河童の皿箱
2026-07-12 21:11:40
54481文字
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多分投稿してなかった文章まとめ(遊戯王)

文章データをひっくり返していたら出てきたものを纏めた。多分古い順。


(たぶん[Realiz E ation]を書き始めようとしたときに、初めに書いて没ったが、そこそこ書いたので惜しくて消さずに残していたものだったと思う)

 僕の家の、僕の部屋。ここは、同時にファイアの部屋でもある。コミックスがいっぱい並んだ本棚に勉強机、ベッドが2つ。母さんが整えてくれた部屋だ。
 今のところ刊行されている全てのFire Starterをシャラクサイさんに読んでもらえた。全部黙読で、しかもすごい速度で尚且つ、内容もほとんどしっかり覚えていて。パワフルさに相変わらず驚かされた。で、それは僕が勝手に押し付けたわけじゃなくてシャラクサイさんからのお願いだった。
 シャラクサイさんは、描いた絵を実体化させられる。そして、ファイアは突き詰めてしまえば実体を持った絵だ。似ているように思えるけれど、この2つには決定的な違いがあってそれが、実体化の持続的にエネルギーを支払っているか否か。
 シャラクサイさんが絵を実体化させる場合は、実体化を維持するためにシャラクサイさんのエネルギーを使って、絵に供給し続ける。でも、ファイアが実体化してからずっと、誰がそのエネルギーを使っているのか、供給しているのかがさっぱりわかっていない。今回の事件というか、シャラクサイさんの気絶の原因を知ってから僕も初めて考えたけど、僕ってわけでもなさそうだし。
 で、エネルギー切れで気絶してしまったのもあって、何か参考にできることがあればとシャラクサイさんが。そして、ファイアのことを知れるいいきっかけになるかもとこちらからもお願いして、ここに来てくれたのだ。というのは尤もらしい建前で、単に好奇心とオタク心の利害が一致したと否定しきれない。
 扉がガチャリと開き、ファイアがFire Starterの姿で入ってくる。

「これでいいのか?」

「おぉほんとにFire Starterだ」

「ね、ね! カッコいいでしょ!」

「あぁ。めちゃくちゃカッケェな

 普段はこちらの世界に馴染むような服装で過ごしてもらっているけれど、やっぱりFire Starterといえばの彼の服装は、当然ながら似合っていた。
 シャラクサイさんは、じーっとファイアを見る。顔をまじまじ見て、背中側にも回って、しゃがんで見て

……そう熱心に見てくるの、コイツだけじゃねぇんだな」

すげぇな。本当に本の中から出てきたのか? 元の作品から写実的ってわけじゃねぇのに、こうして立っててなんの違和感もない。絵らしいところもさっぱりわからんなあ、触ってみてもいいか? 嫌ならやめろって言ってくれりゃあやめるからさ」

「おう」

「んじゃ失礼して

 そう言って、シャラクサイさんはファイアさんの手を取った。ナックルを、関節から何からまじまじと見ていく。次に、顔に手を当てる。顎を触る。首筋に当てる。ファイアはむず痒そうにしているけれど、なんか、お医者さんの触診を思い出した。

……人だ。体温がある。骨がある。血が流れてて、脈もある。武器も描き込まれた通りで、ちゃんと重さがある」

「アンタが描いた絵にはないのか?」

「あのドラゴンにも触感や温度はあるが、そうじゃなくてな。俺が描くのは人じゃねぇんだ。俺がいくらでも描けちまうから、怖くて人物画を実体化したこたぁねぇんだよ。お前さんみたいに人格を持っていた場合、どう関わればいいかわかんねぇしな」

確かに、そうかも」

 初めてファイアと出会った日のことを思い出した。あの日は、憧れの人が目の前にいる喜びに、非現実的なことが起きた驚きに、これからどうするべきか全くわからなかった焦りにすごく、感情が忙しかった覚えがあった。
 続けて、服にも触る。装飾にも触る。もう一度、ぐるっと全体を見て

