河童の皿箱
2025-04-02 09:27:13
53202文字
Public 遊戯王:長め
 

その男は、能楽師であった。

あるグループがグループになる前、昔の話。
※捏造の濃度が高い。



 歓楽街から離れ、人形師に連れられてやってきたのは、中流階層と呼ばれる人々が住む地域である。誰が決めたわけでもないが、不思議なことに、ひとつの場所には似た人が集まる。スラムもあれば、上流階層もあるし、能楽師や雅楽師が住んでいるような下町もある。ここは暮らしには特段不自由はなく、たまの贅沢が出来る程度の人々が住む場所だった。
 さて、そうしてやってきたのは所謂リサイクルショップである。客から物を買い取り、代金としてささやかな金銭を渡す。そうして集めた商品に、値札を付けて売る。自動ドアをくぐって店内へと足を運ぶと、着古されているわけではない綺麗な服やアクセサリー、電化製品等々。実に様々な商品が用意されていた。
 あっちに、中古の着物があるんです。材質は色々ありますし、絹の物もたまにあるんですよ。人形の服を作る時は、それを材料にしています。それで、今日の目的地はこちら。能楽師と雅楽師が辿り着いたのは、もう動作しないガジェットが置かれているコーナーだった。今まで見向きもしない場所であったが、工学を学んだ今、何となく気分が高揚するのを、能楽師は感じていた。
 ここがいちばん、品揃えが良いんです。スラムは自力で直せる人が多くて競争が激しいですし、ここより上は特別高いのを買って、壊れたら専門業者に依頼してしまうので。人形師は使い古された機械類を漁りながら、いくつか手に取っていく。音が出ないとされている浮遊追従型スピーカーに、能楽師が使っているよりもずっと近代的な超小型PCの残骸、サングラス型のディスプレイ。下町で何とかやってきた男達にとっては、欲しくても手が届かなかったようなものがはいて捨てるほどある。それを、自分で修理して、使えるようになるかもしれない。
 人形師は次に、能楽師の手に馴染む大きさかつ、価格と性能の折り合いの良いいくつかの工具も籠に入れた。新しいことをやるにあたって、こうして教えてくれる人が居るってのは、何にも代えがたいほどありがてぇことだな。能楽師が人形師からものを受け取るたびに、籠はどんどんと重くなっていく。私も、無理難題を言っている自覚はあるんです。ですから、出来ることはやりたいんです。そう微笑む顔は、初日のような緊張からはすっかり解放されていた。ふと、雅楽師がひとつ、近くの棚から電子楽器を取り出してきた。白い鍵盤、黒い鍵盤、いくつかのボタン。キーボードだった。
 なあなあ、こういう楽器も直せるのか? 雅楽師が問えば、人形師は頷く。分解しないと壊れ方が分からないので、必ずしもすぐに直せるとは言えませんが、ここにあるぐらいのものなら部品交換で直るはずです、と。それを聞くと、雅楽師は感心した。なるほどなぁ。くいっぱぐれない技術ってぇのも納得じゃのう。人形師は更に棚の奥から、別のキーボードを取り出して、それもまた籠に入れた。それは? 雅楽師が問えば、人形師は答える。壊れている部分が違っていたら、共食いで直せることもありますから、と。

 能楽師は、ぽつりと呟く。こういうところから動作する部品を集めて、俺たちにしか作れないものを作るってのも、楽しそうだな、と。雅楽師は笑う。はは、それはいいのう。……うむ、見ていたらわしも勉強したくなってきた。いかんのう、やりたいことがどんどん出てくる。叶えたいことがむくむく湧いてきちまう。お前たちと居ると、立ち止まる暇もありゃあしない。でも、それがなぜか、楽しくて仕方がないんじゃなぁ。なあ、修理するところも見せとくれよ。