Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
河童の皿箱
2025-12-18 09:11:15
41671文字
Public
遊戯王:長め
Clear cache
Export ePub
その男は、楽人であった。
あるグループがグループになる前、昔のさらに昔の話。
※捏造の濃度が高い。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
ふ、と。目を覚ます。あいも変わらぬ水辺に腰掛けて、少年はじっと、霧を眺めた。
どこまで行こうが、どこを向こうが。霧はなおも己を包み、沈黙する。少年は毎夜、そんな夢を見た。けれど夢、というには、地に足がついて、頭が冴え渡っていた。これは夢だと、夢中ながらも気づけるというのに、もしもここが現実だったらと考えれば、肝が冷えた。
…
とはいえ、ここには水以外の何もなく。目覚めの時がくれば、夢はいつでもこの身を手放した。なにも不安に思うことなどない。けれども、どこまで行こうが無意味だと、どれだけ目を凝らそうと無意味と、そう知ってしまえば、退屈極まりなかった。
あぁーあ。ここに、コトがあったらなぁ。
そう、目を閉じる。すると、なにやらずっしりとした重みがあって。目を開けば手元には、我が半身があった。
…
つくづく、夢は不思議だと、そう思った。けれど、これで暇は潰せるだろう。少年はコトを爪弾いては、祝詞を口ずさんだ。
ふ、と。目を覚ます。控えの間の窓の外には、雪が日を映し、キラキラと輝いている。快晴だ。しかして未だ、頭と胸の霧は晴れず。布団から這い出してみれば、体はやはり浮かび上がっているかのように不安定で、しかと足を地に着けているのに、なおも不安で不安で仕方がなかった。振り払うように着替えを済まし、厨に向かう。
あら、おはよう。元御巫の老婆が、もうここにいた。おはようございます、と頭を下げては、前掛けをつける。それじゃあ、今日もお勉強しましょうねぇ、と。火が燃え盛る竈には、湯がぐつぐつと煮えていた。
あなたは器用だから、なんでもすぐ覚えるのう。教えてて楽しくて仕方ないわ。老婆はふふふと微笑んだ。火の入れ方や、野菜の切り方、米の炊き方に、味の付け方。かれこれ半月、けれど少年はそのおおよそを理解し、ほとんどを自発的に行うようになっていた。米を炊き、根菜を煮込み、味噌を溶かし、味見をし。出来上がった朝食を盛り付けたら、3人前を食卓まで運んだ。
おぉ、おはよう。もう出来たんか、と。穏やかな老人がまた、微笑んだ。この老人と老婆は、夫婦なのだそう。えぇ、もう出来ましたよ。これならもう、ご飯の心配はないじゃろう、と。
まだ、他の老人たちは来ていない。それもそうだ、ふたりは少年の朝食を気にして、こんな日が出てすぐの時間にここを訪れているのだから。朝食に箸を入れ、里芋を頬張れば、うん、よう煮えとる。美味いのう、と。少年は頷き、しっかりと飯を平らげれば、しわくちゃの手は穏やかに、少年をあやすように撫でた。
明日からはちょいと家が忙しくてのう
…
儂らも少し、来るのが遅くなっちまう。まあなに、皆が来る時間になれば、儂らも来るわい。心配はせんでくれな。そうねぇ、もうあなたは十分お料理ができるから、今度は別のお勉強もしてみましょうか。例えば、お裁縫とか。大丈夫よ、お昼は儂も作るからの。やりたいことがあれば、いつでも言ってちょうだいね。ジジイとババアは教えるのが大好きなんだから、と。
朝食の片付けをしているうちに、老人がひとり、やってきた。深い深い眉間の皺と、じっと見下ろす視線。気難し屋の老人だった。少年は頭を下げ、そそくさと去る。たぶん、あのふたりが遅くくるようになったら、この人がはじめに来るようになるだろう。けれど、少年は不安であった。目を合わせれば、鼻がフンと鳴る。そしてそっぽを向いて、縁側で外を見る。口数は多くないし、まるで睨まれているようで、どうにも苦手であった。
今日もまた、鼻を鳴らして縁側に座る。穏やかな老人が隣に座り、少年は足早に自分の部屋に引きこもった。
押し入れにしまった本を取り出して、読みかけの丁を開いては、隅に固まってじっとする。遠く遠く離れた街の、ロックという音楽。嫌気が差した若者たちが、ワァと叫んで、叩きつける音楽だという。ギターやベースという琵琶のような形の楽器、ドラムセットというたくさんの打楽器が一緒になった楽器、キーボードという何やらよくわからぬ楽器。果たしてどんな音なのかと、想像を浮かべてみる。けれど、雪に覆われた山々の静寂は、離れた世界の喧騒ではなく、同じ屋根の下の話を運び込んできた。
ほれ、怖がられておるじゃあないか。もうちっとその皴をなんとかせんか。
ふん、黙っとれ。勝手に怖がっとるのはあいつじゃろうが。
それはそうかもしれんがの、あの子は傷ついておるんじゃ。傷が治るには時間がかかる。あの子には、心穏やかに過ごしてほしいんじゃよ。
…
あぁあぁ五月蠅い。わかっとるわ。だが、あいつを傷つけたのは儂の家じゃ。わしの愚息どもじゃ。血だ家だと踏ん反り返って威張り散らして、あいつを此処まで蹴りだしたんだろう。
…
なのに、どういう顔して近づけばいいと?
…
わかっとる。分かっとるよ。お前がそれで悩んでいることもよぉく知っとる。それでも、今は
…
少し優しく接してやってくれ。
パチン。将棋盤の上に、駒が置かれる音。少年はその鮮明な声になお、耳を澄ませた。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内