camellia57
2025-12-13 19:47:56
38479文字
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降っても晴れても 君の隣で(川玉SSまとめ 26.5.18更新)

川瀬エンド後の川玉小話まとめ
下に行くほど新しいです
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「もしかして、フミさんのご主人、煙草を止めたんですか?」
 馴染みの八百屋のおかみにそう声を掛けるとニコニコと笑いながらこちらを向く。
 共に店先に立っている旦那からここ最近臭いがしないことが気になっていた。
「あらタマちゃん、わかっちまったかい? どこで聞いたのか知らないけど身体に悪いとか今更言い出してねぇ。知り合いが肺を悪くしたのもあってここひと月くらいは吸ってないみたいだよ。まあ、いつまで持つことやらってあたしは思ってるけどね」
 信用がないのか期待していないのかそう言われた旦那は苦笑いをしている。
 大根をおすすめされたので今日の夕餉はぶり大根に決まった。

 煙草が身体に悪いことは私でも薄っすらとは知っている。
 そもそも、あんな煙たいものを身体の中に取り込むことが健康上いいとはとても思えない。
 周りの空気も汚すと言われているし。
 しかし嗜好品でもあり中毒性のあるそれを止めさせるという選択肢が私の中になかったことに気がついてしまった。私ではなく川瀬のことだ。
 一般的な喫煙者が日にどれくらい吸うものかは知らないが川瀬の消費本数はさほど多い方ではないと思う。本人も煙草を好んでいるわけでもないらしいし、
 しかし毎日吸っていて手放せないとなればそのうち依存していってしまうのではないだろうか?
 身体に有害なことくらい川瀬はわかっているだろう。素直に止めて欲しいと言ったところで聞き入れてくれるとも思えない。今すぐでなくてもいいがどうしたら禁煙してくれるだろうか……
 何か取引として使えるような、川瀬にとって禁止されて困るようなものはないだろうか……


 その夜、いつものようにソファに並んで座った川瀬がいつものように口づけをしようとしてくるのを手で制した。私がそうするのは珍しいことではないので川瀬は特に不満げな顔にもならない。
 しかし今日の私の決意は固い。
「し、しない」
 はっきりとそう言うと川瀬が首を傾げて尋ねてくる。
「どうしたの?」
……煙草を吸うやつとは、しないと、決めたのだ……!」
「え? 今更?」
 散々してきたのに? と川瀬が目を細める。
 こ、こいつ、本気にしていないな!?
 押せば私が流されると思っているな!? いつもいつも思い通りになると思うなよ!?

「私が苦いものを好まないことは知っているだろう?」
 と言うことにしておく。それらしい理由にはなっているだろう。
「俺だって甘いものは好きじゃないけど?」
 君の甘ったるい味に文句言わないよとまた笑う。
「と、とにかく! お前が禁煙するまでこういうことはしないのだ!」
 これで伝わっただろうと川瀬を見やれば、ソファから立ち上がりテーブルに置いてあるマッチ箱と煙草を手に取った。棄てる気になってくれたのか? と思ったのは一瞬で、
「それじゃあ仕方ないね」
 と言って煙草を咥えてマッチを擦る川瀬。咥えた煙草の先が赤く灯る。
「な……!?」
「俺とキスできなくなってごめんね?」
 こ、こいつ、そんなことちっとも思ってないだろう!! なにがごめんだ!!
「お、お前……!」
「残念だなぁ」
「〜〜!!」
 おかしい、おかしいぞ。こんな流れになるのはおかしいだろう!?
 私がああまで言えば止める選択しかないだろう!?

「川瀬さんの方が一枚上手でしたねぇ〜」
 いつからいたのか蛙男が隣に座って慰めてくる。
「素直に本当の理由を言ったら川瀬さんも考え直してくれるかもしれませんよぉ〜?」
「余計なことは言わなくていい」
 蛙男の頬を掴んで引っ張ると「痛いです〜」と言いながら姿を消した。なんと自由な幻想か。

 煙をふぅっと吹きかけてきた川瀬が「気が変わったら君からしてね」と意地の悪い顔をしながら微笑んだ。絶対にしてやるものかと睨み返すと「楽しみだなぁ」と余裕の顔で返された。


 それからしばらくして私の願いは叶うことになるのだが、川瀬の願いもまた叶うことになり、それをいつ処分しようかと悩みが尽きることはないのだった。