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河童の皿箱
2025-12-18 09:11:15
41671文字
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遊戯王:長め
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その男は、楽人であった。
あるグループがグループになる前、昔のさらに昔の話。
※捏造の濃度が高い。
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日が昇り、浅い眠りに光が沁みれば、目覚めと共に稽古へ出かけ、道中どこかで飯を食い、日が暮れるまでコトを弾く。立ち合い稽古の日はたっぷりと掃除をするなり、居残り練習なりで時間を誤魔化し、師のもとでの指導の日は、どれだけ叱責されようと、じっと黙って、正しい旋律を、誠実に、忠実に。帰り道、適当な場所をぶらついて、適当な場所で飯を食い、一旦帰って、コトを連れて家を出る。そして、どこかで夜を明かす。眠れる日もあれば、眠れない日もある。
…
それが、幼き男にとっての1日であった。どこであっても、居るも居ないも同じこと。とはいえ、椅子を用意してくれたらしい櫓に向かうために、男はにっこり笑い、先ゆく松明に従った。
その道中、鉄工はよく、家族の話を口にした。曰く、妻は美しく、愛らしく、強かで、愛していると。そして、妻との間に子供が居るのだと。その子供は男で、誰に似たのか、やんちゃ坊主で困ったものだと。それでも、可愛くて可愛くて仕方がない。それに、子供だってまだまたたくさんほしい、と。そう、笑っていた。しかし、妻は御巫としてはもう高齢で、これからの未来をどうしていくべきだろうと、悩んでいるのだという。あいつは御剣の長として申し分ない才覚がある、でも、本人がやりたいかは別だしなぁ、と。矢継ぎ早に繰り広げられる話に、楽人はにっこりと笑った。
そうこうしているうちに、櫓へと辿り着けば登り、商人の隣の椅子に腰かけ、じっと暗闇を眺める。遠く遠くの山々の、さらに遠くのお月さま。星々煌めく夜空はまあ、いつもの通りであった。商人は櫓に、本をいくつか持ち込んでいた。今月は見張りがあるから遠くまでは出られないが、この里の外にも出て、いろいろ仕入れているんだ、と。ただこうしているだけでは暇だろう。好きなのを読むといい、と。物見櫓の鐘の下で、男は本を吟味した。
文字は習っている。読もうともえば読むことはできる。けれど、表紙も題名も、何やら聞いたことのない言葉ばかりが並んでいた。男が悩むその間、鉄工は商人にとある話を持ち掛けていた。実はさ、家族との思い出をいっぱい残したくって。写真機が欲しいんだけど、何か良いのはないか? その問いかけに、商人は頷いた。良いだろう。確かこの間仕入れた中に、里の外の物がまだ残っていたはずだ。用意はしておこう、と。色の良い返事に、鉄工はすっかり機嫌をよくしては、鼻歌を歌いながら、また見張りの番に戻っていった。
楽人はほとんどふたりに構うことはなかったが、しかし本を選ぶこの瞬間だけは、なぜだかすこし愉快な気分になれた。ひとつ本を手に取って、ぺらっとめくってみては、また別の本の初めだけを見てみる。どこの誰かもわからない人の自慢話、どこで起きてるかもわからない不可思議話、どこと地名は書かれていても、それが一体どこであるのか、男にはとんと見当がつかなかった。何と名前が書かれていても、それがいったい何なのか、男には全く想像がつかなかった。カメラ、カメラとはなんだ? コンクリート? ジェットパック? デンシャもバスもシンカンセンも。絵が描かれても、形が分かっても、こんなもの、里にはない。男には理解ができなかった。不明に直面するとともに、男は徐々に、しかしその一晩だけで、自らが如何に文字しか読めないのかを知った。故に男は、口を開いた。辞書が欲しい、と。ポツリ呟いたその言葉に、鉄工も商人も目を瞠った。ふたりは破顔一笑、それなら次は、辞書と、図鑑も持ってこよう、と食いつけば、楽人は怯んで後ずさった。前のめりになる商人を、鉄工が抑え込んで謝れば、けれど楽人はにっこり笑った。
なあ、と。鉄工が商人にひとつ、提案をした。この子は楽人だから、里の外の音楽の本とかどうだろう。そのぉ、俺は全く詳しかないが、こいつならわかるんじゃないか。そういうところから、楽しんで読めたらなって思うんだが。その言葉を、商人は早速と手帖に描き入れた。他に欲しい本はあるかいと、商人が楽人に問いかけたが、楽人はまっすぐ商人の目を見て、にっこりと笑うばかり。びっくりさせちゃダメだろと、鉄工が背を撫で、商人は重ねて謝罪した。
元服の少し前の男に、どうしてふたりはここまで構うのだろう。楽人は不思議で仕方がなかった。
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