河童の皿箱
2026-07-12 21:11:40
54481文字
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多分投稿してなかった文章まとめ(遊戯王)

文章データをひっくり返していたら出てきたものを纏めた。多分古い順。


(Privatter+のページを作るうえで載せておく用に初めに書いてたけど消した話だったと思う)

 近頃、駒どもの様子がおかしい。いや、命じた仕事自体は問題なくこなしている。だがそれらが一区切りした後、今まではセルフメンテナンスや見回りをしていたはずなのだが、どこかへ行っているようだった。
 どこへ行っているのかは検討がついている。戦力として有用だろうと連れてきた芸人どもの居場所勾留所だ。あいつらにうろうろされると、碌でもない事ばかり起きる。

 初めの異常は、建築物の派手な装飾だ。最大限にまで効率化を図り、低コストと高スペックを兼ね備えたパライゾスの無骨ながらも見事な景観が、光を遮断する不可思議な霧に覆われ、一夜にして不夜城の如くデコレーションされていたのだ。
 真四角の形状には屋根がつき、屋根の端は目障りなほどに光り、高い塔すらも黒と光に彩られていた。だがそれらの装飾を外そうと触れようとしても触れられず、この手はすり抜けるばかり。

 一体何が起きたのだと、初めは理解できなかった。パライゾス中を飛び回るあの忌々しい紫色と、そこから伸び続ける色を認識した時、奴らが『P.U.N.K.』と名乗る芸人どもが、パライゾスを作り変えてしまったのだと直感した。
 すぐにフェンリルに命じて捕らえ、怒りをあらわにすれば、「つまらねぇの」と愚痴を吐き、パライゾスじゅうを覆っていた黒い霧が晴れ、装飾はすべて姿を消した。

 と思っていたが、また次の日もパライゾスは黒い霧に包まれ、不夜城と化していた。しかも、今までなにもされていなかった場所までも装飾されていて。またとっ捕まえて叱れば、やはりつまらないとばかり愚痴り、霧は晴れそして翌日も同じ景色が広がっていた。
 さすがに勾留した。こいつらと真面目に付き合っていると、目も頭もおかしくなりそうだった。文句が噴出したが無視した。そうしたら、次はどうだ。
 勾留所からは何かの楽器の音が聞こえ始めて、いつしかフェンリルやユニコーン、オーガをはじめとしたパライゾスの住民たちが勾留所に集い、仕事の合間に耳を傾けるようになった。仕事中に僅かに歌っている駒どもが出始めた。
 檻の中の餓鬼がちょこまかしているのを眺めるようになった。仕事中に僅かに足踏みをする駒どもが出始めた。
 時折、何にもならないゴミを勾留所に投げ入れては、ゴミがカラクリになっているのに感嘆の声を上げては、見よう見まねでカラクリを作ろうとする駒どもが出始めた。

 一体何が起きているのか、未だに理解できていない。理解が追い付かないのにも腹立たしく、とはいえ奴らを勾留所から出すのも負けた気がして嫌だ。何より、奴らは戦いとなれば、初めの見立て通り、それなりに戦力になる。……戦いの場でも延々とふざけ続けているが……

 そしてずるずる時が過ぎて今、仕事を終えた駒どもは黒い霧の立ち込める勾留所の前に陣取っている。
 物陰から様子を窺えば、檻の合間から光る小さな筆がくるりくるりと色を散らかしていた。色は駒どもの輪郭を捉え、煌めく角を描き出した。描かれた角は動く駒どもの体に遅れず追従し、それぞれ描かれた装飾を見せ合ったりで……浮かれ切っている。

 ため息をひとつ吐いて、檻の前に立つ。こちらに気づいた駒どもがいつものように道を開けるが、あちこち飾り立てられていて、血のように赤い装甲がもはや埋もれてしまっている。檻から伸びる腕と筆を掴み取れば、そいつは実に腹立つ顔で笑っていた。

