河童の皿箱
2025-04-02 09:27:13
53202文字
Public 遊戯王:長め
 

その男は、能楽師であった。

あるグループがグループになる前、昔の話。
※捏造の濃度が高い。



 カシュリ、カッ、カッ。3つのアルミの盃がカツンとぶつかり、3人は各々好みと購入した酒を、ぐいとあおった。能楽師がカーッと息を吐き出すと、ちゃぶ台の上にガツンと盃が置かれた。おいおい、どうした。雅楽師がコトンと盃を置けば、能楽師はわりぃ、つい、と苦笑いして、豆の皮をひとつ剥いた。人形師もまた盃を置いて、ふふふ、と笑った。
 人形師を仲間に迎え、浄瑠璃の復興と称して作り上げた演目の初演は、大成功に終わった。拍手の数は去年と比べ物にならないほど増えていたし、投げ銭だって、3人が1日まるっと遊べるぐらいの額であった。まあ、今日は初日だからというのもあるし、それだけで生活をする、というのは全く現実的ではないけれど、それでも3人にとって、その額は驚きであった。その身に溢れんばかりの喜びのまま、能楽師は自らの家にふたりを招き、ふたりはそれに乗り、酒とつまみをいくつかコンビニで購入し、こうしてささやかな祝宴を開いたのであった。
 人形師は初めて上がった能楽師の家を見渡して、その隅に置かれた旧式PCと、それに繋げられていただろう数々のものを見た。どれも、しばらく使われている様子はない。それもそうだ。彼らは人形師が直したデバイスを普段、愛用しているのだから。人形師も、その光景を何度も見ていた。能楽師がいくつかの豆を口にしてから、ふと視線を追いかけて、どうかしたのか、と訊ねると、人形師は答えた。あなたの家に来るの、初めてだから。そっと微笑めば、能楽師は目を丸くした。……そうか、今日が初めてだったか、と。
 途端に、能楽師は視線が泳いだ。あー、その。勢いで誘っちまったけど……大丈夫、か? ええと、その。しどろもどろな姿に、丼をかきこんでいた雅楽師は笑いがこらえきれなくなった。なあ、聞いとくれよ。こいつ、お前を誘うのにずうっと決心がつかなくてな。途中まで行って、能楽師が、馬鹿! やめろ! と掴みかかれば、んぎゃあ、やめろやめろ! と軽い取っ組み合いが始まった。人形師はそんなふたりにくすくすと笑った。大丈夫、信頼してるから、と。酒をまたひとくち。凛とした姿に、ふたりは頭を掻いては取っ組み合いをやめて、またちゃぶ台を一緒に囲んだ。
 それから、3人は今日の成功についての話を始めた。フライドチキンにかぶりつき、酒を飲み、干し魚の珍味にぱくつき。そうしていると、ふと人形師は口にした。本当に、ありがとう、と。頭を下げたその姿に、雅楽師は笑った。こうして成功できたのは、お前も頑張ったおかげじゃ。なあ。能楽師もまた、頷く。あぁ、表現の幅だってぐんと広がったし、それに……俺が受け継いだ身振りや手ぶりを、お前は真剣に聞いてくれた。自分なりに最適な形を見つけようと、毎日頑張ってたしな。俺こそ、ありがとう、だ。そうして頭を下げれば、人形師は笑った。それを見て、何となく照れ臭くなった男ふたりもまた、笑った。

 笑う、笑う。祝宴は互いへの賞賛と、敬意と。お互いが心の拠り所に、いつの間にかなっていた。誰もそれを口にはしなかったが、誰もがそう思って、じゃれ合って、また笑った。
 ふたつめの酒を開けた頃、あぁ、そうだ、と雅楽師がポンと手を叩いた。人形師が首をかしげると、能楽師はあー、と声を出した。いや、実はな