河童の皿箱
2026-07-12 21:11:40
54481文字
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多分投稿してなかった文章まとめ(遊戯王)

文章データをひっくり返していたら出てきたものを纏めた。多分古い順。


(こちらも掲載した記憶あり。お題を頂いて書いたはずだが、Privatter+には掲載していなかったらしい)

 「どうしても行きたいところがあるの」。能楽師のしゃっきりとしている方が、片割れであるぼんやりしている方に、そう持ちかけた。端末に表示された先まで一緒についていってみれば、そこにあったのは動物と触れ合えるカフェであった。浮足立つ片割れの様子に、ぼんやり能楽師は少しだけ、ほんの少しだけ、気が引けていた。けれど、片割れの喜びにわざわざ水を差すこともなかろう。ぼんやり能楽師は手を引かれて、そのカフェへと踏み込んだ。

 カフェの柵を通り過ぎれば、そこにはもっふりとした体を持つ大きな獣が3匹と、小さな獣が2匹居た。うきうきとした足取りで片割れは受付へと向かい、ひとまず一時間、ふたり分のチケットを購入した。そうしている間に大きな獣たちは能楽師の足元までふんふんと鼻を寄せ、けれどそれに気づいた能楽師は、ほんの少しの恐れと共に「ええと」とこぼす。そんな様子に片割れはクスリと笑った。「わんちゃんが秋田犬、ねこちゃんが和猫だよ」、と。「そうは、言われても」。きっと立ち上がれば自分よりも大きなその犬たちから逃げるように、そそくさと部屋の隅へと向かう。
 自然を重視したインテリアは、木製のものが多く、能楽師がふうと腰を下ろしたベンチも木製であった。遠くを歩いては此方をちらりと眺める黒猫と三毛猫。能楽師は疑問に思った。一体、何を考えているのだろう、と。隣に片割れが座れば、その足元をまた、犬たちはふんふんと鼻で小突いてくる。しばらく匂いを嗅いだと思いきや、舌をぺろりと出して、2匹は日向へと歩いていった。
 「ねえ」。能楽師は片割れに訊ねる。「ここでは、何をすればいいの?」、と。片割れは答える。「何ってわんちゃんとねこちゃんと、一緒に遊ぶだけだよ」、と。遊ぶ、と言われても。何を考えているかもわからないのに、一体何をすれば遊んだことになるのか。能楽師は幾度目かの当惑を覚えた。そうしている間にも、片割れは残った犬の頭を触ろうと手を伸ばした。けれど、犬は頭上の手を見上げてはその手を避けて、能楽師の後ろを陣取る。そして、また鼻でふんふんふん、と。
 黒く真ん丸な瞳が、振り返る能楽師の目をちらっと見ては、またふんふんふん。何をどうすればいいかもわからず、ただただ匂いを嗅がせてみれば、犬は顔をグイとすり寄せてきた。「あ、いいなぁー」。片割れが羨ましそうに眺めてくるけれど、一体どうすれば。何を求められているのか。ふと、能楽師は思い出す。先ほど片割れがやっていたように、手を差し出してみた。差し出された手を、ふんふんふん。ひくつく鼻が手首辺りまでくると、ふいに、ペロリ、と。粘り気のある舌が指先をそっと舐めた。
 「……味見?」。能楽師が片割れに尋ねれば、片割れは口を押えて笑った。「そんなことないでしょ、ほら、もっと構ってあげてよ」。構う、構う。能楽師は両手を差し出して見れば、犬は両手をふんふん。すると、手に頭突きをかましてきた。その頃からだろうか、犬は尾を大きくブンブン、フリフリ。にっこり笑うかのような表情に、そっと頭を触ってみれば、ふわり、ふわり。もふり、もふり。なんだか、とっても、あったかい。
 大人しく撫でられ続ける犬と、ついついモフモフし続けてしまう自分の手と。おっとりとした犬の目に、素早く振られる犬の尾に、きっとこれでいいのだろう。能楽師は徐々に、犬の気持ちが、少しだけ、ほんの少しだけ、わかる……ような。
 犬の丸っとした顔の形と、真っ黒い鼻と白と茶色の毛。とってもちっちゃなお耳を好奇心で触ってみると、心が不意に弾む。

 「可愛い」。知らず知らずそんな言葉を呟けば、ここに連れてきた張本人は、ふふふ、と笑った。



 ……そんなことがあった夜。能楽師はふと、あのふわふわの感触を思い返していた。両手で包み込むと、まるでこちらが包み込まれるかのような笑顔を返してくれる。ふんふん、すりすり、可愛かった。「……可愛かったなぁ」。そんな能楽師の言葉に、浮世絵師は笑う。「楽しかったか」、と。能楽師は頷く。「わんちゃん、もふもふ。可愛い。……今度は、ねこちゃんとも、遊びたい」、と。けれど、能楽師はどうにも寂しさを覚えた。あの柔らかさ、あの温かさ。また触りたい……。気が付けば手が勝手にその感触を求めては、寛いでいてた雅楽師の頭に、つい飛び込んでいた。