害するものはなんだって壊す。それだけだ。
言い争っている間に腰の辺りに衝撃がきた。背後からしがみつかれたようで、フラッシュバックに眩む視界の中、振り向けば、微かに見慣れた赤が、
「なにしてんだ、チビッ!ぶっ殺され「フレイキー?どうしたんだ?」
びっくりして真っ白になりかけたところを突いて表に出ようとする彼を寸でのところで黙らせて、フリッピーは背中にひっついたフレイキーに訊いた。フレイキーは背中に顔を押し付けたままで黙っている。
(フレイキー、なにか怒ってる?)(こいつ、なんか怒ってないか?)
本日初めて二人の意見が一致を見た。
フレイキーはまだ気が立っているのか、髪が少し逆立っている。
それが刺さって痛いのは痛いけれど、別に死ぬほどのものでもない。更に言うなら、こうしている間にも左手のフライパンでは目玉焼きと底の壊滅的な同化が進んでいるのだけれど、大人しく怖がりなこの小さい子供がここまで気を荒だてるような大事に比べれば、どうしようもない程にどうでもいいことだ。
言ってみなよ、と促してやると、フレイキーは少しふてくされた調子ではあってもわりと素直に答えた。
……シフティとリフティとけんかした」
いじめられた、じゃなくてけんかした。つまり対等とまではいかなくても、フレイキーがやり返したということだ。
怖がりのフレイキーがそんなことをするなんて、本当によっぽどだ。
フリッピーとしては自分達がアレな分、フレイキーにはあまりそういう死亡フラグにつながるようなケンカ沙汰には関わって欲しくないのだけれど。
心配が顔に出ていたのか、フレイキーは言い訳するように続けた。
「だって二人がね、ひどいこと言ったんだもん。フリッピーの悪口言ったんだよ!」
「え?」
「シフティとリフティがボクのこといじめるのはいつもだからもう慣れてるんだ。でもね、フリッピーのこと悪く言われるのはイヤだよ。あ、でも、二人に言われたんだけど、『あにばか』ってどういうの?」
あにばか。分かっていないフレイキーの発音はかなりたどたどしいけれど、つまりは兄バカ。
この場合、妹ないしは弟に当たるのはフレイキーなのだろう。それならば非常に遺憾ながら、フリッピー自身にも反論という発想が浮かばないぐらいに核心を滅多刺しにした評価だ。
「ボク、よくわかんないけどバカってつくし、じゃあやっぱり悪口だよね?フリッピーはバカじゃないもん。ボクの知らないこと、たくさん知ってて教えてくれるもん」
ボク、頭にきたから、あいつらにトゲトゲいっぱいさしてきた!とまたぶり返した怒りで顔を真っ赤にさせて言った。
フレイキー、残念ながらその『ばか』はそういう種類のバカじゃないし、しかも自分がその『バカ』であることは間違ってないんだよ。
その残念なお知らせをどう伝えたものか考えあぐねながら、それでもどうにか教えてやらないといけないとフリッピーは探り探りで口を開く。
「あのね、フレイキー。それは「よーし、よくやったぞ、チビ」
油断大敵。今度は彼がフリッピーを押し退けて、恐ろしく乱雑にフレイキーの頭をなでまわした。
可哀想なフレイキーは軽く目が回ってしまって言葉未満の声をあげる。
「あのクソガキども、自分達は棚に上げて偉そうにほざくじゃねえか」
調子に乗ってやがるならお仕置きが必要だ、と凶悪な笑みを浮かべる。
(ちょっと待て、俺!)
「待つかよ、馬鹿。言ったろ。お前に舐めた口きくヤツは全部泣かすって」
(なんかさっきと言ってることが微妙に違ってるけど!?)
違うというか、話の次元がとびきり低くなっている。
まあとにかくこれであの双子を殺してしまっては完全に図星を指された逆切れだ。それは年長者としていかがなものかと思うし、そもそもその程度のことで彼の今月の殺害人数を更新するのも嫌だった。なんせ今月は遊園地でバイトがあったため、まだ月の半分しか行っていないのに先月の数字を軽く超している。
さてどうやって殺してやろうかと指を鳴らしている戦争バカを、それこそどうやって黙らせようか。
フリッピーは音にならない、しかし盛大な溜息を吐いた。
これだって手のかかる弟みたいなものかもしれない。実にあの双子は間違っていない!

紆余曲折色々の末、彼は大人しく(というか、完全に拗ねて)脳内に引き籠った。
ほっと一息ついたところで、あのさフレイキー、とフリッピーはフライパンを指差して訊いてみた。
目玉焼きはもうただの焦げた何かになっている。
「これ、どうにか食べられないかな」
「えっと……、むり」