はるの
2022-10-07 21:33:22
86681文字
Public X-MEN
 

ムーンレイカー

全年齢|cherik|2022.10.7|DP後、チャールズが人生に一区切りつける話。チャールズの過去をフリ~~~ダムに捏造しています。



とある冬の話 - 03


 雪の降った日、小鳥は素晴らしく丸くなった。
 ふくふくの冬毛がふくらんでいるシルエットは、素晴らしいとしか言いようのない出来だ。けれど僕は努めて、そのことを口に出さないようにした。体つきが丸くなったことに対する他者からの指摘は、ときに残酷なこともある、と僕は身をもって知っているのだ。
 ほとほとと窓辺に降り積もる雪を、小鳥はしばらく眺めていた。
 装飾の施された窓枠と、モザイクのように加工されたガラスは、雪雲の向こうのあいまいな太陽にぼんやりと照らされている。雨の日よりはずっと明るいけれど、晴れの日よりはずっとさみしいような、そんな日だった。
 ぽつんと佇む小さな背中も、ずっとさみしいように見える。白い世界に溶けだすように、まるで祈りをささげているようだった。
 もしかしたら、本当に祈っているのかもしれない。
 何故なら、小鳥は両親に死なれて、もうひとりきりなのだ。
 僕は、そんな小鳥を、ずっとさみしいような気持ちで見つめた。静かに、厳かに、まるで祈るように。
 僕が。
 僕が、君の家族になれたら――
 そんな言葉が脳裏に浮かんで、僕は喉を詰まらせた。
 うぐ、と呼吸を乱した途端、目ざとい小鳥はぱっと振り返る。
「悲しそうな顔してる」
「そうかい? 今日は一段と寒いから」
「うそつき」
 少し甘えたその声に、僕はそらした視線を戻した。小さな赤毛の女の子が、窓辺で冬のあいまいな光を浴びている。ずっとさみしいような顔で、彼女は僕を見つめていた。
 ぱちり、とまばたいた瞬間に、小鳥はぱたたと羽音を立てる。僕の肩に止まった小鳥は、何でもないふうな態度だった。
「あなたは悲しいのよ。それをきちんと自覚しなきゃだめよ」
 まるで秘伝の極意のように、厳かな口調で小鳥はそう忠告する。まんまるなシルエットが修験者のごとき神妙さなので、僕は失礼にも笑ってしまった。



 降り続いた雪のせいで、土曜日のエリックの仕事には雪かきが追加された。アパートの前が大変に通りにくい、ということを、雪まみれになって現れたエリックが訴えたからだ。
 そこで、僕はありったけの毛糸を引っ張り出してきて、エリックを丸くさせることに精を出した。残念ながらその4割くらいは、暑いと訴える本人によって剥ぎ取られてしまったけれど、すごくかわいいぽんぽんのついたニット帽を装着させることには成功したのでよしとする。
 一仕事終えて再び雪まみれで帰ってきたエリックは、鼻の頭と頬のてっぺんを赤くさせて、暑い、と再び訴えた。運動したことで、体が温まってしまったのだろう。非難がましい視線を華麗にかわして、僕はもっとかわいらしくなってしまった友人を、てきぱきと熱いシャワーに入れた。辣腕である。
 エリックが温まっている間に、僕は用意しておいたパスタをゆでた。何よりも手間を惜しむ僕が用意するソースは、温めてかけるだけのやつだ。あまり味にはこだわらないし、エリックはイタリア人じゃないので助かっている。
 レタスをちぎって小皿の上に置くと、目ざとい小鳥はすぐにやってきた。上品についばむ様子を見て、僕はほっこりしてしまう。
「おいしい?」
「みずみずしいのは確かね」
 高飛車な言い方も健在だ。
 僕が笑っていると、小鳥は飛び上がって羽ばたき、顔の周りを旋回しはじめた。
「そうだ、音楽をかけてよ」
「音楽? そろそろパスタがゆであがるんだけど」
「今すぐかけるべきよ。明るくて華やかなやつよ」
 僕が渋っても、小鳥はそんなふうに言い張る。結局、僕は火を止めて、キッチンから出ることになった。
 本棚のすみに押し込まれているCDケースをいくつか探って、シュトラウスをプレーヤーにかける。
 音楽が始まると、小鳥はオーディオの前でおとなしくなった。ワルツに合わせて揺れるその小さな背中に微笑んで、僕は昼食作りを再開する。
「ずいぶんと品のいい晩餐会だな」
 完成とともにちょうどよく戻ってきたほかほかのエリックは、軽妙なクラシックと、並べられたレトルトのパスタを見て、そんなふうにからかった。
「食後にはダンスをしようか?」
 僕も負けじとからかうと、小鳥がばさりと羽音を立てる。少し間をおいてから、もう一度ばさり。
 僕は少し考えて、エリックの手を取って構えてみた。
「それとも、今から踊ろうか?」
 途端、小鳥は小さな両足で、器用にオーディオのつまみに飛びつくと、ぐいっとやって音のボリュームを上げた。ははぁん、と僕はにやにやする。もの言いたげな小鳥はつまみから飛び降りて、圧倒的に背中を見せていた。
 僕はまた少し考えて、今度はこう言ってみる。
「でも、やっぱりダンスなら、小鳥と踊るほうが先かな?」
「あなたがどうしてもと言うなら、付き合ってあげないこともないわ」
 小鳥はすかさず振り向くと、ぴゅいっとかわいい声を上げた。そしてすぐさま、まるで興味がないそぶりで、ぷいっとそっぽを向いてしまう。けれど、小さな頭はご機嫌に、音楽に合わせて揺れ動いていた。
 僕とエリックは思わず目を見合わせて、それから同時に吹き出してしまう。もちろん、小鳥には見つからないように、こっそりと。