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アスナショウコ
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【創作|馬軸】春雷-極光
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【創作|馬軸】春雷 褪色- 花散りて、なお [了]
七話~最終話です。
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「ああそうだ
……
迅。渡そうと思ってたんだが、タイミングが合わんくてな。これお前宛て」
「ファンレターですか? ありがとうございます」
俺は河口さんからそれを受け取って封を切る。発走時刻まではまだだいぶ時間があるので、目を通すことにした。読み始めて少し経って気づいたが、その手紙は代筆によって書かれたものであるらしかった。差出人は七歳の少女。赤星桜花、という名前だけが彼女の直筆で書かれている。
そこにはフジサワコネクトへの愛があった。フジサワコネクトが好きです、一番ダービーの時のが好き、かっこよくて強いところが好き__。そんな文字が並んでいる。そしてイギリスで勝ってほしい、フジサワコネクトが世界で一番強くて可愛い女の子だと世界中の人に教えてあげて、と書かれていた。二枚目を引っ張り出して目を通す。そこには、代筆を担当した父親からのメッセージがあった。
俺の父__瀬川優作を知っているらしかった。競馬を見るきっかけが瀬川優作騎手でした、と綴られている。そしてフジサワコネクトが生まれたばかりの頃から応援しているとも書かれていた。大手の競走馬生産牧場__ノースファームが故郷のフジサワコネクトは、SNSで調べれば仔馬だったころの写真も山ほど出てくる。広報担当者が写真を載せるからだ。
続きを読み進めていけば、彼の娘である桜花のことが綴られている。難病で、ずっと入院しているという。そんな中でフジサワコネクトを心のよりどころにしている、と書かれていた。
(
……
でも、俺は
……
)
俺は誰かに誇れる仕事をしたか? 白綾のように確固たる支柱があるのか? ただ、望まれて流されてここまでやってきた。ただ自分の才能だけ、生まれ持った器用さだけ、それだけでここまで来てしまった。なのに、こんな風に手紙をくれる人がいる。
『
……
フジサワコネクトの走りに、瀬川迅一騎手の手綱さばきがカッコいい、と娘はいつも喜んでいます。病気が治ったら瀬川騎手のように馬に乗りたいと言っていて、治療のモチベーションになっているようです。入院したての頃はいつも「おうち帰る!」とごねて泣いていたのですが
……
。』
そんな文章が綴られていた。小さな子が両親と別れて一人、入院生活を送らなければならないというのは想像以上に堪えるものがある。
俺もぼんやりと昔のことを思い出す。初めて馬と触れ合ったときのことだ。馬の嫌がるところに触れてしまったせいで振り落とされ、肋骨を盛大に折った。しかもそれで内臓が傷ついたので長期入院する羽目になったのだ。
(あの時俺いくつだっけ?
……
確か八歳
……
とかだっけ
……
?)
俺はそんなことを考えながら読み進める。
そして最後になりますが、という部分に目を向けた。
『最後になりますが、娘に希望を与えてくださってありがとうございます。
これからも応援しています。フジサワコネクトと無事走りきって日本へ帰ってきてください』
(ああ、俺は__)
俺はこの言葉の為に騎手をやっていたのかもしれない。一瞬そんな気がした。
俺は手紙を元に戻してロッカーの中に入れる。代わりにヘルメットとグローブ、そして鞭を引っ張り出して扉を閉じる。ヘルメットを被ってフジサワコネクトが待つパドックへ足を向けた。
パドックは煌びやかな服を身に着けた人でごった返している。日本とは違う状況に驚いているかもしれない、と思ったがそれは杞憂に終わった。フジサワコネクトは河口さんに撫でられて落ち着いている。いつも通りの彼女がそこにいる。出会ったばかりの頃よりは白くなった芦毛に、額に浮かぶ白い大きな流星。そして足元の影に驚かないようにと黒いシャドーロールを付けている。今日は気合いのためか、脚に赤いバンテージを巻いていた。
フジサワコネクトは俺に気付いてこちらに耳を向ける。大きな瞳がじっと俺を見ていた。近づいて首筋を撫でれば数度目を細める。手を離せば「もっと!」と言うように前脚で地面を引っ搔いた。俺は撫でてやり、河口さんに手伝ってもらってコネクトに跨る。気合十分、いつでも走れる__そんな気迫が伝わってきて、俺はコネクトの鬣に沿って撫でた。
「勝とう、コネクト。
……
世代最強を、証明しに行こう」
片方の耳はこちらに向いている。俺の言葉を聞いてくれているらしかった。頭をぽんぽんと軽く撫でて、前の馬が歩き始めたのを合図に俺もコネクトに歩き出すよう指示した。以前のように頑として動かないなんてことはない。いつも通りの歩調で、速度で、リラックスして歩けている。河口さんが近くにいるから、ということもあるだろうが__初めての海外遠征でもこれだけ落ち着いているならば、今まで以上の結果を出すことができるかもしれない。
(
……
迅一、ちょっとはマシになったみたいね)
「ん? どうかしたか、コネクト」
(別に! さっさと走ってさくっと勝つわよ。__私はダービー馬なんだから)
「
……
負けられない。ダービーを勝ったんだ。世代最強なんだ
……
」
もう負けない。全てをなぎ倒して、俺たちは先に行く。
キングジョージ六世&クイーンエリザベスステークス。二三九〇メートル__中距離最高峰のGⅠ。その舞台には先月のゴールドカップを辛くも勝利したスワンレイクリターンズがいる。ロジェールマーニュに先着した馬だ。
だが、フジサワコネクトだってロジェールマーニュに先着している。
ならば勝てる。確実に__。その確信が今はあった。
発走時刻が迫っている。本馬場入場が始まった。
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