【創作|馬軸】春雷 伸長- 日盛りと鶏鳴

※支部からの転載版です。内容は変わりません。四話~六話収録。




……ロジェぁぁああ!! ロジェ!! これ……これ勝てるぞ!! ロジェ!! 頑張れ!! 后子ちゃん!!」
「秀吉さんうるさいですよ、聞こえないじゃないですか……いや、でもこれは行ける!! 行けるぞ白綾!! 白綾ぉ____!!!! 頑張れ____ッッ!!!!」
「いやうるっさ!! 瀬川先輩も人のこと言えないっすよ本当……ってえ!!!? 先頭!? ロジェールマーニュ先頭!? 嘘、マジかよ!? スワンレイクリターンズだいぶ引き離してんじゃん!! は、白綾先輩頑張れぇ____!!!!」

共有ルームは后子の名を叫ぶ者、ロジェールマーニュの名を叫ぶ者と半々程度だったが、誰もがテレビ画面の中で先頭を高速で突っ走るロジェールマーニュの姿を凝視していた。
引き離されている牝馬スワンレイクリターンズは鞭を合図に再加速してロジェールマーニュを捉え始める。彼女は六戦六勝の歴史的名牝、それだけではなくエリザベス女王の所有する馬だ。騎手も女王の御前で負けてたまるかと檄を飛ばす。
しかし白綾后子もまた同様に負けられない、負けたくない意地がある。騎手二人の意地がぶつかり合う直線でついにハナを突き進むロジェールマーニュの二分の一馬身ほどまでにスワンレイクリターンズがやってきた。

「逃げて后子ちゃん!!!! あとちょっと!!」
「差される!! 白綾逃げろ!!」
「白綾先輩、後ちょっと!! ロジェールマーニュ……!!」

何だか悲痛な武内の声を皮切りに、残り数十メートルとまで迫った画面越しの二頭に騎手たちの声が浴びせられる。必死に后子の鞭に応え、スワンレイクリターンズを引き剥がそうと試みるロジェールマーニュ。絶対に差すと差を詰めていくスワンレイクリターンズ。


……__ロジェールマーニュ、スワンレイクリターンズ!!!! もつれ合うようにゴォォオオオオル!!!! どっちだぁ〜〜〜〜!!!!』


その部分だけ、妙に実況の声が大きく聞こえた。先程まで大騒ぎしていた騎手たちは全員黙る。写真判定となったようですね、と解説が付け加えた。まだ確定した、という言葉は出ない。アスコット競馬場の場内映像がテレビ画面には映し出されている。

「同着でええやんか……
「女王の御前なんだからさぁ、気前良く優勝カップ二つくれよ」
「めっちゃわかる……もう審議始まって五分は経ったろ」
「ずっと場内映像流れてるけどアスコットってやっぱすげえな。見ろよドレスに燕尾服」
「うわぁ……確か優勝騎手、関係者は宮廷で晩餐会だっけ」
「マジかよ。何そのロイヤル感」
「ロイヤルアスコット開催だからな……

不安感を紛らすように騎手たちは喋っていた。既に審議開始から十分が経過しようとしている。瀬川は徐に二本目のハイボールを開けた。武内は立ち上がって枝豆と焼き鳥を何処からともなく持ってきて食べ始める。市村もほうじ茶を自分のマグカップに追加した。


『あっ!? 確定しました!! __優勝はスワンレイクリターンズ!!』

しん、と一瞬で共有ルームが静まり返る。ロジェールマーニュ失格とか言われないよな、という緊張が、口に誰も出していないのに公然と共有された。

『ロジェールマーニュは……

ロジェールマーニュの名がアナウンサーの口から出る。そっぽを向いていた騎手たちは一斉に視線を画面へ戻した。


『__ハナ差三センチで二着!! そして決着はレコードタイムです!!』

「ハナ差……三センチ……


瀬川の声がポツリと床へ落ちた。
あれほど強い馬でも負けるのか。白綾后子とロジェールマーニュでも欧州には勝てないのか。ほんの僅かな差だった。誰が見ても同着で、映っていたスワンレイクリターンズの騎手でさえ首を捻っていた激闘。
そんな戦いで、決着はレコードタイムというおまけ付き。

「同着でいいだろこんなん……

瀬川はハイボールを一気に半分まで飲み、武内が食べていた焼き鳥を一串強奪した。「あーっ!?」という武内の声は無論ガン無視して。