河童の皿箱
2026-07-12 21:11:40
54481文字
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多分投稿してなかった文章まとめ(遊戯王)

文章データをひっくり返していたら出てきたものを纏めた。多分古い順。


(『御巫舞踊部類分』を書き始めて、没ったものだった気がする)

「フゥリ、悪い子になろう」

 2人のセアミンがまた里を訪れ、私やハレやニニが彼女たちの編纂を手伝う。流れ作業としてすっかり定着したその合間、御珠の蔵の片隅で小休憩をしていた時、セアミンは突然そう言った。
 普段無口なくせに、何かを言い出す時は突飛もないことを言う。それは、彼女の個性マイペースというか、空気が読めないというか、なんというか。それに救われている節はあるけれどそもそも、悪い子って何?
 聞き返そうとしたけれど、休憩時間はちょうど終わりを向かえ、彼女はまた蔵の書物に向き合う。書を開いては描いてある通りに真似をして、体に叩き込んでいく。もう1人のちょっと大人っぽい方のセアミンは、その隣で目録を確認しながら、書物の内容を機械を使って、『デンシ』にもまとめていく。書物の中には、踊りのことだけじゃなく、その踊りのために作られた音楽や、衣装、それら制作に関わった人々などなど、想像以上にたくさんの情報が載っていた。まあ、その踊りを作った御巫の方針かなにかか、情報が欠けているのもあるけれど。
 ハレとニニは、セアミンたちがもう見た書物とまだ見てない書物を、目次に従って仕分けていく。一旦、悪い子についてはすっかり忘れて、その作業の手伝いに入る。

 御珠も、もっと手伝ってくれたらよかったのに。御剣家と御鏡家は、セアミンたちの舞の記録に積極的に協力していて、総力をあげて蔵の書物をひっくり返しては、蔵を整え、目録を先回りして作っていた。そのおかげでそちらの編纂は順調に進んだのだけれど、御珠家は立入と閲覧と記録の許可しか出していなくて、お世辞にも協力しているとは言い難かった。
 御珠家に言いたいことはたくさんある。でも言っても無駄だってのも知ってる。今までと違うのは、そんな心を押し殺さざるを得なかったところに、セアミンという逃げ道ができたことだった。

 未区分の書物の山はだいぶ小さくなり、今日1日頑張ればもうなくなる。これがなくなったら、セアミンは里へ来なくなってしまうんだろうか。

 それは嫌だなぁ。

―――

「大事な話。明日はお休みするから、お手伝い無くても大丈夫。明後日に、仲間たちが来る」

「仲間?」

「うん。書物には音楽や衣装があったでしょう? そのことを話したら、すっごい興味を持ってくれて。予定の都合もついたし、それぞれの専門家にお任せしちゃおうって思うの」

 一体、どんな人たちだろう。セアミンは多くは語らないから、今知っているのは、浮世絵師と雅楽師と人形師である、ということくらい。確かに、挿絵があれば舞がわかりやすいだろうし、音楽も私たちにはさっぱり。彼女たちのいう通り、専門家に任せられるのなら、その方がいいだろう。

「そっか。じゃあニニ、明日の稽古終わりどうする?」

「明日は明後日のお祭りの準備があるでしょ。手が空くのなら、そっち手伝いに行かないと」

あ、そうだったっけ。ここに来るのが癖になっちゃって、つい」

 お祭り? そんなの初耳だ。御珠には関係のないことなんだろうか。それとも、大人達が黙っているだけなんだろうか。ただの想像に過ぎないはずなのに、どうにも頭は勝手に考えを巡らせては、この胸に重い影をよりかからせる。

「ハレ、ニニ。お祭りのこと、詳しく聞きたい」

「んーと、現役の御巫は祭りの当日の朝から、太陽が真上に来る頃までは禊。その間に御神酒や奉納するものの準備をして、お昼になったら陽が沈むまで御巫たちが交代して舞を奉納するんだ」

「そうね、ご先祖様に頑張ってるよって見てもらうお祭りなのよ。そうして頑張りを見てもらったら、夜はたくさんのお店が並ぶの。大人達はお酒を飲んで酔っ払ってるし、子供達はお店で大はしゃぎしてるしで、どんちゃん騒ぎしてる。そんな感じかしら」

「うん。御巫も禊の最中は断食するけど、舞の奉納が終わったらみんなと一緒に色々食べていいんだ。今年もあのお蕎麦屋さんやるかなぁ」

「あそこ、美味しかったもんねぇ」

「ふふ、楽しそうなお祭りね」

 そんな話を聞いていると、やはり胸の奥がちくりと痛む。こうして一緒にいるけど、あぁ、1人なんだ、って。