「よし。俺を押してみてくれ」

「おう」

 ファイアの握り拳が、シャラクサイさんの手と相対する。ぐ、とファイアが力を込めてシャラクサイさんの方向へと進み始めれば、シャラクサイさんはずりずりと押し込まれる。

「力強っ!」

「ヒーローだぞ? こんぐらい朝飯前だっつの」

「っ、OK、OK! もう十分だ、力抜いてくれ!」

 ぴたとファイアは止まって、拳を下ろす。シャラクサイさんも結構ムキムキだけど、それでもファイアの方が力強いんだな。

「ふー筋肉の動きも人と同じみてぇだな。なあ坊主、ファイアは飯は食うのか?」

「あ、食べます。毎食ちゃんと結構食べるよね。イメージ的にはスポーツマンみたいな感じです。動く日は動く分食べる、みたいな」

「腹減るしうめぇからな」

「そのイカした体を維持するんならそうか。風呂は入るか?」

「はい。お風呂っていっても、シャワーですけど」

「汗かいたら浴びたくなるな。サッパリする」

「と、こっちじゃそうか。んで、汗もかくし、快いと。病気はしたことあるか?」

「今の所はないよね。病院にかかったことはないです」

「ふむ。んじゃファイア、坊主が具合悪そうな時、お前さんが具合悪かったとかは?」

「んーいや、全く。それに体調不良でダウンしたら、ヒーローなんてやれねぇぜ?」

「なるほど、尤もだ。んー……ともなれ、ば。よし、坊主。こいつが出てきた大元のコミックは見てもいいか?」

「あ、はい。これです」

 いつも持ち歩くリュックから、表紙に文字しかないコミックを取り出して、シャラクサイさんへ渡す。パラパラとめくる。何度もページをめくり、また戻し。そして、シャラクサイさんの表情が曇った。

「ふむ。これは俺が考えてたのとちょっと違うな……

「違う?」

「あぁ、俺はてっきり、ファイアは絵が実体化したものと思っていた。だが、それならこの漫画の、こいつがいたであろう場所全てから、こいつがいなくなっている理由がつかない。一度、何でもいいから紙とペンを借りてもいいか?」

「ど、どうぞ」

 勉強で使っているノートと、ペンを貸してみる。すると、シャラクサイさんはページの隅っこに小さく、あっという間に魚を描いた。すごく、すごく上手で、綺麗な魚だ。それを、3ページに分けて描く。ポーズは違うけど、全部同じ魚に見える。

「瞬きせず見てろよ」

 手で魚を覆うすると、魚はひとりでに動きだし、白紙のページが水であるかのように、泳ぎ出した。もう一度魚を手で覆えば魚はノートを飛び出して、空を泳ぎ始めた。

「んで、だ。ほれ」

 そして、1ページ目と3ページ目の魚を見る。泳いでない。

「全部、同じ個体の魚を描いた。漫画に似せて連続性を持たせたんだがもし、ファイアと同じような実体化なら、この魚は全部合わせて1匹の魚として出現し、全てのページから消えるはずだ。だが、そうなっていない」

「ええとどういうことですか?」

「俺は一枚の絵に実体を持たせられる。描いた通りに実体化する。リアルだろうがトゥーンだろうが、どんな絵柄でもな。だが、ファイアは、絵が実体を持ったんじゃない。ファイアという存在自体が実体をもったんだ。例えば、この小さいコマ。元々は指しか描かれていなかったはずだ。もしこれを俺が実体化させたとしたら、指先だけが出現する。でも、ファイアはそれも含めて全部一纏めにして飛び出している。ファイアという人物そのものが、現実へ出現しているわけだ。これは、俺よりももっと高度な実体化言い換えるなら、生物化いや、現実化って言ったほうが良さそうだ」

