河童の皿箱
2025-12-18 09:11:15
41671文字
Public 遊戯王:長め
 

その男は、楽人であった。

あるグループがグループになる前、昔のさらに昔の話。
※捏造の濃度が高い。



 かくして、少年は自らの居場所と、半身の置き場所を得た。四畳半の広々とした控えの間は、少年が寝転がって大の字になってもまだまだ余り、押し入れには3つの鞄と布団がぽつんとあるばかりで、全くいっぱいにはならず。本当にここに居ていいのかと、何度も疑うほどであった。だからこそ、折々に少年は尋ねた。しかしながら御隠居達はにこやかに答えた。ここに住んでいるわけじゃあないんじゃなあ、これが、と。

 山奥に坐するこの古びた屋敷は、元より集会場であった。長く長く使われてきた屋敷であったが老朽化が進み、かれこれ少年の代の3つほど前に、新たな集会場がもっと集落に近い場所に建てられ、役目を失っていたのだという。
 しかしながら取り壊すにはもったいないと、懐古主義の御隠居達が互いに金を出し合って職人を雇い、この屋敷の手入れと維持を続けてきたのだという。そして、自らの役を退いた後、仲の良い老人たちはここを訪れ、日中を過ごし、夜になる前に山を下りて帰るのだと。

 元御巫の老婆はここで、ずっと料理をしてみたかったのだと自ら厨に立ち、そして朝や昼の飯を振る舞った。もちろん、少年も大きな大きな食卓に招かれれば、ずらり並んだ煮物や汁物、それにホカホカ炊き立てご飯に迎えられ、あたたかな出来立ての食事にありついた。ほら、遠慮しなくてええんじゃよ。男の子はいっぱい食べんとのう、と。差し出されたのは正に山盛りの飯であった。少年はうろたえたが、何故か不思議と、全部を平らげてしまえた。
 どうじゃ、旨いじゃろう。にこにこと、穏やかな老人は笑った。初めの頃は米は焦げだらけのガチガチでのう、そりゃあ大変じゃった。でも、上手くなったもんじゃろう? と。そんな一言には、老婆の拳骨ひとつ。余計なことを言うんじゃあないわ、と。胃袋で何とかしたんじゃから許しておくれ、と手を挙げて、なんとか許しを得たのであった。

 この穏やかな老人もまた、老婆と同じく御神楽に携わっていた。というよりも、ここに集まる御隠居達は、ほとんどが元楽人であった。朝な夕なに稽古でもなく音を出し、家の者に五月蠅い、別のところでやれと追い出され、故にここには楽人ばかりが集い、そうでなくとも家に居づらい老人も居て、さらにそんな連中の面倒を見てやると、元御巫の老婆が加わった、のだという。
 しゃあないのう、現役の邪魔をするわけにはいかんし。やれやれ、可愛い娘にゃあ敵わんわい。御隠居達は口々にそう言った。けれど元は切磋琢磨をした同じ役目の者たち。おおよそ同じ経緯で集い、同じ目的で楽器を持ち寄れば、やることはひとつ。
 とはいえ、全員が同じ流派ではない。それこそ、初めは分かりあうことはないかもしれないと思っていたらしい。しかしながら、稽古場では毎日のように聞く、自らが正しく、自ら以外は誤りであるなぞ、だれしもが口にしなかった。これも正しく、それも正しい。一緒に楽しく演奏できれば、それが良い。だれしもが、ただただ単純に音に耳を傾け、響きに心を動かした。

 つまり、ここは儂らの遊び場じゃな。将棋を打つ老人らの横で、少年はじいっと盤上を眺めていた。儂らももう少なくなったからのう。部屋が広くてかなわんわい。だからホレ、お前さんがここに住んでくれりゃあ、ちょうどええんじゃ。そうして、老人はしわくちゃな手で少年の頭を撫でた。
 さてと。僅差で勝負がついて、老人が腰を上げれば、少年に手を差し伸べた。お前さんも一緒にやらんかね。お前のコトはええ音じゃ。一緒にやってくれたら、儂らも張り切っちゃうんじゃがのう。

 少年は頷いた。自らの部屋に向かい、真新しいコト箱から取りだして広間に向かった。