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アスナショウコ
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【創作|馬軸】春雷-極光
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【創作|馬軸】春雷 褪色- 花散りて、なお [了]
七話~最終話です。
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キングジョージ六世&クイーンエリザベスステークス。
イギリスはアスコット競馬場で開催される芝二三九〇メートルの最高峰レースだ。無論GⅠのその舞台に、日本からはフジサワコネクトが出走する。帯同馬は二つ年上の同じ厩舎の牝馬ナナソニック。目立った勝ち鞍がある訳ではないが、コネクトの厩舎の隣である事や割と日頃からコネクトと仲良くしている事から選ばれた。
そして鞍上には、俺__瀬川迅一が乗せられる。散々な成績で三歳の冬を終えたというのに依頼をくれるとは、と思いながら俺は戻ってきたコネクトと白綾后子を見遣った。先程コネクトには盛大に嫌われて落とされ、俺は白綾が調教で乗るはずだった馬に代わりに乗っていた。だがその馬にも振り落とされた。やはり相当嫌われている。
俺はため息をつきながら彼女たちの方へ近づく。コネクトに蹴られるか噛み付かれるか__されるかもしれないと思ったが、機嫌は既になおっていたようだった。
「白綾、ベテルギウスなんだが
……
」
「落っことされたん? 私もしょっちゅう振り落とされてんねん」
下馬した白綾はあっけらかんと言い放った。俺は目を点にして話を聞く。
「すごいやろ。旋回癖に斜行癖。ついでに三歩目で掛かり始める。単走でも常に掛かってんねん。まあでも勝手に帰ろうとせんだけまだええんよ。新馬戦以降、色々教えたらええと思う」
「お前、すごいな
……
いろんな意味で
……
」
「ハァ?
……
はぁ。自分ほんまそういうとこやで」
他馬に妨害、タックルとかせえへんかったらとりあえずええねんもう、と言う白綾に改めて俺は考え方の差を思い知らされた気がした。常に最良の選択をしてきたつもりだったが、それは馬にとってではなく俺にとっての最良なのだろうと思った。
俺は本当に今まで何をしてきたのだろう。ここまで流され、周囲の「騎手になってほしい」という願いを受け、それをそのまま実現してこの地を踏んでいる。それは馬たちも同じだ。大きいタイトルを取ってほしい__競馬場で走る姿が見たい、この子で海外制覇へ、そのような願いをその身に受けて、このトレーニングセンターへやって来る。
「
……
わ。瀬川!! 何ぼけっとしてんねん。私はこの後もう一頭乗らなあかんさかい、コネクトのこと見てやってや! この後歩様確認!! ほなね!!」
白綾はそう言って俺の手に手綱を握らせ、その辺に置かれていた自転車に乗ってどこかへ走り去っていった。その背中を見送り、俺はコネクトの方を見遣る。先ほどとは打って変わって耳をこちらに向けており、機嫌が悪い雰囲気はない。だがコネクトは首を動かして俺のジャージのファスナーに噛みつき、上にあげたり下に引っ張ったりして遊び始めた。俺は動かずに彼女を見守る__すれば飽きたのか今度は俺の顔を舐めまわし始める。
「うお
……
な、なんだなんだ」
(構ってよ。撫でてよ。ねえ。
……
迅一)
「
……
腹減ってるのかな
……
でも歩様確認が
……
もう少し待ってくれ」
(
…………
も~~~~!!!! なんでよ~~~~!!!!)
コネクトは右前脚で地団駄を踏む。俺は慌てて少し距離を取り、彼女の首筋を撫でて落ち着かせようと試みた。するとコネクトは顔を俺の手の方へ動かし「そこじゃない。こっち」とでも言いたげに額を突き出してくる。俺はそっと額を撫でてやった。満足げにコネクトは目を細める。
「
……
そうか、俺が鈍感だから、わかりやすくアピールしてくれてるのか」
(そうよ。ねえ迅一、もっとわたしをちゃんと見て。わたしのことを理解して。
……
じゃなきゃほんとに、嫌いになっちゃうんだから)
「ごめんな、コネクト。
……
俺は」
その時ふとストン、と納得した。俺は白綾后子になりたかったのだと。
唯一無二の相棒と心を通わせ、どこまでも駆け抜けていく白綾がうらやましかったのだと。
諦観しているつもりだった。有馬記念で大敗を喫したあの日から、俺はもう白綾に追いつくことは出来ないのだ__ここから先、俺は緩やかに落ちていくのだろう、と勝手にそう思っていた。だってそうだろう。俺は父のような「不世出の天才」とか、そう呼ばれるような人間じゃない。
偶然持って生まれた才能さの上に胡坐をかいて、自分が名手であるかのように勘違いしていただけだ。努力を怠ったのは誰だ。他でもない俺自身だ。俺がぼーっとしていた間も、白綾はずっと一人寒さに耐え、必死で険しい崖を上った。そして上から引きあげられた。
ここから先は一緒に行こう。
そう言うかのように、ロジェールマーニュが白綾の往くべき道を作り上げた。
(
……
わたしもね、ロジェールマーニュが羨ましい。全部わかってくれる相棒がいるのが羨ましい)
「__そうだな、うん」
嫉妬。羨望。憧憬。そういうものがごちゃ混ぜになったドス黒い感情が発露する。
ずっと羨ましかった。誰より輝く人。出会ったその日に、いつかやって来る栄光と勝利を約束されたような人だと思った。明確な支柱がある。馬が誇れる騎手になる、という明確な支柱がある。
そして今は、そこに向かってひた走る相棒たちがいる。
ロジェールマーニュは白綾に出逢うために生まれてきたような馬だ。そう思ってならない。
なんて羨ましいんだろう。俺だってそんな風に、唯一無二の相棒と巡り合いたい。コネクトだって俺なんかより、全てをわかって察してくれる相棒を欲しいと思っている。
「羨ましいよ。すごく__」
ドクン、と心臓が強く跳ねた。黒い炎が燃えている。
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