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河童の皿箱
2025-12-18 09:11:15
41671文字
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遊戯王:長め
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その男は、楽人であった。
あるグループがグループになる前、昔のさらに昔の話。
※捏造の濃度が高い。
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白んだ空の向こう側。陽の神の微笑みが浮かび上がれば、里は目覚める。けれど、そこにはもう、男はいなかった。男は遙はるか山の下、出入り口たる洞の中、静かに、静かに、反響する足音に耳を済ませた。
ぴちょり、溢れた水滴と、カタンと響く足音と。男はこの洞を知ってこそいても、ここを通ることはないのだろうと、そう思っていた。実に今、もう戻ることはないだろうと自らに言い聞かせる様に。
くだる、くだる。神々の座す天井に近い山を降り、人の住まう地に降りていく。長い長い洞は未だに出口が見えず、けれどふと目を上げれば、そこに居るのは女であった。
もし、そこの方。どこへ行かれるのです? 女が問い掛ければ、男は足を止めて微笑んだ。はて、それが私にもわからぬのです。果たして、どこまで行くのやら。男が女をじっと見つめる。見たことのない、けれど切れ長の目の、美しい女であった。男はかぶりを振ってまた歩み始めるが、ひたひたと、後をついてくる。
もし、そこの方。ご両親はお元気ですか? 女が問い掛ければ、男はけれど足を止めず、笑った。お知り合いですか? その問いに、女が答えることはなかった。
もし、そこの方。我らが太陽神に背くおつもりですか? 女が問い掛ければ、男は立ち止まる。神々は知り切れぬほど多くいらっしゃる。どこを向こうが、全ての神に背を向けぬなどできませぬ。
男は足を速めた。分かり合えぬ者だと悟った。そう、例えば両親のような。ほとんど走るような速さで歩むが、けれど女はぴったりと張り付くように追ってくる。嫌な予感がした。あの無関心な里の者たちとは違うようだ。それも、悪い方向で。
出口の光が見えてきた。そこを抜ければ。男は足に力を込めた。けれど走りだせなかった。女は男の髪を引っ張ったのだ。甲高い叫び声が、耳元で弾けた。
あぁ、何て忌々しい男だ! いらぬ神々を目覚めさせながら、お前たちのあらゆる責を投げ出し、自由を求めるとは!
声色には明確なる憎悪があった。振り払おうとしても、悍ましいほどの怪力で動けぬ。あともう少しだというのに。
私がどれほどの時間をかけたと!? 大人しく、太陽だけを見ていればいいものを!
すると、突然のことであった。風を切る音と共に、男の背の拘束が解かれた。それと共に、男の背には激しい追い風が吹いた。女の悲鳴が聞こえるもつかの間、知らぬ男の声がした。
走れ! 振り返るな!
男は走った。言葉の通りに、振り返らずひた走った。そのそばを、狐が走る。男を追い抜き、けれど先行くように。
命からがら。洞の外の森にたどり着けば、男は必死に息を整えた。女はもう、追ってはこないようであった。荷物は無事だ。けれど、伸ばしていた髪が、誰かにばっさりと切られていた。もう結い上げもできないほど、短くなっていた。
いったい、なんなんだ。何が起きたんだ。男の頭はいまだに混乱していたが、けれど先を見れば、狐が座ってこちらをじっと見ていた。よく見ると、狐の尾には稲穂が挟まっている。奇妙な狐であったが、けれど嫌な感じはしなかった。まるで、待っているかのようで。
周りは見知らぬ森。道はあるが、このまま真っすぐ行ってもよいものか。男は今更笑う膝を叱咤し、荷物を背負い直して歩き始める。すると、狐もまた、尾を振って先を歩いた。
男は狐の振る稲穂についていく。少し立ち眩みがして立ち止まれば、また狐は振りかえって座った。つかず離れず。そんな距離を保って。
日がすっかりのぼり、あたりが明るくなったころ。男はとうとう、長い長い下り階段にたどり着いた。まだ山の上に自らはあったが、眼下には人が居そうな集落が、そして遠く
…
都のあるはずのあたりには、石で出来た高い高い建物がいくつか見えた。男はへたり込みそうになったが、けれど足に力を込めた。そう言えばと見渡すも、狐はもう、居なかった。
男は手を合わせて天を拝み、そして階段を下った。
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