camellia57
2025-12-13 19:47:56
38479文字
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降っても晴れても 君の隣で(川玉SSまとめ 26.5.18更新)

川瀬エンド後の川玉小話まとめ
下に行くほど新しいです
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「玉森くん、君って誰とでも寝るの?」
 休日の朝に似つかわしくない話題を川瀬に振られ、啜っていた味噌汁を吹き出しそうになる。
「はぁ!?」
「目の前にぶら下げられた餌にあっさり釣られそうだなって」
「え、餌?」
 私は犬猫のような畜生ではないのだが?
「大金積まれたらその相手に靡くんじゃないの?」
「そんなことはない」
 箸を置いて顔を顰めながらそう言うと、ふぅん、と川瀬が細い指を顎に当てる。
「じゃあ俺以外とは寝ないってことでいいよね」
「そ、そうだな……
 何だか川瀬に誘導されてしまった気がするのだが、口角を上げて満足気な顔をしているのでまあ、いいか。
 ご飯を口に運び、味噌汁を飲んで「美味しいね」と川瀬が言う。
 川瀬からの罵倒に慣れすぎて、素直に褒められると何と返せばよいのかわからない。

 そう言えば、共に暮らしてから初めて料理を出したときのことはよく覚えている。
 川瀬は他人の作ったものが食べられない。だから外食をすることはほとんどない。かといって自炊をするかと言えばたまに握り飯を作るくらいだ。せっかく広い台所があって調理器具も充実しているのにもったいない。使ってもいいかと川瀬に聞けば「ちゃんと片付けるならね」と許可をくれた。さて何にしようかと悩んだ結果、ポークカツレツを作ることにした。私が作ったものを食べてもらえるかは分からないが川瀬にはもっと栄養が必要だ。どう見ても痩せ過ぎなのだ。
 厚い豚肉に衣をまぶして油で揚げる。焦げないように気をつけながら菜箸で返していると「いい匂いだね」と川瀬が台所に入ってきた。
「うむ。はじめて作ったが中々良い出来だと思う」
「火傷しないように気を付けて」
 身体が触れそうなくらい近い距離で後ろから中を覗き見る川瀬。
「わかっている。川瀬も食べるだろう?」
 食べるか? と尋ねるか迷った。押しつけがましく聞こえなかっただろうか。
……俺の分もあるの?」
 ないと思っていたのか? 私のことを何だと思っているのだ……
「当たり前だろう? ま、まあ、私が作ったもので構わないのであればだが……
「食べるよ。出来上がりを楽しみにしてるね」
 首筋に唇をあててくるから思わず悲鳴が出た。川瀬はそれを聞いて笑いながら台所を出ていった。な、何だったのだ……
 揚げたてのポークカツレツに千切りにしたキャベツを添えて白い皿に盛りつける。うむ、旨そうではないか。白いクロスの掛かった丸テーブルに並べて川瀬を呼ぶ。
 向かいに座る川瀬がカツレツをゆっくり噛み締めるように食べる姿をじっと眺めていると「そんなに見られてたら食べにくいんだけど」と言われてしまった。
 私には触れられると言うが、潔癖症の川瀬が本当に手料理を食べられるのだろうか。衛生面で言えば店の方がよほど気を付けていそうなものだが。もしも駄目だったとしても落ち込まないようにしようと思いながら自分の分を口に運ぶ。サクッとした食感に肉の旨味がじゅわっと溢れる。
「うまいな」思わずそう口にすると「そうだね」と川瀬が言う。
「本当か?」つい聞き返してしまうと「美味しいよ」と答える。
「む、無理はしなくても……
「してないから」
 気づけば川瀬の皿はほとんど空になっていた。自覚がないだけで空腹だった、とか?
「ごちそうさまでした」
 両手を合わせてそう言われてからも戻したりはしないだろうかと緊張していた。
「ほ、本当に何ともないか?」
「そんなに危険なものを食べさせたの?」
「そうではなくてだな……
 私が何を気にしているかくらいわかっているだろうに。
……手料理を食べたのなんてどれくらい振りかな。本当に美味しかったよ。……また作ってくれる? 材料費はお小遣いに足しておくね」
 懐かしむような目は一瞬で消えて、いつもの微笑に戻る。
「お前はもっと……食べろ。これから医者になるのなら体力も大事なのではないか? そんな細い身体では持たんぞ」
 また「そうだね」と返された。
 その日から朝と夜は私が作った飯を一緒に食べることになった。

「玉森くん?」
 川瀬の声でハッとする。茶碗を持ったまま意識が飛んでしまっていたようだ。
「また何か妄想でもしてたの?」
 呆れた目で私を見てくる。
「いや、お前のことを考えていた」
……は?」
「お前に初めて手料理を振る舞ったときのことを思い出していた」
「あ、そう……
 からかうような言葉の一つでも言われるかと思ったが、それ以上は追求してこなかった。そのかわりに先ほどまでの話題に戻ってしまった。
「玉森くんが俺とだけ寝るのはどうして?」
「あ、朝からする話でもないだろう……
「じゃあ夜まで待ってもいいよ。ベッドの中で聞かせてよ」
 そ、そんなのまともな返事などできるか……!!
 うっ、と黙って軽く睨むと、どうするの? と言いたげな顔で私を見てくる。
「お前が……求めてくるから……だろ、」
「やっぱり誰でもいいんだ」
「ち、違う! か、川瀬だから……
「その理由が知りたいなァ、」
 朝餉を食べ終えた川瀬が、肘をついて私に向かって微笑む。悪い顔で。
 こいつは私に何を言わせたいのだ。お前だからで充分ではないか。これでは足りないのか……
「君が恋人だって認められないならそれでもいいよ。ただ……言葉が欲しくなっただけだ」
 また遠くを見やるような目をする川瀬。
「言葉、って、」
「昨日だって君は行為に夢中になって俺の声なんて聞こえてなかったでしょ」
「!!」
「雨の日でも目の色が変わらないのがその証拠だよね、俺のためじゃないってこと、自分でわかってるんでしょ? そのことを否定する気はないよ。可愛いね、玉森くんは」
「な、」
「質問を変えようか、……俺のこと、どう思ってるの?」
「どう、って……
 流石に私にも川瀬の求めている言葉はわかった。しかし、それを素直に答えてやるのでは面白くない。文士の端くれとしてここはひとつ。
……明日も、明後日も、朝、味噌汁を一緒に飲みたいと思う」
「は?」
 ナニイッテルノ? 川瀬の顔が不機嫌になる。
「わからないのか? 暗喩だ。梅鉢堂で見つけた仏蘭西料理本の中からお前が気に入る料理を見つけたいと思う。そこになければまた別の本でお前に好物を作りたいと思う。……これでも伝わらないか?」
 そうやってお前が好きなものを増やしたいと思う。
 黙り込んだ川瀬が長いため息をつく。
……玉森くんってさぁ、本当に……、」
「なんだ?」
「俺のことが、好きなんだね?」
「!!」
「違うの?」
「そ、そうだが!? やっと、伝わったか!」
 気恥ずかしくて顔が熱くなる。手で顔をあおぐと川瀬がフッと笑う。
「それを言葉にしてほしかったんだけど。まあ、今はそれでいいよ」
 満足げな顔をして川瀬が席を立つ。
「じゃあ今日もお勉強、頑張ろうか。俺のことが好きなら、できるよね? ちゃんと後ろで見ていてあげるからね」
 にっこりと音が聞こえそうな笑顔の川瀬が私の腕を取る。
 遊びの時間は終わりと言うことらしい。

「にゃは、は……