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河童の皿箱
2026-07-12 21:11:40
54481文字
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多分投稿してなかった文章まとめ(遊戯王)
文章データをひっくり返していたら出てきたものを纏めた。多分古い順。
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(確か、ワゴンが全盲だったら、という話だった気がする。没)
街中の雑踏の音。人々の足音に、布ずれの音。アクセサリーがかちゃりとぶつかって、少し離れた場所で誰かがすみませんと呟き、そして自分の周りで止まる。
いつしか読み上げられた小説には、目の前に広がる景色が描写されていたが、自分にはそれがない。目の前にあるのは、うすぼんやりとした光、そして形すらとらえられないほど曖昧な影だけだ。
信号機の音が変わる。修理中でトラックに積み込めなかった筝と手荷物を改めて背負いなおし、眼前を杖でつきながら、ゆっくり歩く。ぴり、と、自分の中の直感が、人々が自分を避けて歩いていると知らせる。曖昧な影にぶつからないように。そして、杖の先にあるはずの目印を見逃さぬよう、集中する。
しばらくすれば、駅に到達したようだった。目的地は、まだまだ遠い。そして、今まで行ったことのない場所だ。ふと、胸の奥に靄がかかる。
…
やはり、誰かについてきてもらったほうが良かったか。いや、いや。まだ諦めるのは早すぎる。立ち止まろうとする足をなんとか奮起させ、もう一度杖をついて歩く。改札の音はあちらだ。駅員から切符を買おう。
揺れも音もない電車の中で片隅を陣取り、手すりをつかむ。
「あの」
聞き慣れぬ声、少女の声か。座席の方からだ。これは、明らかに自分に向けられている。はい、と言葉を返せば、「席、使いますか?」と。ありがたい申し出だが、「いえ。これら大事な物がありましてね。席ではどうにも足りませんから、お気持ちだけ頂きます」と。すると、少女の声は「わかりました」と。その方向に頷き、感謝を伝え、改めて手すりを握る。深入りせず放っておいてくれるのは、心がとても楽だ。
目的地は8駅先。昔は電車は揺れていたらしいが、今の時代はそうではない。次は、次はと流れるアナウンスの中、杖を一度手放して、鞄の中から端末を取り出す。忙しなく乗り降りする足音を片耳に聞き、もう片耳にはイヤホンをかけ、読みかけの本を再生する。
次は、次は。先ほど声をかけてきた、恐らく少女は、降りていないようで、静かな車内と近い距離によって、話声が度々聞こえていた。連れが居るのだろう。
次は。目的地だ。イヤホンを外し、端末と共に鞄に仕舞い、筝を背負い
…
ドアが開くとともに電車を降りる。
「あ、あの!」
先ほどの少女の声だ。先ほどよりも切羽詰まった声で、どうしたのかと振り返れば、ぼんやりとした影がふたつ。
「杖、忘れてます。ええと、手を出してもらっても
…
」
その言葉に、あぁ、確かに。電車が出る前に急いで受け取ろうと手を伸ばす。その手にすっぽりと収まるように、冷たくなった杖が戻ってきた。
「すみません、ありがとうございます」
「いえ、私たちもこの駅で降りますので
…
良かったら、外までついていってもいいですか?」
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