河童の皿箱
2026-07-12 21:11:40
54481文字
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多分投稿してなかった文章まとめ(遊戯王)

文章データをひっくり返していたら出てきたものを纏めた。多分古い順。


(題名が残っていた。『娑楽斎がセアミンに化粧をするだけ』。読んでうっすら思い出した記憶では、これが初めて書いたP.U.N.K.の話だったはず)

 瞼の上を走る筆の感触。瞼の裏からは暗闇しか見えないが、目の前にいる彼の息遣いは、今にも口笛を吹きそうなほどに軽やかだった。

 彼があの巨大な筆とホログラムを操り、空にウキヨエを描き出すのは周知の事実だが、そんな彼も筆に墨を付け、紙に描くのにも一切の妥協を許さなかった。その延長線か、彼が舞台上で見せる顔の隈取も、指の関節の朱も、自分で施している。今日のは上手く描けた。今日はバランスが崩れた。どうも満足いかない。今日はいつにもましてイカしてる。……舞台袖で何度、彼の化粧に触れただろう。

 指先が撫でる。筆で施した化粧を、指で慣らしていく。ごつごつとした、かたい筆たこが当たる。化粧が崩れてしまったのか、彼は悪いと小さく呟いて、また描きなおす。口を閉じたまま返事をして目を開いた時、自分の顔がどのように変わっているのか、胸が高鳴った。

 そんな彼の化粧に心惹かれて、確か1週間ほど前だったか、化粧の雑誌を購入した。付録についてきた化粧のシミュレーターで自分の顔に投影させて遊んでいた時、彼が控室に戻ってきた。そこから、彼とどんな化粧が似合うのか盛り上がって……いつの間にか、彼が化粧をしてくれる、と。せっかくやるならガチでやろう。研究をしたいからその雑誌を貸してくれ、と。

 唇をまた、別の筆が撫でる。今度は、冷たくて湿っぽい。普段は自分でやっている化粧。人にやってもらえるだなんて貴重な機会、早々ない。

 筆が肌に触れなくなった。それからしばらく。

「よし、出来た。もう目を開けていいぞ」

 鏡に映る自分の顔は、血色を残す程度に白く、目尻や瞼には朱が。そして、唇はつややかに、あでやかな赤に染まっていた。なんだか、ちょっと大人っぽい。
 化粧道具を片づけてきた彼は娑楽斎は腰に差した小さな筆を取り出し、空へと滑らせ、淡い橙色の光を灯し、そしてこちらに近づけた。

ん、よしよし」

 施されたおしろいは、光を強く写しだしまるで面をかけているかのようだ。表情を作り、そして照らし曇らす。

「ねえ」
「ん?」
「似合ってる?」
「当然」
「ん。ふふ」






「今日の舞は、いつにも増して気合入っとるのう」

 隣で手すりに体を預けている男性ワゴンが、つい呟いた。それに、自分も、そして人形と黒子Mme.スパイダーも同意する。
 描き出された龍鱗の放つ、炎のようなきらびやかな光に包まれた舞台。その上に立ち、舞う姿。おしろいの施された顔は燃え盛る光を写し出し、その光と面の繊細な明暗。踊子の柔和な表情にはいつもとは違った雰囲気と、そして足運び、指運びに見える本気と気迫があった。

「セアミン、とっても嬉しそうにしてました」

 先程ひと声かけようと舞台袖へ赴いたとき、セアミンは何度も「似合ってるでしょ」とあの化粧を自慢していた。あのときの顔の、なんと誇らしげで可愛らしいことか。

『ところで楽人はん、そのお顔はどないしたんどすか?』

 そう、ワゴンの顔にも、セアミンと同じようなおしろいが施されている。光を写す白。ほっそりとした糸目から伸びるような朱。そして口紅。一見すれば女性と見紛うほど。

「練習台じゃ。結局あいつが納得したのが開場ギリギリで落とす間も無く、洒落た化粧だったんでのう。そのまま来てしもうた」

 なるほど。ともあれば、セアミンの化粧があれほどうまく行ったのは、ワゴンのおかげでもある、と。

「舞台が終わったら落としに行こうかの」
「せっかく似合っていますのに?」
『今日の主役はセアミンどすさかい』

 舞台にはさらに輝く龍鱗が舞い散る。まるで桜の中で踊るような可憐な姿に、誰もが舌を巻く。触れれば壊れてしまいそうなほどに柔く、けれど鼓のように心を打つ圧巻の舞。
 囃子はまだ、急を迎えてはいない。






「なあ、もうちょっとだけ目を開けてくれここの線が
「む、む、無茶を言わんでくれ。わしはあの子じゃないんじゃ」
「そう言わず頼む!」
「わしが糸目なのは知っておろうに、これ以上はどーしても開かないんじゃあ!」