【創作|馬軸】春雷 伸長- 日盛りと鶏鳴

※支部からの転載版です。内容は変わりません。四話~六話収録。




「ヤナ。どうだよ、ロジェールマーニュは」

ロジェールマーニュの調教師である国美道長は、馬装を片付けているその騎手に話しかけた。
柳沢俊一。嘗て、ロジェールマーニュとラヴウィズミーの祖父馬であるシャルルを、無敗の三冠馬に押し上げた騎手である。
すこしこけた頬が病との戦いを表すようだった。黒髪はグレーになり、同い年の国美よりもかなり老けて見える。

「国美ちゃん……いやぁ……やばいね。強い馬だ。ひやひやしたよ」
……お前には負けたがな。だが次の天皇賞・春はわかんねえぞ」
「そうだね。后子ちゃんに『望むところです』って言われたし、きっとロジェールマーニュは天皇賞・春に来るだろうね。そうなったら神代さん、馬を出すのはシャルル以来じゃない? 勝てばそれも……シャルル以来の勝ちになる」

柳沢はそんなことを言う。国美は驚いたように目を丸くして笑った。幼馴染にしかない空気が、わからない間合いが二人の間にはある。冬の冷たい空気が一瞬吹き込んだ。

「何だヤナ、お前。ロジェールマーニュに負けると思ってんのか?」
「まさか。勝つよ。これは仮定の話だろう? 勝敗はその時になってみないとわからないさ」
「ま、それもそうだ。………………おかえり、ヤナ」
……うん。ただいま、国美ちゃん」

国美は何も言わずにその場を去った。口元に緩やかな笑みを残してはいるが、心の奥には闘志が静かに燃えていた。次の舞台でロジェールマーニュとラヴウィズミーがぶつかったならば。

勝つのは、俺たちだ。その決意が国美の心を燃やす。