camellia57
2025-12-13 19:47:56
38479文字
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降っても晴れても 君の隣で(川玉SSまとめ 26.5.18更新)

川瀬エンド後の川玉小話まとめ
下に行くほど新しいです
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 俺にとって食事は楽しむものじゃなくて生きるために必要なことでしかなかった。
 他人の手が触れたものは食べられないから自分で用意するしかない。
 重要なのは死なないための栄養で、食べられれば見た目なんて関係ない。
 腹に入ればどんな形だったかなんてわからないんだからどうでもいいでしょって思ってた。
 味は良いほうがいいけどね。幸いなことに俺の味覚は悪くないらしい。

 そう思っていたけど玉森くんと暮らすようになってから俺にも変化があった。
 玉森くんのご飯は美味しい。玉森くんが作ったものなら食べられる。
 どうやら盛りつけにもこだわりがあるようで、色のバランスがいいと食欲も湧くだろう! とか言って色んな具材が白い皿に乗せられて食卓に並ぶ。
 好きなことへのこだわりの強さはさすがだと思う。それを別のことにも使って欲しいけど。
「食べることへの興味がすごいね」
 そう言うと不服そうに口を尖らせた玉森くんに
「自分のためだけではないぞ」って反論された。
「そうだったの?」
……その、なんだ、お前が私の作った飯を食べる姿を見るのは、まあ、いやでは、ないな」
 つまり、好きってことか。ここで俺が「ふぅん、好きなんだ?」と言えば全力で否定するだろう。玉森くんは意地っ張りだから。かと言って黙り込むと自分の言ったことが恥ずかしくなって慌て出す。その姿も見たいけど。
「どうして?」
「どうしてって……。お前が、旨そうに食うからだ」
「そうなの?」
「そうなのって……。まあ食べているときの顔を自分で見ることはないからわからないかもしれないが、いつも頬が緩んでるぞ」
 そうなんだ。
 つい頬に手をやると、にゃははと玉森くんが笑う。
「その顔が見たいから作っているのだぞ。だから今度銀座にできる洋食屋に……
「連れて行かないよ」
「なにぃっ!?」
 ナンデ!? を繰り返す玉森くんを無視して、さっき言われたことを反芻する。
 一人きりの食卓で俺はどんな顔をしてたんだろう。
 二人と一匹の食卓はたまに賑やかで、俺の顔を玉森くんが嬉しそうに見てくるから俺もつられてしまって。その顔が見たいと言う玉森くんの気持ちが少しわかる気がした。


 寝ている玉森くんの髪を撫でて、起こさないようにベッドから出る。
 なんとなく、玉森くんに手料理を作ってみたくなった。しかしなにを作ろうか?
 玉森くんはオムレツライスが好きだから卵料理はどうだろう。
 玉子焼きなんていいんじゃないか? 調べなくても作り方は大体わかる。
 早速冷蔵庫から卵を取り出して金属ボウルに割り入れる。
 殻が入ったのを取り除こうとしたら砕いてしまった。
…………
 仕方ない。次は砂糖だ。ガラス瓶に入った砂糖をスプーンで掬ってボウルの中に入れる。
 玉森くんが好む甘いやつにしよう。
 割った卵と白い砂糖の塊を菜箸で混ぜて下準備は終わった。
 ガスコンロに火をつけて鉄製の平鍋を温めて、その上に油を薄くのばす。
 厨房に立って気がついたけど、手の届くところに必要なものが置かれていて作業がしやすい。 
 料理しながら玉森くんが色々と置き場所を考えてこの配置になったんだろう。
 愛しいなと思う。
 卵液を流し入れて、火が通ったところで端から巻こうと菜箸で摘んで、破いてしまった。
 掴めるところだけでも折っていこうとして、余計に千切れていく。
 ……バラバラになった薄焼き卵ができた。砂糖が多すぎたのか所々焦げている。
 残った卵液で、もう一度焼いてみるも同じ結果で不格好な薄焼き卵が増えていく。
 これを玉森くんに出したらどんな反応をされるんだろう。
 喜ぶ顔が想像できない。
 気づかれる前に道具を片付けて自分で食べてしまおうとしたところで玉森くんが厨房に入ってきた。これは想定外だ。彼が起きるにはまだ早い時間だと思うけど、それともそんなに時間が経ってしまっていたのか。
「川瀬? なにか作っていたのか?」
 いつもの寝癖をつけたまま玉森くんが歩いてくる。
「こっちに来ないで」
 失敗作が載った皿を後ろに隠して玉森くんに向かって言う。
「な、なんでだ!?」
「いいから」
「料理してたんだろう? いい匂いがするし」
「気のせいでしょ」
 匂いだけよくたって。
「玉子焼きじゃないか? 甘いやつ」
 犬みたいに鼻がいい玉森くんが笑いながら言うけど俺は笑えない。もういいやって投げやりな気持ちになって、
「玉子焼きじゃないよ。うまくいかなかったから。玉子焼きのなり損ないだよ」
 そう言いながら薄い黄色の塊が載せられた皿を差し出した。
 それを見たら絶句するかと思ったのに玉森くんは「川瀬が作ったのか?」って見ればわかることを聞いてくる。
「そうだけど」
「私のために作ったのか?」
「そのつもりだったけど」
 慣れないことはするものじゃないねって言おうとしたのに玉森くんが俺から皿を奪って「嬉しい」って笑った。
 確かに俺は玉森くんを喜ばせたくて作ったけど、これを見てそんな反応するなんて思ってなかったから言葉が出なくなる。
「昨日、私が言ったからだろ? だから川瀬も私に作ってくれたんだろ?」
……お腹壊すよ。卵の殻入っちゃったし、焦げてるし」
「私の腹は丈夫だからな!」


 俺が作った玉子焼きもどきを「美味しい」「甘い」「ちょっとガリガリしてた」って言いながら嬉しそうに食べる玉森くんの顔を見て、自分の頬が緩んでいくのがわかる。作られるのも作るのも嬉しくなるんだったら、二人と一匹の食卓はずっと幸せの色をしているんだろうなって、そう思った。