河童の皿箱
2026-07-12 21:11:40
54481文字
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多分投稿してなかった文章まとめ(遊戯王)

文章データをひっくり返していたら出てきたものを纏めた。多分古い順。


(完全に没ったもの)


 ――神々に舞を捧げる少女たちと、その伝統舞踊の行事が観光名所として賑わいを見せている、山間の里。そこには、3つの里がある。伝統を重んじる赤の里、交易を重んじる青の里、そして規律を重んじる緑の里だ。君たちは観光か、それとも別の目的か。この里のうち、観光客を快く迎える青の里の宿を取った。その宿に向かう最中も、行き交う人々はこの地に伝わる伝統衣装に身を包み、舞姫や、それらを支える楽師のような姿で、風光明媚な里を堪能していた。
 さて、君たちは宿につき、予定通りにチェックインし、宿泊のための大きな荷物を置いた。順調以外の何物でもない、旅の一幕。日が傾いたころから始まる祭りは、この里の舞姫達が信仰する、大日女と呼ばれる神へ捧げられるものであった。人々がいそいそと3つの里の中心にある、舞の修練場へと足を向ける。
 さあ、君たちは足早にメインイベントの修練場に向かってもいいし、寄り道をしてもいい。

 襖をとんと閉じれば、時計の針は14時を指している。夕暮れがやって来てから始める祭りに今から向かうのかと、この部屋の客人たちは着替えながら考えていた。「今からじゃ、まだ早いよね」。おおむね、客人たち4人の意見は一致していた。けれど、4人はまだ、この里の地理や店には疎い。インターネットで調べるにも、山間ではどうにも通信が安定せず、頼りにできる程ではなかった。ふと、4人の中で最も背の高い少女が提案した。「女将さんにこの辺りの事を聞いてみるのはいかがでしょう? 私たち、この里のことを良くはわかっておりませんしもし地図などをいただけるのなら、きっとこれからの旅行も楽しくなりますよ」。
 旅行。1週間と、かなり長い期間を取った旅行……という名の、合宿。4人の少女たちは同じ教会、同じ聖歌隊の、それぞれ違う二人一組のユニットである。先ほどの提案を持ち掛けた少女の名はイレーヌ。この4人の中で最も背が高く、そしておっとりとしていて、この4人の中で最も背の低い少女、生真面目なソフィアと共に、唯一神への歌を捧げるものであった。そして、その言葉に頷いたのは、明るく、聖歌隊の太陽とも言える少女、エリスである。「すっごく良い提案! 大賛成!」と。その言葉に、エリスの相方であるステラもまた笑った。「地図を貰えたら、まずは他の人たちみたいにおしゃれしに行きたいなぁ。それに、私たちはまだ、お互いのこともあまり知らないし……あなたたちのことも、もっと聞きたいわ」、と。手早く着替えを終えた小さなソフィアも、きりりとした顔を崩さぬまま頷いた。「ええ。同じ聖歌隊に属しているとはいえ、やはり私とイレーヌのような間柄ではありません。賛成します」、と。
 そうして話が纏まれば、エリスはにっこりと笑った。「なら、決まりね!」。4人の少女たちは、それぞれ必要な荷物を鞄から取り出した。財布と、携帯と……連絡先もしっかり交換している。加えて、ソフィアは「お祭りまでに、もう一度戻るかもわかりませんから」と、懐中電灯を腰にぶら下げた。そんな様子に、イレーヌは笑う。「ふふ、相変わらず頼りになります」と、少し自慢げに。そうして、少女たちは部屋を後にした。

