河童の皿箱
2026-07-12 21:11:40
54481文字
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多分投稿してなかった文章まとめ(遊戯王)

文章データをひっくり返していたら出てきたものを纏めた。多分古い順。


(没)

 人々を眠りに誘う柔らかな月光は、空を覆い隠す摩天楼の群れと電光、そして眠らぬ活気に押し戻され、けれど街も未だ空へと達せず、誰も見ぬ暗闇に取り残された。
 月が寂しく見おろす先。増築の終わらぬ大量のビルに詰め込まれたのは、電脳世界へとひきこもるための諸々と、リアル世界であくせくするための諸々。売上高利益高重視の客の取り合い、拮抗勝負。その合間を縫う、黒い髪の男がひとり。扉を開けば昔ながらの小さな鐘がカランと入店を知らせ、店員に予約画面を見せると、料理に夢中な客たちの先へと抜け、中空へと張り出したテラス席に着いた。
 注文を飛ばし、無感情の目をふと外へ向ける。上には首が痛くなるほどの果てなき高みが、下には吸い込まれそうになる底なしの沼が。その間を繋ぎ止めるのは、数多のケーブルと、違法に増築された煩雑なパイプ。粗雑に切り落とされたそれは、宙ぶらりんのまま生ぬるい風に吹かれ、火花を散らす。男はそんな景色をぼうっと眼鏡のレンズ越しに眺め、それからすぐにタブレットを取り出してはペイントアプリを起動させては、目に見える世界をその手で素早く写し取っていく。

 その男、名を娑楽斎と云う。この街においてその名を知らぬ者のない、けれどその素性を知る者もない、芸術集団『P.U.N.K.』の浮世絵師である。伝統芸能による積み上げられた風雅なる歴史に、最新技術による破壊的アプローチを仕掛け、融合と同調を成し遂げたその集団は、利己主義の摩天楼を黒い霧で覆い、制覇するほど巨大で、華々しき龍を召喚し、あっという間に目を集めた。
 召喚といっても、召喚魔法によるものではない。黒い霧の中に、プロジェクターを大量に仕込んだ、サイバネティックスの末裔たる絵筆を、青い髪の男はその逞しい腕で見事に操り、華々しき龍を描いたのだ。黄金の瞳が人々をぎょろりと射抜き、轟かせた咆哮は、そこに魂があると錯覚させた。男は瞬く間にこの街を光の海へと変貌させ、人々は彼らの世界が生み出す波に呑まれ、そして溺れた。
 ひとつの苛烈なる熱が生まれれば、人々はそれを求めて手を伸ばし、一気に群がる。非捕食者として鬱屈に耐え続ける人の群は、暴食に暮れる捕食者の群れすらもまた引き寄せた。一気に燃え広がった欲求は、欲望までもを大いに煽り、その正体を暴かんと、その熱を利用せんと、その悪徳の中心を絶やさんと、根も葉もない噂を広げては、根無し草の男とその仲間たちを血眼になって探した。
 だが、男たちはコンテンツとしてプライベートを切り売りせず、姿を見せるのは、深く黒い霧の中にて世界を彩るゲリラライブの時だけ。男も、探されている自覚こそあれど、わざわざ正体を晒すつもりはない。故に、舞台上では逆立たせ、鮮やかなメッシュに染め上げた青い髪は、清潔感のあるショートの黒髪に見せ、ド派手なサングラスも今はしまい込んで、モニター搭載型の眼鏡にしている。化粧も隈取を落とし、服装はスーツと、オフィスマンの様な服装を選んだ。いまのところ、この変装で誰かに発見されたことはない。