camellia57
2025-12-13 19:47:56
38479文字
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降っても晴れても 君の隣で(川玉SSまとめ 26.5.18更新)

川瀬エンド後の川玉小話まとめ
下に行くほど新しいです
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 長い1週間がようやく終わった。
 居間に灯りがついているのを確認して門をくぐる。
 帰りを待っている相手のことを思い浮かべると口元が緩みそうになるけれど、いつもと同じ顔を作って玄関を開けた。温かい夕食の匂いが漂ってきてほっとする。
 ぱたぱたと足音がして玉森くんが顔を出す。

「ただいま」
…………
「?」
 いつもの返事がない。
「どうしたの、玉森くん」
 玉森くんは口を開けて何かを言いかけてはやめる。
 何がそんなに言いにくいんだろう。俺に却下されそうな頼み事でもあるんだろうか。玉森くんの怠惰な提案をことごとく否定してきたから遠慮している?
 いや、玉森くんはそんなやつじゃない。
 俺にはよくわからない自尊心が邪魔をしているだけなんだろう。
 なんでも顔に出る割に玉森くんの考えていることを見抜くのはたまに難解だ。
 ともかく、このまま玄関に二人で突っ立っていても何も変わらない。
 お腹が満たされれば気も緩んでくれるかな。
 仕方がないから言いやすい環境を作ってあげるよ。

「無理に言えとは言わないからさ。ご飯にしようよ、玉森くん」
「あ、ああ、そうだな。……川瀬、その、おかえり、」
 目を合わせずに玉森くんがそう答えた。

 ◆◇◆

 玉森くんの用意してくれた夕餉は今日も美味しくて、素直に感謝を伝えれば「にゃはは」と笑ってくれた。

 居間のソファに並んで座っていると玉森くんの視線を感じて、「なに?」と聞けば膝の上でぐっと手を握り締めて「と、とりっくおあ、とりーと……?」と問われた。

…………
……し、知らないのか? 甘味がもらえる言葉らしいんだが……
 言いにくそうにしていたのはこれか。横文字に抵抗があったのかな。そんなことより。
「知ってるよ。玉森くんはそれ、誰に聞いたの?」
…………
 答えない玉森くん。つまりは言えない相手ってこと?
 胸の奥がざわつく。
 少し離れた場所に並ぶ二つの傘、伏せられた鑑賞券。
 大好きな甘味がもらえる言葉を教えてもらって、無防備に笑う玉森くん。
 そんな姿が浮かんでは消える。
 嘘をつくなら……

「え、エクレールの、女給に聞いたのだ。そ、その、怠けていたわけではなくてだな、気分転換にエクレールにカルスピを飲みに行ったときに、甘味を配っていて、理由を聞いたら先ほどの言葉を教えてもらったのだ」
 つまり玉森くんは俺に罵倒されたくなくてカフェに行ったことを伏せてたってことか。それくらいで罵ったりはしないけど。
 まあ、良いご身分だね、くらいは言ったかもしれないけどね。

「それ、他の誰かにも言ったの?」
「?」
……水上とかさ」
「どうして水上が出てくるのだ? 会ってもいないぞ?」
「そう……
「それよりも甘味をくれないのか? とりっく、おあ、とりーと、だぞ?」
「玉森くんさ、それで菓子を貰ってたのって、小さい子どもだけだったんじゃないの?」
「!!」
 図星だ。
「そうだろうと思ったよ」
 わかりやすく残念そうな顔をする玉森くんに「じゃあ目を瞑ってくれる?」と言えば素直に従った。こんなに簡単に俺の言うことを聞くなんてやっぱり玉森くんは根が正直者なんだろうな。俺はそうはなれそうもないから、玉森くんの唇を指で撫でて、口付けた。
 驚いて目を開けた玉森くんが真っ赤になっている。ただ触れるだけのキスなのに。
「!?」
「甘いのが口に欲しかったんでしょ?」
「〜〜!!」

 抗議の視線を無視して気まぐれに買った洋菓子を鞄の中から取り出せばあっという間に機嫌が直った。食べ終わった頃に俺も例の言葉を口にしよう。

 お菓子がなければどうなるのか玉森くんは知らないみたいだから。
 幸い明日は二人とも休日だ。どれだけいたずらしても、構わないよね?