Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
アスナショウコ
Public
【創作|馬軸】春雷-極光
Clear cache
【創作|馬軸】春雷 褪色- 花散りて、なお [了]
七話~最終話です。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
柳沢さんが半年間栗東に滞在するらしい。理由は単純に、奥さんが大河ドラマの撮影で関西方面に詰める必要があるからとの事。愛妻家なことは有名やさかい誰も驚かへんのやけど、問題は柳沢さん以外にも栗東に滞在するやつがおることやねん。
佐々田弘毅。競馬学校では同期で、卒業後は美浦トレセンに所属した。現在は大井競馬所属の騎手となっているはずだが、諸事情あって栗東にやって来た。というのも、この佐々田__来年から中央に出戻らんと画策している。国美厩舎の馬にも乗ることがあるようで、私と偶然にもかち合ってしまった。
太めの眉毛と切りそろえられたツーブロック。髪の毛は染めておらず黒い。意志の強そうな瞳が私の方を睨んでいた。
「
……
」
「
……
」
私の前には空になった馬房がある。そこは現在放牧に出ているロジェールマーニュの馬房だった。隣に弟のドライフラワーと、一つ年上のスノーホワイト。スノーは今日の軽い調教が終われば放牧に出る。
だが今はとにかく目の前のことに集中しなくては。来年に向けて少しでも上積みをして、ロジェに再び跨っても恥ずかしくない騎手になるために。そして何よりもスノーたち、私が主戦を担当する馬に恥をかかせるわけにはいかない。彼らが私を誇れるように、もっともっと強くならなければ。
「ホープフルステークス
……
乗らないんだな」
佐々田はそう言ってヘルメットの顎ひもを締めた。私は急に話しかけられて驚き、思わず「は?」と声を漏らす。
「
……
すまん。別に嫌味とかじゃない。お前は有馬記念にもいたから、ホープフルステークスにも出てるとばっかり」
「あ、ああ
……
いや、こっちこそ堪忍な」
「その、昔は
……
悪かった。すげえ焦ってたんだ。馬乗りも何もかも上手くいかなくて。でも成績だけ見たらお前の方がヤバかっただろ。だからそれで
……
お前の言うことは正しかった。俺はお前を見て自分の立ち位置に安心していた。まだ大丈夫だって」
「佐々田__」
「でも、その甘えがいつまでも抜けなかったから、中央で結果が出ないって地方に移って、地方でも全然駄目だった。全然勝てなかった。だから初心に帰って、もう一回やり直すことにした。本当にこれでいいのかは
……
わかんねえけど」
国美先生に拾ってもらったんだ、と佐々田は言う。先週から国美厩舎所属になっていたのだ。全く知らなかった。私は馬房から顔を出しちょっかいをかけてくるスノーの鼻を触りつつ考える。
私だって似たようなもんや。負けまくって、進退を考えるように進言されて。でも偶然ロジェールマーニュの主戦騎手にしてもらった。それが無ければ私はとっくに騎手なんざやめてる。
国美さんのおかげもあって漸く一七〇勝まできて、いい馬に乗せてもらえることが増えた。GⅠも勝てるようになってきた。でもそれは馬の力で、私自身の実力によって掴み取ったのかは未だに自信が持てない。
「私だって。これで本当にええんか、っていつも考えてるわ」
「〝馬が誇れる騎手になる〟って志は揺るがないだろ」
「まぁ、それは。せやけど、当然馬は喋られへん。私の思いは単なる自己満足なんかもって何遍も思った。せやけど
……
ロジェは、スノーは、みんなは、私の振るう鞭に
……
手綱に応える」
名を呼ばれたスノーは前掻きをして早く扉を開けろと急かした。厩務員の岩蔵さんが「はいはい」と言いつつ扉を開ける。スノーは器用に首を伸ばして私のジャージに噛みついて遊び始める。私は相手をしてやりながら話を続けた。
「スノーなんかどんだけやる気が無くても途中までは頑張んねん。んで、どうしてもやる気に火が付かへんときは逆噴射して失速していく」
「
……
知ってる。函館でめちゃくちゃ負けてたよな」
(んだよお前~!! お前もあれにケチつけんのかよ新入りのくせによ~!!)
「こらスノー。佐々田にメンチ切らへんの。
……
とにかくこの子気分屋やねんけど
……
それでも私の思いに応えてくれる。やから、私もこの子らの思いに応えたい。それが多分、〝馬が誇れる騎手〟の条件なんやないかなぁって__今はそう思う」
佐々田は私の言葉に黙っていた。翡翠色の瞳が私とスノーホワイトを見つめている。フレーメン反応をしてヘドバンし、最終的にスノーは佐々田のジャージのチャックに噛みつく。驚いた佐々田は動かずできるだけスノーを刺激しないようにした。別に怒っているわけではなく、単にスノーは佐々田に対して興味があるだけなので何か危害を加える気はない。
(姉御ぉ。こいつなんか馴れ馴れしくね?)
「ほらスノー、今年最後の調教行こう。佐々田は逃げへんから」
(おー。なぁ姉御、ロジェ戻って来るよな?)
「スノー
……
」
一度スノーは空の馬房を見て、私に視線を遣る。まるで「強いロジェールマーニュは帰って来るよな?」とでも言いたげだった。渚ちゃんや私が「仲良しやね」というとロジェから離れていく割には、実際にロジェがいなくなると寂しいらしい。最近スノーはロジェの姿を探している。
「戻って来るよ。私は、ロジェールマーニュを信じてる。信じて待つ。そして多くの人に応えて結果を出し続ける。それが、騎手として今すべきことやから」
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内