「おっと、将軍サマがおいでなすった」

「貴様、ふざけるのも

「ふざける? いいじゃねぇか、ちょいと合間に御洒落したって、誰も咎められねぇよ」

 なぁ。唇を尖らせて、駒どもを見る。巨大な体躯を持つ駒どもは、互いに顔を見合わせて、しかし何も言わない。そして、こちらの視線とも合わせようとしない。

「なあ将軍サマ、手が痛ぇから放してくれよ」

 一体どう言い返せば良いのか、全く分からない。いつもそうだ、こいつは娑楽斎とやらは、こちらが何かを言えば鼻で笑って、のらりくらりと正確には答えないまま。
 一度、手を放してやる。檻の中にいるこいつの仲間どもは、碌に危機感を覚えず、それぞれの道具の手入れをしていた。

「ふー、ありがとよっと」

……

「その眉間の皴、せっかくの男前が台無しだぜ?」

 口が良く動く男だ。苛立って睨むが、サングラスとやらに阻まれてその目まで届かず、こいつの口がへらへら笑うばかり。だが、もはや反論する気力もなかった。
 駒どもがこいつらにうつつを抜かして働かなくなったらどうする気なのか。そう言おうと口を開いて、ふと気が付く。こいつらが来てから、パライゾスの拡大は妙に早くなっている。
 当然、新たな駒を作り上げたから、もある。だがそれ以上に、作業効率は格段に向上していた。なんとか頭を回して作業効率の下がった箇所を探すが、見つからない。これでは文句のつけようが無い。

『主人よ』

 ユニコーンの声に振り向けば、俺と同じように檻の前に立ち、一度装飾を消してくれと言った。娑楽斎はその通りに、ユニコーンへと施した派手な装飾をひとつずつ消し、見慣れたいつもの姿に戻る。そうだ、それでいい。そのままでいいのに、駒どもは言った。

……己でも分からぬのです。気が付けば彼らのもとで、彼らの色を眺めてしまう。彼らの音を聞いてしまう。ここへと足が向かうたびに、胸が弾むのです。……主人よ、これは一体何なのです?』

 知るか。そんなもの不要だ。俺はただ本物であればそれでいい。だから偽物どもを駆逐する。パライゾスの全てはそのためにある。駒どももわかっているはずだ。なのになぜ、こんな場所で、こんな奴らに。

「そりゃきっと

「黙れ。これ以上口を動かせば、首を掻っ切るぞ」

「はいはい。将軍サマの仰せのままに。じゃあ、今日は終いだ」

 手にした筆を腰の機械に差し込めば、ふっと黒い霧は消え去る。それと共に、駒どもが浮かれていた色鮮やかな装飾も消える。奴はひらりと手を振って、また檻の奥へと座り込んだ。駒どもも散開していく。……これでいい。



 翌日。勾留所は黒い霧に包まれ、行列ができていた。しかし、この頭では奴らに有効な文句が思いつかず、道具を取り上げて強引にやめさせれば戦力になる事すらやめた。そしてパライゾスの作業効率が落ちた。頭の痛い日々が続いた。
 奴らを勾留所から出し、代わりにふざけてもいい時間を決めた。夕暮れ時から眠るまでの時間だ。仕事中は勘弁してくれと。あぁそうだ、俺は奴らに負けた。根負けした。奴らはこの命令は実に素直に受け入れて、それ以外の時間はパライゾス各所の手伝いをした。飯も作った。今まで食べたことがないほど、味がある飯だった。
 奴らの持つ技術力はパライゾスにはなく、高度で、そして何より、認めたくはないが確かに、確かに役に立った。役に立ってしまった。徐々に飾りが増えていくパライゾスを見て、俺は何度も、頭を抱えた。




 あれからしばらく。非常に腹立たしいことにヴィサスに敗北し、我々が統合され、奴が転生を成した後。ヴィサスの内側に生み出されたパライゾスに、何故か奴らが、P.U.N.K.が、当然の如くパライゾスに居座っていやがった。

「何で居るんだよ!?」

 思わず口走ってしまった。そして娑楽斎は言った。

「サイキッカーだからな!」

 クソほど腹立つ笑顔で爽やかに答えやがったが、まるで答えになっていない。おい待て、セアミンもディア・ノートとやらも、ワゴンもスパイダーも何を当然のことを疑問に思ってるんだみたいな顔をするな。やめろ、俺を憐れむな。
 このままではペルレイノもライフォビアもカラリウムも、奴らの色に染め上げられてしまう。などと危機感を抱いたのも束の間、レイノハートもライヒハートもリウムハートも、奴らを歓迎してしまった。俺が作ったはずの駒どもすら、もはやヴィサスを主としてつき従っている。肝心の無感情野郎は感情を取り戻しやがり、この現状を面白がって追い出そうともしない。
 まさに孤立無援だった。P.U.N.K.の連中は、あの時の命令を覚えているのか、夕暮れから夜にかけての時間だけふざけ散らかし、あとの時間は休むか、休んでなかったら景色を見るなり散歩をするなり、何かを書きながらうんうんうなるなり、別の心どもに絡むなりしていた。ちくしょう、人の気も知らず楽しそうにしやがって。

