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河童の皿箱
2025-04-02 09:27:13
53202文字
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遊戯王:長め
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その男は、能楽師であった。
あるグループがグループになる前、昔の話。
※捏造の濃度が高い。
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ひらり、ゆるりと翻る扇子。すり足がひとつ、トンと鳴れば、面は虚空を睨みつける。当然だ。観客などほとんど居ないのだから。
男はひとり、舞い続ける。古びた衣がまたバサリ。けれど、息もない無音より返ってくる音は、心の隙間をこじ開け、ただただ虚しく。
その男は、能楽師であった。
その日の予定を全て終え、なんの成果も無い虚無感に打ちひしがれつつも、男は鞄を引きずって行きつけの場末の居酒屋に駆け込んだ。むせ返るアルコールの臭い、むわっと纏わりつく料理の熱気と、癇に障るほどギラギラ照る妙な照明。店員ボットに端末の画面を見せ、予約を取った個室に向かえば、よう、と。そこでは、雅楽師の男がいくつかの楽器のケースを整理して待っていた。
能楽師は挨拶をそこそこに、座敷に座る。なんだ、景気の悪い顔をしてるじゃあないか。雅楽師は能楽師の顔を覗き込むが、覗かれた側はそっぽを向いて、別に、と。雅楽師は笑う。いやぁ、言うてわしも大差ないんだがな、と。それを聞いて、能楽師はようやく苦笑を返す。だよなぁ、と。
それから、特に何かを話すでもなく、注文端末を操作しては、安酒といくつかのつまみを頼む。ほどなくして、ボットが個室前まで運んできたそれを、ふたりは適当に受け取り、食卓に並べた。それから、乾杯。どちらからともなく、ジョッキを掴んでカチリと鳴らせば、ふたりで酒をあおった。薬品の臭いが抜けていない、鼻と頭にはガツンと効く、ただ酔うための酒。美味いなどとはお世辞にも言えないものだが、半分ほど一気に飲んで息を思い切り吐き出せば、互いの胸の中は幾分か晴れたか。
塩茹でされた豆を剥いて、ひとつ、またひとつ口に運ぶ。ほんの贅沢、串肉にかぶりつく。その味を堪能しては、また安酒で押し流す。おもむろに、能楽師は口を開いた。なあ、今日はさ、片手で数えるぐらいしか入らなかったんだ。いや、仕方がないとは思うんだ、いつだってこんなもんだ。それでも、なぁ。そんなぼやきに、雅楽師は豆を飲み込んで、まあなあ、と。わしらはそれなりに上手くやれてる方ではある。その客のひとりやふたりを大事に、とは思うが、眠られるとどうにも来るものはある。能楽師は、そのぼやきにまた頷いた。
俺たち、何かもっとやれることがあるんじゃねぇかな。能楽師は漬物をひとつつまんで、コリコリと噛む。雅楽師は頷く。あるとは思うんじゃが、具体的には分からんのだよなぁ、と。そうなんだよなぁ、呟けば、また酒をひとくち。豆の殻が積み上がっていく。もう少し食いたいと、雅楽師が端末で追加注文を飛ばすと突如、あぁ、そうだ、と手を叩いた。わしはまだ、この街に来て日が浅い。出来れば、お前さんに街の案内をしてほしくてなぁ、と。能楽師は笑う。なんだ、そんなことなら、いつでもいいぜ。なんなら、今すぐだってさ。どうせ明日は仕事がないんだ。お前は? 雅楽師は答える。わしもじゃ、と。それなら、この後は街に出ようぜ。今は
……
お前と歩いてたほうが楽しそうだしな。
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