河童の皿箱
2026-07-12 21:11:40
54481文字
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多分投稿してなかった文章まとめ(遊戯王)

文章データをひっくり返していたら出てきたものを纏めた。多分古い順。



 空に重く垂れる黒雲の間には、稲妻が今か今かと埋もれている。ザアザア降り頻る雨は止む気配も無く、ただ徒らに乾き切った街を清め、流していく。昨日まで舞い上がった塵芥の数々は地に落ちては、雫らと共に河へと向かった。
 しずと目を閉じれば、耳には鐘の音が。説法の如き音色に身を委ねれば、雨の冷たさを思い出し、あぁそうだ、そろそろ春だ。寺院のサラソウジュでも観に行こうか。夏にしかつかぬ花を、咲かせに行こうか。

「娑楽斎」

 微かな、しかし強かな声に目を開く。振り返れば、凛と咲く花が。ふと頬が緩めば、花は小さな毛布をこの肩へと羽織らせた。

「寒そう」

「そうか。ありがとな」

「ん」

 花はどこか満足げだ。共に窓辺に肘を立て、何をするでも無く、雨を眺める。灰色の街は、すっかり黒に召し替えて、その間を人々の色が行き交う。色の軌跡を追えば、どうにも愉快な思いが心を湧き立たせた。
 かた、と自らの足音が鼓動を早める。た、た、たと鳴るそれに、小さくトトトとついてくる。

「上着は着て」

「わかってるって」



 傘をさし、伴の小さな歩様に合わせる。駅の辺りでは人々が忙しなく急ぎ行き交っている。行くあてもなく、ふらふら歩くこちらを抜き去っては、またどこかへと向かっていった。伴に目をやれば、あいも変わらず夢見心地の表情で、人々を目で追いかける。
 駅前の広場に植えられた花々は、寒々しく空からの恵みを享受していく。僅かに跳ねる泥と、葉脈を伝う雨と。ついしゃがみ込んで覗き込めば、そこに小人がいるのではと空想が遊ぶ。まあ、当然居ない。けれど、空の高きどこかで、黒雲はまた一つ、鼓を鳴らした。
 せっかくの大雨だ、少し遠くまで行ってみようか。

 駅舎は人でごった返していた。喫茶の席は全て埋まっていて、行き場のない人々の居場所は無かった。通り過ぎ、いくつかの店の繁盛を見送る。幸い、券売機に列はなく、すぐに2人分の切符を買えた。切符を保存した端末を伴に渡し、大小の傘をこの手に。改札を通り、逸れぬように手を繋ぐ。
 ホームでは項垂れる人々が電車を待っていた。しかし、項垂れるにしても色々ある。端末と向き合う者、音の世界に没頭する者、ただぼうっとしている者、珍しく紙の本に目を通す者。電光を見上げれば、あと2分ほど。多少は空いている列を見繕って並び、同じように滝の音に耳を傾け、待つ。
 アナウンスの後、無音で箱が滑り込んでくる。ゆっくりと速度を落とし、完全に止まれば、扉が開き、また人が出てくる。出る人が終われば、手を引いて乗る。座席は相変わらず埋まっていた。壁を背に立つ伴の前へ立ち、吊り革を握る。
 扉が閉まり、箱はまた無音で走り出す。本によれば、昔電車はガタンゴトンと音を立てていたらしい。ガタンゴトン、ガタンゴトン。映像に残された音を思い返す。ふと、背で隠した伴を覗き込もうとする輩が。偶然にしては、近過ぎる。手で妨げ、睨めば、怯み、逃げていく。何事もなく済んだ。

 次は。次は。声で止まり、声で動き。いくつもの駅を通り過ぎ、次は終点。ぼうと外を眺めていたが、気がつけば車内には自分達と、ちらほらといる程度。止まり、降りれば、だいぶ小雨になっていた。
 改札を抜ける。傘と端末を取り替える。人気のない駅舎を出れば、景色はすっかり様変わりして、昔ながらの割れたコンクリートが出迎えた。駅前のシャッター街は、何者かの落書きにも満たないそれに塗りつぶされ、ゴミが散乱し、酷く汚らしい。指で突けば容易く落ち、何も手入れされていない。明らかに放置された場所なるほど、ここは穴場だ。
 1人頷き、もはや車の往来もない街をぐるりと回る。打ち捨てられたゴミの山と、何を表現するでもなく、戯れにぶちまけられたスプレーの色と。鼓動が早まる。それに釣られて、足も勝手に動き出す。ぱしゃりと波打つ水の音が、さらなる鼓動を呼び覚ましていく。
 シャッター街の片隅に眠っていたのは、小さな社だった。もはや誰が参るでもなく、組み木は朽ち果てようとして、神体が露わになっていた。滝に打たれ、差し込む日に煌めく。そのすぐ真裏には、切れたしめ縄がぶら下がる木。何かをしようと思ったが、生憎、持ち合わせがない。

セアミン」

「ん」

「視察する」

「一緒に行く」

「わかった」

 まず向かうべきは近場の店だ。一時的でもいい、神体を守るものを見繕わねば。次に行くべきは役所。この周辺の許可願いを。心配させるわけにもいかないし、留守にも連絡をいれないとな。

 さぁ、忙しくなるぞ。伴の手を引けば、いずれ来たる花開く日に胸が躍る。
 雲の切れ間から陽が覗く。足元で鳴る雨音に、また鼓動を掴まれる。

 あぁ、だからこそ。