はるの
2022-10-07 21:33:22
86681文字
Public X-MEN
 

ムーンレイカー

全年齢|cherik|2022.10.7|DP後、チャールズが人生に一区切りつける話。チャールズの過去をフリ~~~ダムに捏造しています。



インタビュールーム - 04


「おはよう、チャールズ」
 おはよう、ドクター。よく眠れたかい?
「あなたはどう?」
 健やかだ。
「少しずつはぐらかすような会話が好き?」
 はは、今日は最初から突っ込んでくるじゃないか。なんだかいい夢を見た気がしてね、思い出せはしないんだけど。
「眠れているなら何よりです。それは、あなたが出てくる夢?」
 たぶん。おそらく。そしてそう尋ねるということは、君は君自身が主人公じゃない夢を見るのかな。
「あなたは見ないんですか?」
 見るよ。
「それなら、きっとそうなんでしょう」
 少しずつはぐらかすような会話が好き?
「今日は本当に、ご機嫌そうで何よりです」
 嫌味がうまいね。私のせいかな?
「そうでしょうとも。あなたが僕を完璧に困らせる前に、あなたの両親の話を続けましょう」
 やっぱりそこに戻るんだ。
「クラスメイトの話へ脱線したのは、あなたの作戦? それとも、無意識で無垢なもの?」
 分かった、分かった。いいよ、話そう。両親ね。
「両親です」
 義父からの私に対する要望は、さほど多くはなかったよ。私は成績もよかったし、羽目を外しすぎることもなかった。真っ当に成長して独立してほしい、という心情に対して、私は誠実に対応していたと思う。彼が亡くなるまでずっと、私はよき息子であったと自負しているよ。
「あなたの話には、いつも母親が抜けている」
 ――うん。そうだろうね。
「話したくない?」
 話したくない……、のかな。そうなのかもしれない。けれど、実際のところ、話したくないことがある、というほうが、ずっと良質なんじゃないかと思うこともあるよ。
「良質?」
 そっちのほうがいい、という意味さ。本当に、なんていうかな、何も言えることがないんだ。
「あなたの感じたことを話して」
 まあ、そうなるよね。うん。――私がまだ、人の心の声を妖精の仕業だと思っていた頃、あまりに声がうるさくて、嫌になったことがある。それ自体はときどきあることだったけれど、その日はたまたま母がいて、リビングで雑誌か何かを読んでいた。ハウスメイドもそばにいなくて、とても静かな夜だった。
……うん。聞いてるよ」
 母は、私が入室したことをちらっと確認して、そのまま雑誌を読み進めた。静かな夜だったよ。私は少し離れた安楽椅子にそっと座って、じっとしていた。しばらくして、本当に静かで、何の声も聞こえないことに気づいたんだ。私は驚きとともに、少しせいせいした気持ちになった。めったにない静寂は、楽しむに値する貴重な時間だったからだ。そのうち眠ってしまったらしく、メイドに起こされる羽目になったけれど。
「でも、その声は、妖精ではなくて、人の心の声のはずでしょう?」
 うん。それから私は、いくつかの検証をして、母の近くにいると不思議と静かなことを発見した。だから、どうしても声がうるさくて我慢ならないときは、彼女のそばに行って、じっとしていたよ。母は、私を追い払うようなことはしなかった。嫌な顔ひとつしなかった。私が静かに息をしているだけなら、彼女は彼女の生活を済ませるだけだったからね。まるで雨の日の大樹のようだったよ。まるで守られているようだった。もし、あのとき、私が彼女の言葉を欲して、やかましく騒いだとしたら、どうなっていたかは分からないけど……、それを検証する気は、起きなかったな。
「でも、それは」
 そして私は、12歳のときに、この静寂の意味を知るんだ。
「チャールズ」
 私の母は、私を好いてもいなかったが、特に嫌悪もしていなかった。私に対して、かけらも、何の感情も持っていなかった。
……それは、あなた以外にも、何も感じていなかった、ということでは?」
 そうかもしれない。もし、きちんと雑誌を読んでいたのなら、どんなに興味がないことでも、この記事がどうの、と少しは思ったはずだ。けれど、それすらもなかった。そんなの、おかしいと思わないか? 私はね、たぶん、無意識に、彼女の私への気持ちだけを、抽出していたのだと思う。あの頃、テレパスのコントロールは、まだできていなかったけれど。だって、子供ってそうじゃないか? 親からの自分への関心を、いつだって気にしていて、いつだって心から知りたいと思っている。耳を澄まして、注意深く、それだけを聞こうとして――、私は静寂を知った。きっと、それだけのことだったんだ。