 ――君たちが宿の2階からトントントンとおりてくると、接客を丁度終えた女将が君たちのことを見つけた。君たちがこの辺りのことについて訊ねると、女将は快く答えてくれた。この宿がある通りには、観光客向けの店がずらりと並んでいる。少なくとも、ここら辺で飲み食いや御洒落に困ることはなさそうだ。もしもどこかへ出かけるのなら、弁当を持って行った方が安心だろう。修練場は山の方にある。この山の方へと歩いていくと、緑の里との境目辺りに大きな滝がある。昔々、人を水に引きずり込む大蜘蛛が居たという恐ろしい言い伝えがある。少しだけ足を平地の方へと向けると、そこには田園風景が。しかし今の時期は米の刈り込みも終わり、あるのは刈り終えてひと休みをしている水田だけ。余り見どころもないから、こちらに行く必要はないのだと。赤の里の方には、観光向けの施設というものはないが、鉄鋼業等々、この里の生活を支える大きな道具の生産をしており、時折、こうした技術の見学を目的に訪れるものも居るのだと。最後に、緑の里についても、女将は触れた。けれど、女将の顔色はあまり良くなかった。緑の里は観光客の受け入れには消極的、どころか、厄介にしている節がある。運が良ければそういった人々に会わなくて済むかもしれないけれど、旅行を満喫したいのなら、緑の里に行くのは勧めないよ、と。
 そうして情報を得た君たちは、女将が用意していた地図も手に入れた。里の中心に聳え立つ大きな山の上には、メインイベントの会場である修練場、西に行けば赤の里、東に行けば緑の里。その境目も、しっかりくっきりと記されている。君たちが礼を告げて宿を後にすれば、そこにはまた、自分たちと同じような観光客たちが賑わっている。


 ――君たちが一通り買い物を終えて、すっかりこの里の観光客らしく和の装いに着飾れば、そろそろ祭りが始まりそうだ。舗装された山道と階段を上るか、それとも人力車を使って快適に登っていくか。君たちが額を寄せ合って相談し、ゆっくりゆっくりと石階段を上っていくと、そこには提灯や花飾りで彩られた祭りの会場が待っていた。出店が軒を連ねて寄ってらっしゃい見てらっしゃいと客を呼び、その奥の奥では、社と櫓が堂々たる佇まいで舞の奉納を待っている。まるで土俵のように盛り上がった修練場の舞台の脇には、舞姫達がそれぞれの一族を代表するべく、赤や青や緑や茶の装束を身に纏っているようだ。そんな舞姫達に、観光客たちは群がる。カメラを向け、写真を撮り、喜び勇んで立ち去っていく。緑髪の舞姫が困惑の表情を見せると、青髪の舞姫は立ち上がり、注意を促した。けれど、観光客たちは入れ替わり立ち代わり、可憐な少女たちの写真を撮る、撮る。ストロボのようなフラッシュに、赤髪の舞姫もまた、青髪の舞姫と共に注意を促した。けれどそれも焼け石に水のようで、舞姫達を取り巻く環境は碌に変わりはしないようだった。

 「……なんだか、ちょっと嫌なのを見ちゃったね」。ステラがぽつりと呟いた。あれほど苛烈な歓迎ではないが、舞姫達の境遇は、自分たちにも身に覚えがある。顔も知れぬ相手に写真を撮られるというのは、恐ろしいものだと少女たちは知っていた。けれど、舞姫達が待機する場所があるわけでもないようで、暗い表情をしている少女もいた。
 ソフィアが小さな声で呟いた。「この里がこうした客を受け入れるようになったのは先々代頃らしいですが、ここまで急激に増えたのは、ここ最近だそうです」、と。そして、続ける。「どうやら行事のみならず、奇妙な噂のせいで増えているようです」。
 この里には、古くから伝わる風習や、伝統というものが強く根付いている。観光客向けに整備された区域から飛び出てみれば、里が信仰する大日女以外にも、実に多くの神を祀り、古びた祠が点在している。幽玄なる光景があらぬ噂を呼び、心霊スポットとしての人気がここ1,2か月の間に急激に高まっているのだという。それだけならまだしも、あの写真撮影のように不躾な者もまた、増えているのだと。少女たちは自分たちに重ねて考えてみる。いわば、自分たちが世話になっている教会が曰く付きがと噂が立って、妙な人が集まってしまうようなもの。……この旅行、気が重いタイミングが多いかもしれない。聖歌隊はけれど気を取り直して、神楽を待つ。

 ――月が昇る頃、雅な音色と共に人々が静まり返り、舞姫達が舞台へと上がる。くるりくるりと舞い踊る姿、翻る衣装に、少女たちもまた、見惚れる。神々が光と共に舞い降りてくることはなかったけれど、舞の終わりには大歓声が巻き起こっていた。祭事が終わると、人々はまた、いそいそと石段を下り始めた。分厚い人の壁が出来、少女たちにはこの人波は掻き分けられそうにない。混雑のため、しばらくはここに居るしかないだろう。