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河童の皿箱
2025-12-18 09:11:15
41671文字
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遊戯王:長め
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その男は、楽人であった。
あるグループがグループになる前、昔のさらに昔の話。
※捏造の濃度が高い。
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もはや楽人ですらないコト弾きは、日中を人気のない山道で過ごした。そこでひたすらにコトを弾き続けた。冷え込む夜になる前に、あたたかな日の出る時間帯にそこらの川で身を清め、長い長い緑髪を絞った。乾いた頃に残りわずかな金でどこかの飯を食い、それが終わればまた山道でコトを弾く。夜になれば櫓に登るか、詰所で本を読み、学び続けた。コト弾きはやはり、大人たちに何も言うことはなかった。居るも、居ないも、同じこと。彼らは大事な時期に入る。それなのに、こんな餓鬼ひとりに手を煩わすわけにはいかぬ。
より寒さの際立つ頃ともなれば、男は山道と詰所、それと店を往復するようになり、家には一度すら帰らなくなった。帰ったとて、家族は迎え入れてなどくれず、男たる我が身の代わりを、女子を求めて子作りに励むばかり。あぁ、今度も男かと。落胆の声が蘇った。居るも、居ないも、同じこと。現にあれらは、我を探しに来やしていない。
男はひとり、にっこりと。金が尽きれば尽きる身よ。居るも、居ないも、同じこと。しかし、飢えほど苦しいものもない。喉元が緩やかに締め上がるような、そんな感覚をコトの音で塗りつぶし、笑い続けた。
日が経つ。見張りのふたりはもう、櫓には来ない。番が終わったのだ。番の最後の日、男は櫓を訪れなかった。新たなる里長も決まった。三日三晩の宴を、美しく強かな御剣と御鏡の長たる御巫と、その夫たちを、遠くから眺めた。
山々は雪の中で密やかに眠りについた。来年を迎えるためにと、家々は藁を纏った。年越しまであと数日と、けれどけじめをつけねばならぬ。
今日もまた、雪の降る寒い日であった。墓地の片隅、産まれえなかった弟たちの、墓とは言えぬ苔むした岩に手を合わせた。息を深く吸い、吐き出せば、真っ白。さあ、行こうかと。コトと手帖を背負っては、また山に向かった。
泉に辿り着けば、荷物を置き、結えていた髪を解く。さあ、この出来損ないの体を、神々にお返ししよう。黄泉には、あの櫓のような椅子があるだろうか。あったら、いいな。黄泉路は苦しくなければいいなと、男は笑い、水に入った。
ひとつ進めば、喉が引き攣った。ひとつ進めば、胸が詰まった。ひとつ進めば、何もかもがぼやけた。もはや音もなく、冷たさばかりが身を刺して。あぁ、これが、望まれなかった子供の、望まれた結末なのだと。そう言い聞かせて、笑った。
あとは、このまま、目を閉じれば。
――
何をやっとるか、このバカモンがッ!
知らぬ嗄れた怒号。不意に肩に引っかかる、固い物。ぐいと引っ張られ、後ろに倒れ込んでは、咄嗟に泉の縁を掴んだ。そのまましわくちゃの手がこの身を引き上げて、雪に塗れた地に転がった。寒くて、寒くて、震えが止まらなくて。
もう、なにも、動かなかった。
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