河童の皿箱
2026-07-12 21:11:40
54481文字
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多分投稿してなかった文章まとめ(遊戯王)

文章データをひっくり返していたら出てきたものを纏めた。多分古い順。


(没)

 ふ、と。どうにも妙な気配に、男は目を覚ます。今まで自分が居たはずの廃墟は姿を消し、どこともわからぬ場所に、男は立っていた。身構えつつも周囲を見渡すと、霧に包まれ薄暗い。少し離れた場所にはうねりねじれて天を目指す、立派な針葉樹がひとつ生えている。どこからか、ぽん、ぽん、と鼓の音が聞こえる。悪魔、ではない。天使や神、でもない。あの木のもとに何かが居る。それだけはわかった。

 男は自らをデモンスミスと名乗る。悪魔を狩り、その体を素材に武器を作り上げる鍛冶師である。さて、この奇妙な状況。如何に振舞うべきか。目覚めれば違う場所、どこか現実離れした風景、けれど敵意や悪意、善意といったそれらもない。これは夢なのだろう。ふと振り向いても、どこまでも続くように想える濃霧が遮って、どこに何があるのか見えない。分かるのは、あの松の木だけ。いつも背を覆っている黒き棺は何処へか。向かうなら、丸腰だ。ただ、薄気味悪さはないし……この霧、どうにも心当たりがあるような。鍛冶師は木陰へと歩を進めた。

 そこに居たのは、やはり見覚えのある男であった。まるで空か海かのような、澄んだ青色に混じり込む様々な色の髪は珍しく結い上げられ、書道家の如き衣装も、今はゆったりとした着流しに変わっている。が、鍛冶師は誰と間違うこともなく、「おい、娑楽斎」とその名を呼べば、木陰の男は顔をあげ、驚愕の表情を浮かべた。
 「な、何でお前がここに!?」。狼狽する絵師に、鍛冶師は腕を組んだ。「俺が聞きたいぐらいだ。気付いたらここに居た」。斜に構えることもなく、鍛冶師がそう答えれば、絵師は頭を掻いた。「んで、ここは何なんだよ」。鍛冶師が問えば、絵師は答える。「あー、なんつーか……夢の中? 心の中みてぇな」。歯切れの悪い曖昧な答えに、鍛冶師はいら立ちを見せるも、絵師は「まあ、俺たちゃサイキッカーだからな。不思議なことだってよく起きる。目覚めが来れば、いつも通りさ」。そう、飄々と笑った。これ以上押し問答していても仕方が無いだろう。溜息をついた鍛冶師は、絵師の隣にドカッと座った。絵師の手元には、いつものように画帳と筆がある。こんな何もないところでも絵を描き続けているのかと鍛冶師は呆れたが、その耳にふと、小気味の良い鼓の音に混ざって、どこか心地よい小波の音が届いた。
 しばらく。しばらく、そうして耳を澄ませていたが、どうにも退屈だと、鍛冶師があくびをこぼす頃。絵師はふと立ち上がった。「なあ、せっかくここに来たんだ。起きるまでボーっとしてるだけってのもつまらないだろ? ちょっと遊びに行こうぜ?」と、鍛冶師に手を差し伸べれば、鍛冶師は溜息をついた。「仕方ねぇな」。ぽつり呟いて、ふたりは松の木の下を後にした。