camellia57
2025-12-13 19:47:56
38479文字
Public
 

降っても晴れても 君の隣で(川玉SSまとめ 26.5.18更新)

川瀬エンド後の川玉小話まとめ
下に行くほど新しいです
リンク先R18はパス限


「今日も、なのか……?」なんて言って一緒のベッドに入ることを居心地悪そうにしていた玉森くん。それが俺の部屋で偶々薬瓶を見つけてからは文句を言わなくなった。
 中身が何なのか見当がついたらしい玉森くんは「……眠れないのか?」と聞いてきた。
 俺のこと、心配してくれたのかな。
「玉森くんと同棲し始めてからは飲んでないよ」と正直に言ったら玉森くんらしくない複雑な表情になって、俺をベッドまで引っ張った。
 いつもは壁の方を向いて寝るのに、壁に背を向けてベッドに横になった玉森くんが腕を広げて「こ、こっちに、……来い」と誘ってくる。いや、本人には誘っている自覚はなさそうだ。
 このまま突っ立ってたらどんな言葉で招いてくれるだろうと考えたけれど臍を曲げられても困るから言う通りにした。
 向かい合うように横になると、頭を腕に乗せるように言われた。珍しく指示が多い。
 大人しく従うと、両腕で抱き締められた。玉森くんの胸に顔を寄せる格好になって、心音がよく聴こえる。
「た、体温と心臓の音は、安心、するらしい……
「こんなに激しいと落ち着かないけど」
「なっ、」
 それにそれって、
「赤子を泣き止ませるときにするやつじゃないの?」
「な、な……、」
 市電に乗ってるときか夕飯の買い物をしているときにでも耳にしたのかな。

 カーテンを開けていても月の光もなく、ぽつりぽつりと雨音が聞こえた。
「俺に橋姫が移ってもいいの?」
 彼の目を確かめるようにそう聞けば「お前のためではなく私がしたいからしているのだ」と言う。確かに玉森くんの目は青いままだ。
 いつもとは逆で俺が玉森くんを見上げる格好で、こんな位置になるのは情事のときくらいって玉森くんは気がついているのかな。それを口にしたらきっと後ろを向いてしまうだろうから黙っていよう。

……よ、余計なことは考えずに眠ればいいのだ」
「じゃ子守唄でも聴かせてよ。何でもいいからさ」
「子守唄なんて知らんぞ……
「玉森くんの即興でいいよ」
「そう言われてもだな……
 うーん、と唸りながら歌い出した子守唄。

 それは悪夢に苦しむ男の前にそれを餌にしている大蛙が現れる話だった。
 眠りたくない男と寝て欲しい蛙の奇妙なやり取りをでたらめな音程で口ずさむ。
 おかしさだらけだ。玉森くんに頭を撫でられているのもおかしいし。
 俺は赤子じゃないんだけど。

 でも玉森くんの歌声が心地よくて。規則正しい心臓の音。俺に触れる手の温度。
 優しいそれらに包まれていつの間にか瞼を閉じていた。

「おやすみ、川瀬」
 眠りに落ちる前に、優しい声がした。



 その夜、こんな夢を見た。

 真っ白な診療室に座っている白衣姿の俺。
 お昼時だったらしくお弁当の包みを二つ持った玉森くんが訪ねてくる。
 口を開けて強請れば、顔だけは渋々と、俺におかずを食べさせてくれる。
 左手を見れば薬指に鈍く光るものが嵌められていた。

 そんないつかの、
 いつか訪れる未来の、幸せな夢を見た。