紫輝
2023-12-09 10:28:10
36253文字
Public リオヌヴィ
 

1000字くらい作文詰め合わせ

短いものの詰め合わせセット。書いたら増えます。(最終更新:01/10)



腰は抜けたしキスはした


 何故と問われればよく解らないけれど、たまには「『普通』の恋人らしいこと」をしてみたかったのかもしれない、と答えるだろうと思う。
「熱中症、と、ゆっくり発音してみて欲しい」
 熱中症、って区切ってゆっくり発音すると「ねっ、ちゅう、しよう」って聞こえるのよね――執務室を茶会の場にして盛り上がっていた少女達の、聞くともなく聞いていた会話の中にそれはあった。どうも最近流行りの言葉遊びらしい。完成された単語をあえて区切る事により全く別の意味の言葉を生み出す――興味深い遊戯だ。元になっている言葉が疾病の名称なのは不謹慎なのではないかと思ってしまうが、口を挟めば彼女達の話の種とされてしまう事は目に見えていたため背景に徹して場を見守るだけに留めた。ほんの数日前の出来事だ。
 彼からすれば脈絡のない私の依頼に首を傾げたリオセスリ殿は、ふむ、と呟き、その瞳をまたたいて、そして。
……ん」
 とん、と。
 私のそれに軽く触れて遠ざかる彼の唇を睨む。
 思っていたのと違う。いや違わないのだが。違う。
「ご期待には添えなかったかい?」
……厳密には」
 どうやらリオセスリ殿は件の言葉遊びを知っていたようだ。見事に躱されてしまったのが面白くない。不満が顔に出たらしい私の眉間を指で撫でたリオセスリ殿が小さく笑うのに是を返せば彼は笑みはそのままに肩を竦めた。
「けどなぁ。それは青少年とかあんたとか可愛いのがやるからいいんであって、俺みたいなゴツい男から“ちゅう”とかいう単語が出てきてもうすら寒いだけだろ」
「君の「可愛い」の範疇に私が入っているように、私も君に対してそう思っているのだから問題はない」
 しれっと入れ込まれた単語を拾いツンと顎を逸らすと、リオセスリ殿はわかったそこまで言うならと諦めたようにため息をつく。あやされたようで些か複雑ではあるがともかく目的は果たせそうだと、腰を抱く腕に身を任せながら期待に少しばかり聴覚を澄ませてしまったのがきっと良くなかった。のだと、思う。
「なあ、キス、しようか」
 耳朶に触れた唇の紡ぐ、少し掠れた低く甘い声が耳を、背筋を撫でる。その音律にとろりと流されるように、私はソファに沈んだ。

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このあとヌ様は「また君に転がされてしまった」って拗ねます 可愛いね