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河童の皿箱
2025-12-18 09:11:15
41671文字
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遊戯王:長め
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その男は、楽人であった。
あるグループがグループになる前、昔のさらに昔の話。
※捏造の濃度が高い。
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その日は全き良い空で、丸い月には雲一つかかっていなかった。如何に気まぐれな山の空と言えど、今日ほどうろつくのに向いた日はそうそうないだろう。男はその大きくなった背に、いくつもの楽器と、いくつもの手書きの楽譜を背負い、一路急いでいた。
夜が明ければ、里が目覚めてしまう。その前に、済ませてしまいたかった。まず男が向かったのは、御珠の山奥。森の開けた場所にひっそりと佇む、ひどく荒れた遺跡であった。空の良く見える、草花に覆われた社と高台。束ねられた鳥の羽のような紋章。おそらくここが、遺構のひとつだろうと、幼き日からの冒険で結論付けた。とはいえ今は季節外れだ。言い伝えにあるように、天の川が見えるわけでもない。果たして此処で祀っていた神が今、ここに居らっしゃるかも定かではない。それでも、男は荷物を降ろし、風呂敷を敷いて、その上に座り、空へ上った師らへも届けと、男は詠った。
それは、ふたつの星の物語。それは、かつて老人たちが失わんとした古き歌。かつての都を満たした唄。朗々と、詠唱し。
ジンと冷え込む闇の中。けれど男の歌声は、篝火は、遺構を照らした。そう長くもないその歌が終わり、男は次に、その歌にのせて笛を吹いた。誰もない白い闇の中、男はふと、鳥の羽搏きを聞いた。
ふと口を笛から離し、男はふっと微笑んだ。静かに立ち上がり、一礼し、去る。もっと時間があったなら、ここを綺麗にできたけれど。もう時間は多く残されていない。男は次に、御鏡の領域へと急いだ。
かつて。神は多く在ったという。その神々には、長鳴鶏のような神使がそれぞれに在り、人々はその神使に自らの思いを託し、大切にしてきたのだと。それが、いつからだろう。ここでは長鳴鶏ばかりを求めるようになった。それ以外の動物を蔑ろにしたわけではない。けれど、多くの御巫は、そして母ら父らは、我が子にこそ長鳴鶏よ宿り給えと。
そこにあったのは、黄金と白銀の動物たちの彫像であった。兎、猪、蛙や鳥。それよりももっと雄大な、狼や鹿や、ましてや龍なども。
…
彫像、というには今にも動き出しそうなほどに緻密で、精巧で。
…
そうだ、本の中で見た機械のような外観をしていた。
けれど、やはり打ち捨てられ、荒れ果てたその社には、命の気配もなく。水晶のような瞳に光が宿ることもなく。あるのは、過去の残骸のみ。男はまた、祭壇の前に風呂敷を敷き、コトを取り出した。
それは、神々の使いの物語。それは、かつて老人たちが取り戻さんとした古き歌。昔々からその地を守りし御使へ、感謝と敬意を伝える唄。揚々と、詠唱し。
天に月輝る社には、久方ぶりの音が鳴る。どこまで行って、どこから帰って、それも果たして誠か噓か。けれど男は顔を上げ、動物たちの面をじっと見上げた。静かに立ち上がり、一礼し、去る。いつかここに戻って来ることはあるのだろうか。いや、しばらくは戻っては来ないのだろう。では、忘れ去った民がここをまた、磨くことはあるのだろうかと。後ろ髪引かれる思いで、男は去った。随分離れたそのあとに、男は狼の遠吠えを聞いた。
男が最後にやってきたのは、御剣の領域であった。月の青い光が降り注ぐ、磐境。ぼこりを盛り上がったそれは、しめ縄を纏った蛇のような形をしていて。早速と、男は身支度を始めた。必死で縫い合わせた急拵えの衣を纏い、烏帽子を被り。剣に見立てた銀を掲げ、そして、名乗りを上げた。
それは、大蛇退治の物語。それは、かつて老人たちが忘るること勿れと受け継いできた古き歌。かつてこの里を切り開いた神々を祭るための、禁じられた男舞。婆娑と、舞い踊り。
相手もおらぬひとりきり。けれども男は、なお舞い続けた。足取り激しく、力強く。酒を拵え、剣を振るえば、ふと気が付けば身を大蛇に巻かれ、けれどももがき、もがき、剣にて、その首を落とした。息も絶え絶えに、けれど整え尾を切れば、そこに在りしは神の御剣。これに名を付け、奉納せんとすれば、どこからともなく、拍手の音がした。
男は振り返る。磐境に、黒い肌の、筋骨隆々とした大男が不敵に座っていた。見事な舞であったぞ、と。そこには最早、大蛇の姿はなく、けれど手にはなお、斬った感覚が残っていた。
祭囃子が離れて久しい。人の子よ、何故ここに参った。低い低い声。けれど男は堂々と背を伸ばした。私は夜明けとともに、この里を離れるのです。この舞は、我が師らより受け継ぎしもの。けれど私は、何時此処へ戻るかもわかりません。
…
いえ、もう、戻らないでしょう。故に、せめてひとたびだけでも、然る場所で御神楽を舞いたかったのです、と。
あぁ、あぁ、そうだろうとも。知っている。お前は幼き頃より、あちらこちらを駆けずり、うろつき回っていたな。だが近頃は落ち着いていたと思ったが。
…
そうか。黒き神は笑った。
…
その剣を譲っては貰えないかと。男は頷き、跪いては、模した剣を差し出した。神は恭しく手に取り、そして、磐境に奉納した。
さあ、行け。もうすぐに、夜が明けるだろう。
その声に、は、と目を覚ます。気が付けば、此処には自分一人しかいなかった。夢か現か。けれど手の中にあったはずの剣は、磐境に添うように、ひっそりと佇んでいた。
男は拝んだ。そして身支度を整え、もう一度荷物を背負い、山を下り始めた。
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