河童の皿箱
2026-07-12 21:11:40
54481文字
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多分投稿してなかった文章まとめ(遊戯王)

文章データをひっくり返していたら出てきたものを纏めた。多分古い順。


(没)

 悪しき魔王は討ち果たした。世界には光と平和がもたらされ、民草はリュートやハンドドラムをかき鳴らしては、日々日々祝宴と祝杯に満たされた生活を送っていた。
 王に招かれ、勇者は世界を救ったのだと喝采を浴びる。豪奢な食事、肉の塊にグリフォンを駆る獣人が大興奮でかぶりつけば、隣の魔鉱物より生まれた戦士もまたグラスを傾けた。
 やんややんやと賑わう城と、無礼講の城下と。それらを見渡すコテージに、勇者はいた。ようやく見つけましたよ。そう呟いて、聖殿に仕えし水遣いは勇者の隣に立ち、グラスをひとつ手渡せば、勇者の晴れぬ顔を覗き込んだ。

 勇者はポツリと呟いた。旅路の終焉が来る、と。勇者は顔を伏せたまま、またこぼす。まだ旅をしていたい、と。水遣いはグラスの透き通るワインをくいと傾けた。なら、平和になったこの世界をまた巡りましょう? きっと良い景色が待っているはずです。そんな言葉にも、勇者は釈然としないまま。グラスの中を一気に飲み干し、勇者は水遣いに向き合った。
 見たこともない魔物も、救わねばならぬ街も、もうこの世界にはない。そう考えてしまったんだ。飲み干した分の酔いが途端に回る。足元がおぼつかなくなり、ふらりと揺れれば、グラスが落ちてガシャンと割れては、欠片が飛び散る。水遣いは勇者の手を取り、崩れ落ちそうな体を支えた。

 水遣いはコテージの先の先を、街を囲う外壁の向こうを、はるか遥かな地平線を、じっと見つめた。すると、文字が浮かび上がっては、空へ空へと立ち上っていく。
 花火の弾ける夜空、立ち上る白文字。世界の誰もが花火のみを眺め、けれど水遣いだけは、白文字を追う。長い文字列の次の、短い文字列。その繰り返しを、はて何度見たことか。世界各地から昇る文字を、水遣いはひとり、目で追い続ける。細かな意味そのものはわからないが、水遣いはその文字が創造者たちの名であると知っていた。

 この世界を創りし者たち。
 水遣いは聖殿の教えに、いつしか疑問をいだいていた。聖殿で執り行われる儀によって、創造者たちの世界へと声を伝える。創造主たちはその声に応じて、この世界の救世主たる勇者を遣わす。そう信じていたが、ではこの景色は一体何なのだろう。
 勇者の旅の終わり、それ即ち、世界の終わり。世界の果てから勇者に向けて、温かな暗闇が迫る、迫る。