camellia57
2025-12-13 19:47:56
38479文字
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降っても晴れても 君の隣で(川玉SSまとめ 26.5.18更新)

川瀬エンド後の川玉小話まとめ
下に行くほど新しいです
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 ある日曜の朝、珍しく俺より先に起きていた玉森くんが「散歩に出掛けないか?」と言い出した。どこに行きたいのと問えば「上野の公園はどうだ?」と答える。桜の時期にはまだ早いのに。とは言ってもじゃあこの時期にどんな花が咲いているかなんて興味もなくて知らないんだけど。
「実はすでに弁当を作ってある。二人分だ!」と風呂敷に包まれたそれを目の前に差し出されてはダメというのも気の毒に思えてしまった。俺と出掛けたくていつも昼まで寝てる玉森くんが早起きしたのなら嬉しいし。
「いいよ」
「本当か! じゃあ早く着替えてこい! 私はもう準備できてる!」
 玉森くんが犬だったら今尻尾をぶんぶん振ってるんだろうな。
 思わず笑ってしまいそうになるのを堪えて「はいはい」って返事をして部屋に戻った。

 解けそうになってる赤いマフラーを巻き直してあげて、二人で並んで公園を歩く。
 正直寒くて仕方ない。玉森くんも鼻の頭を赤くして冷たい風に目を細めてる。
 こんな寒さの中でもそれなりに人はいて、幼い子どもを連れた若い夫婦とすれ違ったときに玉森くんがぽつりと呟いた。
……私たちはどう見えているのだろう?」
「友人だって君がいつも言っているじゃない」
……もし私たちが先ほどの家族と同じような年頃の子どもと一緒にいても、誰も家族とは思わないだろう? どちらかの子どもか、預かっているのかと思われるだけだ」
…………
「手を繋げば、おかしな目で見られる」
「俺はどう見られても構わないけど」
「お前は有名人だという自覚を持て……!」
 玉森くんはしょっちゅうそう言うけど新聞に数回載ったくらいで大袈裟だと思う。
 まあ、もしそのことで玉森くんに被害が出るようなら考えるけど。
「俺たちの関係は別に知らない誰かが名付けるようなものじゃないでしょ。どう思われたっていいじゃない。変な目で見られたっていい。そんな他人の目を気にするより俺は君と手を繋ぎたい」
「お、前は……
「なに?」
「偉くなりたくないのか?」
「? 何の話?」
「大学病院の医者と言うのは独り身のままでは出世しにくいのだろう?」
「? なにそれ?」
「この間取った電話でお前宛に紹介状を送ったという連絡を受けたときにそのようなことを言われたのだ。悪い話ではないから受けてみるように言ってくれないかと」
 紹介状……? あぁ、差出人を見て開けずに放置してるあれか。
「まあ院内政治争いはあるだろうね。派閥とかね。敵はつくらないに越したことはないけど、そんなくだらないことで出世どうこうは決まらないよ。それに……
「?」
「そのうち帝大附属医院は辞めて開業しようと思ってるから」
「!? き、聞いてない!」
「そりゃあ初めて言ったからね」
「そんな大事なことを黙っているな!」
「別に今すぐ辞めるわけじゃないよ。準備だってあるし。それで、安心してくれた?」
 俺には玉森くんが必要だと伝えているのに素直に受け取れない彼はたまに一人で悩んで間違った答えを出す。前提条件を誤読しているのだから当たり前だ。あと何回伝えたらわかってくれるのかな。
 返事の代わりに玉森くんが俺の袖を引く。
 どうして欲しいのって尋ねようと思ったのに上目遣いで俺の顔を見てくるから、玉森くんの手を取ってコートのポケットに捩じ込んだ。
 一本ずつ指を絡めて、握り締めても文句を言わない玉森くん。
 マフラーに顔を埋めてるけどきっと口を尖らせてると思う。
 その顔を想像するとやっぱりからかいたくなってしまって「ねぇ玉森くん、これ、恋人繋ぎって言うらしいよ?」って少し屈んで耳元で囁けば、ぽぽっと耳も頬も赤くして「ば、馬鹿!」って喚いた。離そうとしてくる手に力を込める。
「顔、真っ赤だよ?」
「寒さのせいだ!」
「へぇ?」
「お前のせいではない!」
「俺のせいなんて言ってないけどね」
「!!」
 落ちこむよりそうやって拗ねたり怒ったりしてる方がいい。
 可愛いなって思いながらころころ変わる玉森くんの顔を眺める。
 すれ違う人たちから俺たちがどう見られているかなんて俺にとっては心底どうでもいいけど、きっと仲のいい二人には見えているんじゃないかって、そう思う。