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アスナショウコ
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【創作|馬軸】春雷-極光
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【創作|馬軸】春雷 褪色- 花散りて、なお [了]
七話~最終話です。
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「く~にみちゃん♡ あ~そ~ぼ~♡」
「ヒデ。お前なぁ、あそぼ~とか言ってる場合か?」
「イギリスのこと? 問題ないない」
「お前なぁ
……
」
武内秀吉は、ロジェールマーニュの脚にバンテージを巻く国美道長に話しかけた。
英国遠征から帰った後、ロジェールマーニュは体重が減り続けている。この後長期間の放牧に出して休養させ、秋に備えることになっているらしい。場合によってはぶっつけ本番で天皇賞・秋、もしくは回避もあり得るな、と武内は頭の隅で思った。馬体からうっすらと骨が浮いて見え、どこか調子が悪そうにしている。だがそれでも漂う風格は拭い去れるものではない。
「誰が見てもわかる〝いい馬〟だよなぁ。ロジェールマーニュ」
「そりゃそうだ。
……
あのシャルルマーニュの息子だぞ」
大人しくしているロジェールマーニュは不思議そうに武内の方へ耳を向けた。器用に前足を揃えて、猫が背を伸ばすように伸びをする。柔らかい体からは、彼が持つ天性の柔軟性の一端を垣間見ることができる。国美はロジェールマーニュの頭を軽く撫でてドアに固定していた手綱を外し自由にしてやった。馬房の奥に引っ込んだロジェールマーニュは体を倒して寝ころび、うつらうつらと居眠りし始めた。
「流石に四〇〇〇メートル近い激闘の後だ。かなり消耗が激しい」
「だな。今日后子ちゃんいねえの」
「別に厩舎所属って訳じゃない。今日はいろんなところ飛び回ってるんだろ」
「まぁそうね。なぁ、スノーホワイトの次走俺乗せてよ」
武内は突如そんなことを言った。国美は目を丸くし、名前を呼ばれたことに気付いたスノーホワイトが馬房から顔を出した。
「急すぎだろ。何でまた」
「ん~。白毛乗ったことないから乗ってみたいんだよねえ」
「理由そんだけかよ?! 調教で乗れよじゃあ」
「えーやだやだやだやだ!! レースで乗りたい! お願い国美ちゃん、后子ちゃんにもお願いって言って~!」
「お前な~。サマースプリント
……
后子さんにもう依頼出してんだぞだいぶ前から!! 無茶苦茶なことばっか言いやがって。昔っからだ本当。俺が騎手やめるっつった時も五歳児みてえにごねやがるし」
「
……
国美ちゃん、そうやって昔の話蒸し返すから彼女にフラれたんじゃない? ねちっこい男は嫌われんぞ~?」
「~~うるせえわ!! ってスノーも何でそんな俺を小馬鹿にしたような顔で見るんだよ!?」
あーあ、と言うような顔で憐憫の瞳を向けるスノーホワイトは、満足したのか引っ込んでいった。武内は引っ込んだスノーホワイトを横目に話を続ける。
「この間ヤナとも話してさぁ。そん時に、そのうち国美ちゃんとこの馬に二人で乗れたらいいねえ、ってな。だから騎乗依頼くれよ~。俺とヤナでGⅠ掻っ攫ってくっから」
「はぁ
……
三〇〇〇勝もしてる名手が営業かけるのかよ。勝手に依頼が売るほど来るだろ」
「まぁね。でもほら、国美ちゃんて俺らと同期だってこと忘れられがちじゃん? だから俺が勝利ジョッキーインタビューで、『同期の育てた馬で勝てて最高だぜ!!』て言ってやる。お前は馬乗り巧かったし、あんな怪我さえなきゃ今でも活躍してる騎手だったんだよバーカ」
「ヒデ
……
」
「まぁそういう事だから。新馬でもなんでも、俺とヤナに依頼出してよ。国美ちゃんとこの馬なら最初っから最後まで面倒見て、どこでも乗りに行くからさ」
武内はそう言ってベンチから立ち上がり颯爽と去って行った。国美はその背中を見送り、ひとつ息を吐き出した。
シャルルマーニュを三冠馬に押し上げた名手。誰からも尊敬を集める男の背中にしては妙に哀愁が漂っている。ふとスマホが震えたので国美は通知を確認した。そこには十一年前のダービー馬が病で死んだ、というニュースがある。その馬は武内をダービージョッキーへ導いた馬だった。同期である武内の活躍には喜びもあった事を思い返す。
(そうか、ヒデ
……
)
国美はつまらなさそうに欠伸をする馬に目をやった。新馬戦を控える牡馬がいる。トゥザビギニング、と名付けられた一口馬主クラブの馬だ。
トゥザビギニングは武内にダービージョッキーの称号を与えた馬の血を引いている。ダービー馬の子でダービーを獲りたい。勝利を彼への餞にしたい。そういうコトなのだろう。
「
……
ったく。そうならそう言えよ。アホが」
言いたいことをうまく言えない性分なのは昔からだ。言いたいことがある時ほど妙に尻込みするんだよな、と国美は思う。
正式に騎乗依頼と主戦騎手の依頼を、と思いエージェントへの連絡先を押せば、目が覚めたらしいロジェールマーニュが国美に梨を要求した。
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