camellia57
2025-12-13 19:47:56
38479文字
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降っても晴れても 君の隣で(川玉SSまとめ 26.5.18更新)

川瀬エンド後の川玉小話まとめ
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 ――玉森くんの様子がおかしい。
 いや、これは正しい表現ではないな。玉森くんの様子がおかしいのはいつものことだから。
 正確には玉森くんが落ち込んでいるように見える。
 朝はいつも通りの玉森くんだったし、昼だってお弁当を持ってきてくれた玉森くんと帝大の広場で一緒に食べた。我儘を言って多少困らせた気はするけどよくあることだ。
 それが帰宅したら浮かない顔して俺と目を合わせないんだから……。「おかえり」とは言ってくれたけど。一体何があったんだろう。
 愛飲してるカルスピの大瓶を割っちゃったのかと思ったけどいつもの場所に仕舞われていたし、では財布を落としたのかと思えばそれも違うらしい。彼に贈った腕巻時計は相変わらず居間のよく見えるところに置かれていて、家の中には変わったところはないし、玉森くんがどこか怪我をしているわけでもないようだ。
 こんなときに限って事情を知っていそうなあの蛙は現れない。俺に追及されるのを怖れているんだろうな。

「玉森くん」
 考えてもわからないことは本人に聞くしかない。
 声を掛けるとわかりやすくびくりと震えた。
「こっちに来てくれない?」
 ソファの座面をぽんと叩く。
 大人しくこちらに寄ってきた玉森くんが隣に座る。
 いつもより離れた場所に。
 俯いたままだから表情が窺えない。
「何かあったの?」
 玉森くんの方に顔を向けて尋ねる。反応はない。
「何もないのにそんな様子にはならないでしょ?」
 無言のままの玉森くん。
「俺には、言えない?」
 微動だにしない。本当に……何があったんだろう。

 玉森くんの膝の上で握られた拳にぽとりと雫が落ちた。
 それを見たら身体が動いていた。
 玉森くんの顔を無理矢理こっちに向けると、大きな目からぽろぽろと涙が溢れていて、拭っても拭っても止まらない。身体を抱き寄せて背中をさすれば声も上げずに静かに泣き続けた。俺のシャツが湿っていくのがわかる。そんなことは構わなかった。

 どれくらいそうしていたのか、ようやく泣き止んだ玉森くんが身体を離して、赤い目を擦りながら「すまない」と謝った。
「謝られるようなことはされてないよ」
 それよりも。
「さすがに理由を教えてくれるよね? これでも『何もない』なんて嘘をつかないよね?」
 観念した玉森くんがぽつりと零した言葉。それを理解できなかった。

「お前は私といてもつまらないのではないか?」

 ??
 玉森くんは何を言ってるんだろう? 今まで何を見てきてそんなことを言うんだろう?
 これでも同棲をはじめてからは玉森くんにも伝わるようにしてきたつもりなんだけどな。
「つまらないと思ったことはないけど? あぁ、君の書いた小説は別だけどね」
「一言多い……! 本当に、本当か? だって、私はお前と話が合うわけでも趣味が同じわけでもないだろう?」
 それは俺も同じなんだけど。
 前に俺が言ったこと忘れてるのかな。
「今更そんなことを気にするなんてどうしたの? ……誰かに何か言われたの?」
 ひどく言いにくそうに口を開いた玉森くんが今日の昼の出来事を話してくれた。

 一緒にお弁当を食べた後、ベンチに座っていると、通りかかった帝大生の会話を聞いてしまったと。それは『話が合わない相手といても面白くない』『池田くんと親しくなりたいやつはたくさんいる』『付き合う相手を選べばいいのに』『同郷というだけで面倒を見ているなんて』というもので、俺と同じ校舎に入って行ったから医学部生だと思う、と。
「私に直接言ったわけではないが、私に向けて言ったものだと思う……。言い返そうにも事実だしなと思ってしまって。その言葉たちが頭から離れないのだ」
 そいつらのことはあとで突き止めるとして。
……玉森くんは本当に馬鹿だよね」
「なっ……! この流れでそれを言うか!?」
「俺がいつそんなこと言ったの?」
……言っては、ないが……お前は正直には言わんだろう……
「玉森くんだけでいいって、言ったでしょ? 付き合う相手は俺が選ぶよ」
「で、でも同窓の者たちとは関係が悪くない方がいいだろう?」
 そんなことを気にしていたのか。
「今だって別に険悪ではないよ。ただの同窓と親しくする必要はないでしょ。俺はそんなやつらより君といる方が楽しい」
「!!」
「そうやってすぐ顔に出て……。あ、ほら、また。むくれないでよ。本当に可愛いね」
「!?」
「可愛いって言うと赤くなるところも、からかうとすぐ怒るところも」
「も、もう、いい! わかった!」
「ベッドの中ですぐ泣いちゃうところも」
「ヤメロ!!」
 金魚みたいに赤い顔した玉森くんの目尻にキスをすると口をぱくぱくさせた。
 俺以外に言われたことであんなに泣いたのは正直面白くない。俺が原因だとしても。

 俺の手で泣かせたくて、二階までの距離が遠くて、形だけの「マテ」を無視した。
 二度とおかしな勘違いをしないようにちゃんと教えてあげるからね。
 俺の笑顔に玉森くんが引き攣った顔でいつもの笑い声をこぼした。