【創作|馬軸】春雷 褪色- 花散りて、なお  [了]

七話~最終話です。

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背中の彼女は、優しくわたし__フジサワコネクトに言った。
「あのアホはな、女心がミジンコの毛ほどもわからんねん」と。
本当その通りよね、と思いながらわたしは脚を動かし坂路を駆けあがる。ロジェールマーニュの主戦騎手であるはずの彼女が、わたしの手綱を握っているのは妙な感じもするけれど。でも今の迅一と比べるのも失礼なくらいに、わたしにとって最良のエスコートを彼女はくれた。
白綾后子。迅一の同期で、ロジェールマーニュの主戦騎手。身長がかなり高くて、金色の髪の毛を持っている。坂路を上まであがって、側道をのんびり通ってスタートの場所へ戻る。

(迅一と一緒に、頑張ってきた。……でも)
「瀬川のこと、嫌いになってしもた?」
……

耳を彼女の方へ向けてみる。嫌いなわけじゃない。ただ、わかってくれないのがもう我慢ならないのであって。わたしは迅一と一緒に勝ちたい。そう思ってはいる。でもなぜこんなにも嫌なのか__自分でもよくわからなかった。

「あいつなぁ、デリカシー無いし人の気持ちもよぉ分かってへん。でもな、つつけるとこがそんぐらいしかあれへんねん。同じ騎手としての土俵で戦ったら勝ち目ない。
せやけど……天才は天才なりに、多分悩んでんねやろ。何考えてるかほんまよぉ分からん奴やけど、コネクトに信頼されるように頑張ろう、とは思ってるはずや」
……わたしは)
「瀬川は〝望まれてここにいる〟騎手や。私とは違う。どうあっても、目指す場所が違う。やからコネクト。……私とロジェみたいになりたい、そう思ったらあかんよ」
(____!!)

体に雷が落ちたような衝撃が走った。だが腑に落ちた。わたしは、ロジェールマーニュが羨ましかったのだ。ロジェールマーニュのように、唯一無二の相棒と駆け抜ける__それがわたしの欲しかったこと。どうあっても手に入らないそれをずっと渇望していたのだと気づかされた。后子はわたしの頭を撫でながら続きを話す。

「せやから顎で使うたらええ。瀬川に、あれしてこれして、って。そしたら二ミリぐらいは分かり合えるかもしれへんよ」
(迅一を、顎で使う……
「尻に敷いて掌でころころしいや。その方がずっとええよ」
……? お尻に敷くの? 転がすの?)

スタート地点まで戻り、わたしは再び彼女の合図で駆けあがる。今度は強めに追われるので、それに応えてさらに後脚に力を籠め一気に爆発させる。うん、ええね、という言葉を合図にスピードを緩め、側道に入って厩舎へ戻る。わたしは首を捻りながら、なぜかフラフラになっている迅一を視界に入れた。