 ヴィサスが感情を取り戻し、統合されて以降、俺の中にも様々な感情が芽生えるようになった。初めは戸惑ったが、どういう感覚なのかを伝えれば、奴らP.U.N.K.はその度に感情の名前を俺に伝えた。感情を解することは、ここに住む誰よりも、そしてヴィサスよりも、分かっていた。そして奴らがふざけ散らかすのは、心の中に生まれた形の無いものに形を与えているのだと知った。それを、芸術というのだと。
 理解してしまいたくなかった。興味を持ってしまった。自分の心の動きに苦しみながらも、なんだかんだP.U.N.K.からは目を離せなかった。何をやらかすかわからないから見張ってなくてはならない、その心の片隅で、今日は何をやらかすのだと楽しみにしている自分に気づいてしまった。あの時、駒どもが訴えた感情を、俺も持ってしまった。これ以上頭痛の種を増やさないでくれと願うも空しく。

 今、俺は娑楽斎とリウムにおもちゃにされている。娑楽斎のデカい手に俺の右手が掬われ、為すがままに爪を磨かれている。傍らにはリウムが選んだと得意げに見せてきた紅色の小瓶。娑楽斎の私物らしい。こいつ、まさかこのガタイで爪を塗るのか? いや、よく見なくてもこいつ、化粧をしていたな。……そうか。
 真剣な眼差しで野郎の爪を磨くごつい狂人に疑問を抱き、自己解決しつつ、俺はとうに抵抗を諦めた。リウムがレイノの爪を羨んでいたのはわかる。だが、俺を置いてけぼりにして2人で盛り上がるな。

なんで俺にやるんだよ」

「だってほら、僕実体がないから爪を磨いてもらえないんだよ。良いなぁライズ」

「レイノは」

「『僕は僕なりの美しさがあるんだ、一緒にするな』って言ってやらせてくれなかった。あ、でもコレクションは見せてくれたよ」

ライヒは」

「ヴィサスとのおしゃべりに忙しいみたい」

……くそっ」

「まあまあ将軍サマ、そう気を悪くしないでくれよ。やる以上はいつもどおり、ちゃあんとびっくりさせてやるからさ」

 大体なんでもやってくれるワゴンにこいつを引っぺがしてくれと頼んでも、あの穏やかな顔で「無理だ」と断ぜられるし。同じくセアミンに助けを求めても「諦めるのが一番早い」とばかり。スパイダーに至っては一切取り合ってくれない。それでも気の赴くままやらせてみたら案外、事が上手く運ぶ。これまでさんざん見てきた。積み上げられた実績があるが故に、とうとう拒むに拒めなくなってしまった。
 現に、筋張った手から想像できぬほどに繊細に、丁重に、やすりがかけられていく。磨かれる端から爪は艶めきを帯び、リウムが感嘆の声を上げた。全て磨き終えて洗い、タオルで水気をとれば、驚きを禁じ得なかった。爪は、磨くだけでこんなに綺麗になるものなのか、と。

……っし。第一段階終了っと」

「は?」

「将軍サマの左手はそれだからな、右だけやる。これからベースコート塗るぞ」

「ライズ、これからが本番だよ」

 これで完成ではないのか? いや、確かに紅は塗っていないが
 呆気に取られていれば、今度は透明な液体が入った小瓶が出てくる。

「ネイルの大御所、ヘルモスブランドのベースとトップだ。短くても1週間は持つぜ」

……待て、その、なんだ。どういう意味だ?」

「ベースってのは爪の保護と色の土台にするやつ。んで、こっちのトップは、付けた色が剥がれないように保護するやつ。ちゃんとトップ塗ってれば、ベースがダメになるまで物によるけど、こいつは手に入りやすくて値段はそこそこ、2週間くらいは持つ。高級品ならひと月以上持つ奴もあるな」

