Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
河童の皿箱
2025-12-18 09:11:15
41671文字
Public
遊戯王:長め
Clear cache
Export ePub
その男は、楽人であった。
あるグループがグループになる前、昔のさらに昔の話。
※捏造の濃度が高い。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
すっかり静かになった火鉢と、ずっと抱きついていた布団の塊と。明るい部屋のその光を目で追ってみれば、あぁ。ちょうど朝のようであった。布団からなんとか這い出てみれば、あいも変わらず凍えるように寒く、頭や胸や、それに目がどうにも痛かった。
あぁ、なんてことを。男は自らに深く失望した。何者かも知らぬ誰かの前で、酷い醜態を晒したことは、よく覚えていた。
これから、どうしよう。
死に損なった己に、一体何ができるというのか。それでもなお、この身はあの優しさを求めてしまって。死と生が体の中で塒を巻き、絶望の虚が足に纏わりつこうとしたその時であった。おはよう、と。声をかけられた。そちらについ目をやれば、襖の先から声をかけられたようであった。程なくしてすうっとひらけば、そこにはしわくちゃな老婆が座っていた。その傍らには、皿の乗ったおぼんがあった。
さ、改めて
…
おはよう。昨晩は随分、大変そうだったじゃあないか。お腹は空いてないかい? いっぱい泣いて、喉も乾いたじゃろう。ほれ。そばまで寄ってきた老婆は、少年にそのおぼんを差し出した。
ほかほかと湯気をたちのぼらせるお粥。自らの腫れ上がった顔を映した湯呑み。少年が戸惑えば、老婆はにっこりと、穏やかに笑った。なぁに、遠慮しなくても良いのよ。子供は甘えるのが仕事なんだし、ババアは甘やかすのが大好きなの。残されちゃったら悲しいわ。それにあなた、お熱が出てるからのう。しっかり食べなきゃ。
そう、言った。少年は耳を疑ったが、けれど老婆の声には、同僚たちのような企みもなければ、両親のような厭気もなく、ただただ案じられているのだと。少年はなお戸惑ったが、観念して匙を手にした。
い、いただきます。
はぁい、どうぞ。老婆の声に目を配り、けれど淡い香りの粥に引き寄せられて。匙を粥に沈めれば、数粒乗っかって。口を開いて、ひとくち。噛み締める間もなく、またひとくち。もうたまらなくなって、一気に掻き込んで。その度に、目は勝手に涙を流した。
お味はどうかね? 尋ねられれば、少年は飲み込み、そしてしゃくりあげた。おいしい、です。どうにも体は言うことを聞かなかったが、それで老婆は微笑んだ。そうかい、そりゃあ良かった。積もる話はあるけれど、まずはゆっくり休むんじゃ。
…
そういうても、今日は年の瀬。夜通しジジイどもが騒いでうるさいが
…
そこは勘弁しとくれなぁ。涙はとめどなく。けれど老婆は気にも止めずに、そうっと背中を撫でた。
すっかり平らげてしまえば、体の調子もそれなりには良くなった。岩が詰まっているかのようだった頭の痛みも、息ができないような胸の痛みも。僅かに水が流れ出したような、そんな具合で。もしかして涙が出るのは、そのせいか。はい、お粗末さま。老婆がせっせと片付けて、また火鉢に新しい炭をくべた。その頃になると、外から賑やかな声が聞こえ始めた。
やあ、おはよう。おはようさん。薪はあったかのう。蓄えはたっぷりある。今日は宴じゃ、宴じゃ。襖の向こうの広間にぞろぞろと、老人がやってきた。おっ、坊主が目を覚ましとる。起きたぞー、起きたぞー。そう誰かが声を上げれば、老人たちは次から次へと少年の部屋に押しかけ
…
ようとしたが、老婆が一喝した。コレ! この子はまだ起きたばっかりだよ! そんなにたくさん来たら怖がるじゃろうが! 熱もまだある! ホレ、あっちで将棋でも指しとれ!
おうおう、怖いのう。婆にゃあ敵わんわい。肩をすくめて退散していくその景色を、少年はじっと眺めていた。すまないのう。でも、みぃんなあなたを心配してたんじゃ。許してやっておくれ。少年はなおも目を疑ったが、首を横に振った。
大丈夫、です。あの
…
。
おおーい婆! 将棋盤はどこじゃあ! 老人の元気な声に、老婆ははぁーと深いため息をついた。全く手のかかる爺じゃのう!
…
こんなんですまんのう。ともかく、ゆっくり休んで元気におなり。お昼もまた、持ってくるからね。
老婆はそうして、部屋を後にし、襖を閉めた。
…
なんだか、すごいところに来てしまったのかもしれないと、少年は今更ながらに思った。
でも、まだもう少し。生きててもいいみたいだ。ふぅー、と。長い長い息が出て、また涙がこぼれた。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内