「現実化

「あぁ。ファイアは最早、ほぼ完全にれっきとした人間になっていると言っていいだろう。それは恐らく、元の漫画でそういう描かれ方をして、一丁前の人間の描写がそれなりにあったからだと考えられる。飯を食って、動いた分腹が減る。それは消化器官がちゃんと働いていて、体の中でエネルギーの循環が出来ている証拠だ。なら、エネルギーをどこから持ってきてるのかも見当がつく。俺や坊主と同じように、ファイアも食った飯からエネルギーを得ているはずだ。で、坊主のコンディションがファイアに影響を与えていない。つまり俺と絵のような関連性を持っていない。ファイアはファイアで、完全に独立した存在だ」

……じゃあ、ファイアはどこか行こうと思えば行けちゃうの?」

「あぁ、何の制限もないはずだぜ。お前たちは、術者と従者みたいな関係じゃあないからな。ただそうなれば、もう一つ気になることがある。ファイアは、誰にでも力を与えられるのか誰でもファイアスターターに変身させられるのか」

 その言葉に、胸がチクリと痛む。それは、僕も気になっていることでもあり、否定してほしいことでもあり。でも、やったことがないのは確かだった。

ファイア」

「やってみるか? 無駄だと思うけどな」

「無駄かどうかはやってみてから決めようぜ。坊主、いいか?」

 ファイアは決して、僕だけのヒーローじゃない。僕じゃなければ、ファイアスターターはもっと強いのかもしれない。それに、ファイアは僕と一緒じゃなくても、どこへでも行けるんだ。
 すごく近いはずの存在が、まるで遠くに行ってしまったかのよう。けれど心の隅では、戦わなくていいのかもしれないそんな逃げが、あって。

「お願いします。僕も、そこはハッキリさせておきたいんです」

 ファイアを知りたい。ファイアの隣に立つのに、相応しくなりたい。
 それが、1番の望み。だから僕は、自分の逃げ道を塞ぐ。


 シャラクサイさんは頷いた。でも、ファイアはあんまり気が進まなそうな顔をしている。

「わかった。んじゃ、俺が実験体になろう。ファイア、頼めるか?」

「はいはい。やるだけはやってやるよ

 ファイアの半身が炎に変わりゆく。シャラクサイさんが、その炎に触れる。そして、ぼうと燃え上がれば全身が炎で覆われ始める。互いに、ひどく険しい顔で。

「っ……これ、は……

「テメっ何だこの水はァ!?」

「オメェが熱すぎるんだろうが! 大体ッおい逃げんな!」

「寒すぎんだよテメェは! 無理だ無理、ぜってぇ無理! 止めだ、止め!」

 変身が進む様子が全くない。ファイアが叫べば、炎がぴたりとおさまった。ふたりして、床に転がって、肩を息して。

だ、だいじょぶ?」

「あっちぃ

「さみぃ

「で、できること、ありそう?」

「ちょちょっくら、待ってくれあっつ

「少年、布団とってくれ……

 要望通りにファイアのベッドから布団を持ってきてかけてやると、のっそりと羽織って起き上がった。少し震えているし、いつも高い体温が、今はどうも冷たかった。

なぁ少年、思い出してくれよ。俺は、人を助ける力を求めたお前の声で目覚めたんだ。そして俺とお前の間に、体と力を貸し借りする契約を結んだのをさ」

ファイア? 契約、って……

 その言葉に、はっとする。そうだ、僕はヴィランに襲われていたあの子を助けたくて、でも僕には力がなくて。そんな時、声がして、無我夢中で縋って。気がつけば、目に前に彼がいた。

「お前が夜に魘されてるの知ってんだぞ。俺がお前以外に力を貸す? ちげぇな、根本的に認識が間違ってる。俺はお前の熱い心によって呼び覚まされた。お前だからこそ、俺は力を貸せた。お前がいたから、俺はここに来られたんだ」