河童の皿箱
2025-12-18 09:11:15
41671文字
Public 遊戯王:長め
 

その男は、楽人であった。

あるグループがグループになる前、昔のさらに昔の話。
※捏造の濃度が高い。



 火鉢にくべた炭が、パキリと弾ける。布団に包まる子供は、未だに魘されるばかりで。時折ハッと目を覚ましては苦しそうに金切り声を上げ、暴れ取り乱しては、ぜえぜえと息を切らしてまた布団に埋もれ、意識を失い、魘される。凍え切った体はなんとか温まったが、とても、まともとは言えない少年であった。そも、入水を図っていたのだ。寸でのところで引き止めたとはいえ、何か心も体も引き裂かれるようなことがあったのだろう。それも、衝動的なものではなく、その短い生のなかで積み重なった、何かが。本当にアレをここで働かせるのか? ひとりの老人が難色を示したが、別の老人らが睨みつければ、3つの懇願書を指さした。
 それは、若い男衆が助けを求める文であった。ある子供が生きるのに困っている。どうやらまともな親ではないようだ。口は利けるが、あまり開かない。気難しいところもあるが、穏やかで優しい。仕事と勉強に熱心で、うっとりするようなコトを弾く少年だ。どうか、彼をここで働かせて頂けないか、と。差出人は、御剣の新たな長の夫と、御鏡の新たな長の夫。そして、御珠のコトを師事する男であった。まあ、確かに。どうせ伝統と先祖に泥を塗るべきか否かと悩んで、こうして掟の外の老い先短いような連中に縋らなければならなかったのだろう。彼らには彼らの立場がある。その立場では、彼にこうして火をくべてやるのも限度があったのだろう。なにより、伝統だからと言って一度も疑問を抱かぬものの方が、恐ろしいものだ。そこに疑問を抱いて、助けを求められたのだから、できうる限り面倒を見てやろうじゃあないかと。
 それに、そのうっとりするようなコトを聴いてみたくはないかね。穏やかな隠居がそう告げれば、聴いてみたいのう、聴いてみたいのうと。これからは寒い、家の中は暇じゃしのう。老婆が茶を配れば、いいやあんな気違いと、どうやって暮らせというんじゃ。気難し屋が眉を顰める。けれど既に皆々で決めたことであった。分かっているのにふんと鼻を鳴らして、ずかずか部屋を出ていく。けれど少年の様子自体は気にかけているようで、少年が眠っている部屋をちらっと見る回数は、気難し屋がいちばんであった。

 また、少年の悲鳴が上がる。部屋を覗いてみれば、体はガタガタと震えたまま、でたらめに自らの体をひっかきまわしていた。首筋に、胸元に、血がにじんでいる。これじゃあ傷になっちまう、余っている手袋はないか。そう尋ねれば、茶入れの老婆が使い古しの分厚い手袋を持ち出して、老人は少年に手袋をつけてやった。少なくとも、これで爪は立てられないはずだ。
 しばらくすれば徐々に暴れるのも落ち着いてくる。また魘され始めれば、布団をかけ直してやって、やけどせぬよう、湯たんぽも包み直してやった。
 今この子をどうこうってのは、難しいじゃろう。この子が自分の中に抑え込んで、押し殺してきたものが暴れまわっておる。それが大人しくなるには、まだ時間がかかるじゃろうて。ほれほれ、頑張って目を覚ませよ。そうして、熱々の額に、冷やした布を載せ直してやる。

 少年が眠る部屋の片隅には、コトと、手帖と。そして3つの鞄が置かれていた。