河童の皿箱
2026-07-12 21:11:40
54481文字
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多分投稿してなかった文章まとめ(遊戯王)

文章データをひっくり返していたら出てきたものを纏めた。多分古い順。


(没)

 中空浮かぶ筆の先、引く色赤青とりどりと。薄靄かかるその中に、男がふたりおりました。1人は筆を持つ男、名を娑楽斎と云い、この町で絵師として日夜東奔西走、引っ張りだこの活躍をしております。もう1人はそんなお絵描きをぼんやりと眺める男、名をファイアと云い、炎の名を冠するとおり、燃え盛るかのような髪が空へと逆立ち、笑うたびにふわり揺れる。この男は特段務めなどはありませんが、絵師の友人にして、絵より飛び出てきた珍妙な存在でございます。
 珍妙な存在といえど、絵師は普通の人間のように接し、友として遊びによく誘っては、その飛び出てきた持ち主への土産や贈り物を考えながら、その日常を共に語り合う仲でありました。今日もそうした買い回りを終えて、とった宿の寝屋の中、絵師の描く水を、ぼうぼう燃える炎が見つめておりました。

 するり流るる清流に、スイスイ泳ぐ魚たち。絵師は滅法、こうした水辺を描くことを好んでおりました。絵師が筆を空へと走らせれば、筆先の光は薄靄に軌跡を残し、瞬く間に魚や流れを掴み取る。完成した生き物たちは仕上がると、同時にツイとバシャンと飛沫をあげて、自由を謳歌する様を。ぼんやり眺める炎は炎らしく、ざっぷりと濡れることを嫌っておりましたが、この静かな水辺は気に入っておりました。そこにあるはずのなかった輪郭を捉えては、あっという間に世界が生み出される光景は、絵の男からすればどこか懐かしさを覚えるものでありました。
 「きっと、俺もこうして生まれたんだろうな」、と。炎がポツリ呟けば、絵師は笑う。「お前にゃ熱烈なファンもいるしな」、と。炎がその言葉にはにかめば、絵師はもっと大きな鱗を描き始めました。その裏に柔らかな蛟の如き腹、グワリ開いた大口に、ギョロリと向いた目が災いを睨めば、絵師の代表作でもある龍が現れ、そしてまた魚たちと戯れては、光る水辺に船出しました。