……そうか」

 リウムがうんうんと頷く。こいつ、本当にわかってて頷いているのか怪しいな。
 ともあれ、娑楽斎はベースとやらを塗っていく。爪を塗るのは初体験だが、やはり手際が良い。爪の先がひんやりと冷たい。次に塗り広げられていく紅色が、今まで意識して眺めたことすらなかった爪を彩っていく。
 今まで理解したいとも思わなかったことを、少しずつ知っていく。その度に、何か、何かが、自分の中で変わっていく。こいつらのある種傍若無人な振る舞いから得た知識を持つことは、果たしてこいつらの色に染まるということだろうか。ならば、こいつらの色とはなんだ。真っ先に思い浮かんだのは黒だ。だがその黒は決してシンボルではない。ただの土台に過ぎない。だが、どれか一色に絞れるほど、P.U.N.K.は単純でもなかった。

 逆に、俺の色とはなんだ。俺は、赤が好きだ。理由はわからないが、ふと気が付いた時から、赤を好んでいた覚えがある。だから、駒どもも赤く塗ったし、パライゾスも赤く塗った。その赤に極めて近い赤が、爪に乗せられていく。訳も分からずこいつらのおもちゃにされているが、自分が赤に染まるのは、どうにも悪い気はしない。
 思い返せば、奴らと付き合ってて最も腹が立ったのは、パライゾスに無許可で色をぶちまけられたことだったかもしれない。いや、今でも腹が立つことはあるのだが、あれだけは頭に血が上って、どうしても許せない気持ちのほうが強かった、気がする。今となっては、証明する手段もないのだが。

 ふと気が付けば、全ての爪はぬらりとした赤に染まっていた。筆の扱いに慣れているからか、それとも化粧に慣れているからか、その両方か。素人目では不都合を感じない。じっと乾くのを待ち、最後にトップを塗り、更に乾くのを待つ。
 浮かんでいるリウムの目が、いつも以上に輝いている。リウムには実体がない。だから、興味を持っても爪を塗れない。ちら、と自分の左腕を見れば、その気持ちが、分かるような、分からないような。
 奴らP.U.N.K.と出会った頃の自分と比べれば、随分変わったものだ。その変化が良いものなのか、悪いものなのかはわからない。ただ、変わったのは確かだ。
 赤い爪を眺める。あの体格に見合わぬ出来栄えに腹が立つが、頭に血は上っていない。

……手入れは、どうすればいいんだ?」

 ぽつ、と呟けば、娑楽斎は教えてくれた。なんだ、案外簡単そうじゃないか。ついでに、今使った3つの小瓶も持って行けと。

「今に見ていろ。貴様より上手く爪を塗ってやる」

「ほぉー言うじゃねぇか将軍サマよぉ。じゃあ今度は俺の爪をやってくれよ」

「ふん、良いだろう」

 レイノはこういうのにはうるさいし、どうせ付き合わないだろう。腹いせにライヒを実験台にしてやる。






 それからしばらく。爪を磨くのは存外難しいと知った。少しでも磨き方を失敗すれば、しばらく残る傷がつく。磨きすぎるのも危険だ。形を整えるのにも、どういう形がいいのかまでは分からない。ライヒの爪と俺の爪では、勝手が違うこともあった。
 娑楽斎に直接言うのはどうにも気が進まなかったから、代わりにワゴンに聞いた。爪に関するいくつかの本を持ってきたから、それを読んで自分なりに研究を続けた。あの日パライゾスに受けた屈辱を、奴の爪に返すために。
 そんなある日、リウムはいつも以上に上機嫌だった。何事かと聞けば、「娑楽斎が僕の爪にも塗ってくれたんだ!」と、実体のない爪を見せつけられた。確かに、カラリウムの花のような、淡い色に塗られていた。どうやって塗ったのだ。
 「爪を磨いたり、ネイルをするのは出来なかったけど、僕に合わせて動くように描いてくれたんだ!」と。「でも、3時間ぐらいが限度だって」と。

 俺がおもちゃにされていたあの時間は一体何だったんだ、と思うとともに、リウムの手にかかる黒い霧に合点がいく。この霧が無くなったら、この爪ともお別れなのかと。
 ……いや、感傷に騙されんぞ。俺がおもちゃにされていたあの時間は何だったんだ。