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アスナショウコ
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【創作|馬軸】春雷-極光
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【創作|馬軸】春雷 褪色- 花散りて、なお [了]
七話~最終話です。
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后子は優しかった。
僕が嘗てのように勝てなくなっても、怒ることは無い。それは国美も渚も同じことで、僕はある意味その環境に満足しているつもりだった。
勝てなくても、僕はもう既に一番欲しいモノを手中に収めている。だからあの速度で走れなくてもいい、と納得しているつもりだった。
僕は僕と一緒にどこまでも駆け抜けてくれる__唯一無二の相棒が欲しかった。
だからだろうか。后子が気に掛けてくれて、傍にいてくれて、心を通わせているということが何よりうれしかった。
けれど__それは、違う。
「ごめん、ロジェ。私、もっとロジェの思いを汲み取れるように頑張るさかい、もうちょっとだけ付き合ってや。
…………
宝塚記念が最後やから。勝って終わりたいねん」
前脚の屈腱炎があろうが、関係ない。走れるから走る。
僕はそういう風にして競走馬になっていたはずだ。
ウッドチップを蹴とばしながらいつもよりはスローペースで走る。僕は后子が作るリズムに合わせて脚を動かし、徐々に速度を上げていく。宝塚記念が僕の最後の舞台だ。一週前追い切り、前を走る弟のドライフラワーに馬体を併せて速度をさらに上げる。だが思うように動かないのか、それとも速度が出ないのか、僕はほんの少しだけドライフラワーに先着されて追い切りを終えた。
自分の肉体の事だから、嫌でもわかってしまう。僕はもうあの頃の速度では走れない。本格化を迎えた弟にも敵わない。僕の競争能力はすさまじい勢いで転落している。
「お疲れさん、ロジェ」
后子は僕を労い、肩をぽんぽんと優しく叩いた。今日は暑いなぁ、ぬるめのシャワーがええやろね、と后子は言う。僕は后子に誘導されてコースを抜けて側道へ入り、厩舎の近くにある馬場へ戻る。入り口で出迎える国美が「おかえり」と声をかけ、后子は国美に僕のことを色々と伝えた。
忖度ない言葉には、僕の限界値が見えている。それでも后子は僕を信じてくれている。だからこそその思いには応えたい。けれど阪神大賞典から天皇賞・春__去年から数えれば五連敗中の僕に、何人のヒトが期待を向けるのだろうか。今までの僕の敗北が后子のせいにならなければいいけれど。
「どないしたん、ロジェ。えらい一点を見つめてるね」
(ん
……
いや、何でもないよ。
……
あと一週間で終わりだね)
「もうちょっとだけ頑張ろうな。宝塚記念で終わり、競走馬終わりやさかい」
(うん)
とても不思議な感覚だった。確かに僕は競走馬になるために生まれてきたけれどならなくてもいい、他の仕事もあると__他の道も用意された。だがそれがどうしても悔しくて己を無理やり成長させた。
そして僕は、望まれた通り競走馬になった。
けれど競走馬としての馬生はもうすぐ終わり、僕の次の仕事はシャルルの血を遺す事になる。
栗毛の母と、そっくりな色の父。世代こそ違えど両親ともにクラシック戦線を賑わせ、何より父に関して言えば〝無敗三冠〟という偉業を父子二代で成し遂げている。三代での三冠を、という声も最初はあったようだが、僕はそうはならなかった。
世代最強の名牝__フジサワコネクト。三十四年ぶりの牝馬ダービー馬となり、翌年キングジョージ&クイーンエリザベスステークスをぶっちぎりで制覇。無敗の欧州の名牝を手ごたえ軽く蹴散らした。
そんな彼女と競り合って、僕は負けて勝ってを繰り返している。だがここのところは勝てない。けれど仕方がないとも思う。あまりにもフジサワコネクトは強い。フジサワコネクトという馬は、強すぎる。
僕のラストランとなる宝塚記念でも、彼女と激突するのは確実だ。ドバイ国際競争のうちの一角、ドバイシーマクラシックでは二着と後塵を拝したらしいが、それでも彼女の強さが世界級であることは間違いない。今の僕が勝てるのか、というか他の馬たちにも太刀打ちできるのか、全く分からない。
ガリガリと困惑と不満をぶつけるように地面を引っ掻く。ふと気づいて足を止めれば、国美が「こっちの脚だけ蹄鉄打ち換えてもらうか
……
」と困ったように言った。
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