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河童の皿箱
2025-04-02 09:27:13
53202文字
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遊戯王:長め
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その男は、能楽師であった。
あるグループがグループになる前、昔の話。
※捏造の濃度が高い。
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季節がひとつずれ込む頃、人形師の腹は目に見えて大きくなった。生命の神秘じゃ。俺もこうして産まれてきたんだろうな、と男ふたりがつい口にすれば、母もつられて笑った。
3人の生活も、また大きく変わり始めていた。人形師は妊娠を機に退社し、自宅で今までやりたかったことをと、独立して電子回路の研究をするようになった。能楽師と雅楽師が物置こと人形師の研究室に足を踏み入れることもあるけれど、僅かな知識だけでは何が何やら。けれど人形師が配線を終えて動作テストを行うと何故か動く。いやはや、一体どういう魔法だろうかと、食卓での話題がそれでもちきりになることもあった。
能楽師は、小さな会社からも絵の仕事が舞い込むようになった。服飾、キャラクター、その他もろもろ。多岐にわたる絵の仕事を、能楽師がひとつひとつ丁重に取り組めば、それがまた評判を呼び、新たな仕事を持ってきてくれる。個人からの依頼もこなしているが、手作りアイテムブームが過ぎ去ってしまい、興味を持つ者も少なくなりつつあった。再び開かれるコンテストも、サヨと共に初出場したあの時よりもかなり規模を縮小するようだ。流行の強みと弱みを痛感しつつ、けれど生活できるだけの収入を得られるのはありがたいことだ、とまた机に向かい、誠実に筆を執り続ける。
雅楽師は相変わらず、音源を作って売っている。スタジオで収録を行い、家で編集を行い、いくつかのグレードや奏法に応じて多くのバージョンを手掛け、それを販売して収入を得ている。市民権を得た、というほどの流行は見られないが、街中でも雅楽師が手がけた音源を使用した楽曲を耳にする機会があった。3人で買い物に出ている時に耳にしたそれに、雅楽師はつい舞い上がった。
自然と、3人は伝統的な手法を用いた、新たな表現に挑戦するようになった。雅楽師は楽曲の制作を始めた。人形師は浄瑠璃人形に回路と複雑な配線を埋め込んで何かできないかと。そんな中、能楽師はといえば、新しい演目のシナリオを手掛けるとともに、衣装や面に新しい技術を盛り込めないものかと空想していた。例えば、もっと派手にやれないか、光ったりとかすれば、遠くからでも目立つんじゃないか。
……
そう、ホログラムみたいな。
能楽師が紙面上に描いた空想を、雅楽師と人形師もまた覗き込んで、案をあげた。もし光るんなら、楽器も光らせたいのう。良いな。それをやるとすると、新しく楽器を作らないとだな。音源は保存できておるし、出来なくはないとは思うが
……
楽器を作るのはやったことないのう、ううむ。人形にも電飾を埋め込めれば、派手になるかも。人形は確かに、相性が良さそうだ。でもそれだと、今の人形じゃあ小さいかもな。うん、小さい。でも大きくすると、ひとりじゃ遣えなくなっちゃうかも。そんな戯れに笑い、じゃあまた明日と眠れば、朝日がまた彼らを迎えた。
日に日に、ふたつの命が宿った腹は膨らみ続ける。また季節がひとつずれて、また季節がひとつ過ぎる頃。ぱんぱんに膨れ上がった腹の余りの重さにすっかり身動きの取れなくなり、痛みや重みに苦しむ人形師を、能楽師が寄り添い、支え続ける。破水が始まれば、いよいよだ。雅楽師は能楽師に背を伸ばして言った。ええか、お前は旦那なんじゃ。ちゃあんと傍に居てやれ。お前が一番、頼りになるんだからな。能楽師はただ、頷いた。次に、苦しむ人形師に笑いかけた。家のことは心配せんでええ。お前たちが戻ってくるのを、わしはここで待っておる。気を付けてな。その言葉に、人形師もまた、微笑む。
能楽師は人形師を車に乗せ、病院へと連れて行った。医師たちが分娩の準備に取り掛かり、激しい痛みを母が訴えれば、父はその手を取り、声をかけ続ける。大丈夫だ、俺はここに居る。いよいよ会えるな、と。ひいひい息んで、なおも母は頷き、会いたい、ね、と。
壮絶な出来事の末に、おぎゃあ、おぎゃあと、双子の泣き声が響く。産まれました、産まれましたよ、と医師たちが取り出した子を、母に、父にそうっと抱かせた。
小さな、小さな赤子たち。父は母の手を取り、頑張った、よく頑張ったな、と。母は笑う。ようやく、会えたね、と。
おぎゃあ、おぎゃあ。初めての外の世界との遭遇に、ふたりの子供は泣く、泣く。その涙につられてか、父と母もまた、涙を流した。
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