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紫輝
2023-12-09 10:28:10
36253文字
Public
リオヌヴィ
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1000字くらい作文詰め合わせ
短いものの詰め合わせセット。書いたら増えます。(最終更新:01/10)
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次からはやる前に言って欲しい
暗闇の淵から突如響いた鳴き声にその場から飛び退く。ばしゃん、と下草に叩きつけられたのは水の塊で、出た、と武器を構えた。
アビサルヴィシャップ。地表と断絶されて久しいこの常夜の国で独自の進化を遂げた龍の一種だ。彼らはここで活動する生命の何よりもこの領域を知っているようだった。思いもかけぬところから、敵意を剥き出しに襲いかかってくる。
種として恵まれた体躯と胆力を持つ彼らを制するのは容易ではない。気をつけて、と同行者へ掛けようとした声は、他でもない同行者の行動で喉奥へ消えた。
指ぬきのグローブに覆われた大きな掌が己を制するように翳される。思わず見上げた先、同行者の
――
リオセスリの瞳がその色の通り、絶対零度の光を灯して輝いていた。
見たことのない光だ。いや、「見たこと」ならある。守護に長ける黄金の龍の現し身が。海を司る水の龍の現し身が。その力を行使するとき、こうして瞳は光を放っていた。
男が口を開く。
その喉が発したのは言葉ではなかった。グルル、と、低く響く音は獣の唸り声のようだ。『
北風の王狼
アンドリアス
』を思い出す。
…
少し違う。これにもっと近い”声”を、自分は聞いたことがある。頬を打つ風。耳を打つ羽ばたき。そうだ、『
東風の龍
トワリン
』だ
――
翠緑の風龍の名を思い出したと同時に、リオセスリの身体から闘気が吹き上がる。彼の天賦の才に因るものではない青みを帯びた光には、覇気、と表現するほうが相応しいくらいの圧力があった。光がゆらりと揺れる。為した形は獄守犬のそれではなく、この世界の水を統べる龍のそれ。
低く低く、男の喉が鳴る。
圧倒されたように海色の覇気を見つめていたアビサルヴィシャップがびくりと動きを止め、ゆっくりと後退した。アビサルヴィシャップの体にして二つ分、例えば襲ってきたとしても充分に迎撃できる距離まで離れると、頭を低く下げる。そうして彫像のように動きを止めた。そこまでを見届けた男が纏っていた光が、融けるように消えていく。
「行こう」
短く告げて歩き出したリオセスリはアビサルヴィシャップを振り返りもしない。脅威と認識していないのだろう。
「
…
今何したの?」
「うん? 代替わりを知らないようだったんで、あんたが当代龍王の友人だって話をして手を引いて貰っただけさ」
慌てて肩を並べ恐る恐る投げた問いかけに、リオセスリはなんでもない事のようにからりと答える。
「ここのヴィシャップたちは
龍王
あのひと
と切れて久しいらしいから通じるかどうか賭けだったが。よかったな」
通じなければ拳で黙らせたが、なんて続いた言葉に思わず嘆息した。そんな空恐ろしい事で賭けをしないで欲しい。アビサルヴィシャップは結構強敵なのだ。
「まあ俺がやったのは一時凌ぎだからな。次にここに来るときはあのひとに同行願うといい。襲われなくなるはずだ」
逆に当代が同行していて襲ってくるようなら容赦は要らないとリオセスリは言う。『龍』の血を宿して生まれている以上、俺はともかくあのひとがわからないはずはないからと。
「わかった、ありがとう。頼んでみるよ」
助言に頷きつつ、今回の探索ルートをそっと見直す。あの覇気を日に何度も見るのは少しばかり遠慮したかったので。
□■□
白い光に照らされた芝生を
当代龍王
ヌヴィレット
が
行
ゆ
く。その足取りはどこか軽やかだ。見る者が見れば彼が浮かれているのだと気付いただろう。珍しくも見てわかるほどの軽快さで歩を進めるヌヴィレットとやれやれと言わんばかりの笑みでそれに随行する「見る者」であるリオセスリ、二つの背を追いながら空は少し前のことを思い出していた。
あのあと。
同行要請を兼ねたお茶会であの時の公爵すごかったね、と漏らした空に、龍王様は眉を寄せたのだ。ずるい、と、常の語彙力をどこかへ投げ捨てて。
彼が言うには、リオセスリの『覇気』はそうそう目にできるものではないらしい。それはそうだろう。あれを軽々しく使うような事態が頻発するのであればそちらのほうが大問題である。
「
龍王様
ホンモノ
の目の前で出しゃばるほど神経図太くないからなぁ」
私も片手で足りる程しか見たことがないのにと拗ねる龍王様に、リオセスリは肩を竦める。『本物の威光』の隣であれをやるのは気が引ける、そうだ。その必要もないだろう、とも。効率を重視する彼らしい言だと思う。
君はいつもそう言う。龍王様が言う。
「龍の力で周囲を制する雄々しく猛々しい君の姿を、私は何度でもこの目に映したいのに」
瞳に熱を灯し頬を淡く染めて口にされる言葉はあまりにも熱烈な愛を謳っていて、これが彼の龍王様から発せられている事実がちょっと信じられない。ここにフリーナがいたならば成長したねと笑っただろうか。劇場でやりたまえと怒ったかもしれない。
龍王様からの一途な愛を受けているリオセスリが「光栄だよ」と、平然と笑っているのもすごい。番ってどれだけの日数が経過しているのか不明だし踏み込むつもりもないが、漂っている雰囲気が完全に熟年夫婦のそれだ。少なくとも彼が龍王様の隣にいる間はフォンテーヌは平穏だろう。根拠もなくそう考えてしまう。
「次は私も行く」
今少し幼かったならふんすとでも擬態語がつきそうな口調で同行を確約してくれる龍王様の中では、あんたがいるならますます俺に出番はないと思うんだがと肩を震わせるリオセスリの同伴は決定事項なのだろうなあと苦笑したのだった。
――
そんなお茶会を経て。
「龍王本人と覇気で黙らせられた伴侶が揃ってたら絶対寄ってこないよね」
「好きな人のかっこいいところを見逃したくない乙女心、察してあげなさいな」
場の雰囲気にそぐわない、どこかうきうき、そわそわとした紺碧の後ろ姿をそっと見守りながら呟いた空の言葉に、華やかなソプラノが答える。静かねえと辺りを見回す彼女に普段はもうちょっとざわついてるんだけどと返したのはついさっきだった。常であれば闇に潜んでいる気配が、今日は全く感じられない。理由なんて分かりきっているけれど。
「乙女心」
「あの人公爵が関わるとふわっふわで可愛いわよね」
癒される、と上機嫌に笑うナヴィアに返せる言葉が、そっか、しか見つからなかった。
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いい仲なのは知ってたけどそこまでとは思わないじゃん???(空君)
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