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アスナショウコ
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【創作|馬軸】春雷-極光
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【創作|馬軸】春雷 伸長- 日盛りと鶏鳴
※支部からの転載版です。内容は変わりません。四話~六話収録。
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第二コーナーを通過して二本目の直線へ突入する。僕は前を見据え、二番手に追走する馬の横顔を捉えた。僕に位置を譲ってくれたナヴィアヴェラは僕から三馬身後方につけており、僕は出来るだけ彼が前に行けるだけの隙間を作ったうえで前を狙った。それも后子の指示だ。
二番手と三番手は横に広がっており、今の位置では外を回らなければ先頭へ行くことはできない。今外を回れば距離を無駄に走る必要が出る__というのは、僕と后子の一致した思いだ。
(流石に簡単に勝たせてもらえるわけあれへんな)
そんな声が聞こえる気がする。だが、后子は落ち着き払っており僕もそれに倣う。僕は后子の意志の輪郭を理解し始めていた。
恐らく、この直線が終わるギリギリまでこの位置で粘る。そうするとこの馬たちはコーナーロスを減らすために内側へ入る。となると、外を通る道が開く。そこが開いた瞬間に加速し、その外を回って__前へ。
僕の予想と后子の思惑は嚙み合っている。それは手綱から銜へ伝わる感触でよくわかる。
「____行くよ、ロジェ」
(ああ、行こう。そのために____ここにいる)
コーナーが迫る。前の馬たちは予想通りコーナーロスを減らすために内側へ少し入った。后子は手綱を動かして僅かにできた外側の道へ僕を誘導し、僕は後ろ脚で芝を蹴り飛ばして更に加速した。コーナーリングは正直日本よりも大変で__アスコット競馬場のコーナーは急で素早く手前を交代させる必要がある。そうしないとただでさえ外側にいるのでさらにロスが生じるからだ。三本目の直線へ入り、二番手に付けて先頭を走る馬の影を踏んだ。後方の馬たちはかなり縦長になっており、ナヴィアヴェラは中団より少し上ぐらいか、四番手から五番手の位置にまで上がってきている。
後半。ここから全体のペースは上がり始め、隊列がさらに縦長に展開していく。最後方にいる馬が前に届くかどうかはここからの展開がカギを握るだろうが、この段階で二番手まで位置を押し上げた后子の腕は正しいと僕は確信していた。脚は残っている。息も続いている。芝の感触には最初の長い直線で既に慣れている。だから、このレースには__
勝てる。
后子は手綱を前へ動かした。第四コーナーが迫り始める。僕は真横を走っていた欧州馬を抜き去って前へ躍り出た。前にはもう誰もいない。僕らだけだ。追われるのは慣れている。しょっちゅうだ、そういうレースをずっと日本国内でしてきた。
「
……
行ける!!!!」
(__勝てる、いや
……
勝つ!!)
何かが軋むような音が僕の耳に飛び込んだ。僕は手綱の動きに従って走るリズムを速くして脚を素早く動かす。このコーナーを超えれば残りは直線となる。手前を交代させながら最短距離の直線を突っ走ればいいだけのことだ。手前を交代させるのは后子の指示がある。考えるな。脚だけ動かせばいい。右鞭が入れば右へ手前を変え、左鞭が入れば左へ手前を変えればいいだけのこと。
__脚を動かせ、馬体を前へ運べ! 後続が迫ってきているのは音でわかっている。スワンレイクリターンズが来ている。彼女の鹿毛の馬体がもうすぐそこまで追走しているのはわかっている。振り切って逃げて、そして突き放す。そうやって勝つのが僕らのやり方だ。
僕は后子の鞭を合図にさらに加速し、手前を左に変える。ゴールが迫って来る。踏みつける足場が後方へ飛ぶ。景色が視界で流れ去る。
ゴールまで、あと二〇〇____
欧州の馬場は重い。本当に重い。速く走ろうとすればするほど、一気にスタミナが削れていくのがよくわかる。過去の日本馬が敗戦した理由もよくわかる。本当にしんどい。もう今すぐに走るのをやめて帰りたくなるぐらいにはしんどい。それでも僕は絶対に走るのをやめる気にはなれない。
だってそうだろう。鞍上には后子がいる。もう負けないと誓った。后子に敗北の泥を被せないと決意した。后子を乗せてどこまでも駆け抜けていくと誓った。
ゴールまで、あと一〇〇____
右に手前を変える。半馬身程前に僕はいるが、スワンレイクリターンズを振り切れない。やはり欧州の歴史的名牝を振り切って何馬身もつけての完勝は厳しいかもしれない。
いや、そんなことを考えている場合じゃない。もうあと数歩で決着がつく。目の前にゴールが迫っている。スタンドの歓声が耳を叩く。后子の左鞭が飛ぶ。手前を変えてさらに前へ。
「__ッ、ゔぁァア!!」
(__振り切れる、行ける!!!!)
刹那、ゴール板を通過した。真横にはスワンレイクリターンズ。彼女と同時にゴール板を通過し、僕は向こう側まで走って、スピードを緩めていった。分からない__本当に僕が先着したのか? 想像以上に息が上がっているのが自分でもわかる。僕は手綱を引かれて常歩に切り替えて歩き息を整えた。
「
……
ごめん、ロジェ
…………
しんどかったよな、頑張ってくれてありがとうなぁ
……
」
(僕は大丈夫。
……
君の方が痛そうだよ、后子)
后子の口から血が出ている。唇も切れているようだが、口の中から血液が漏れているように見えた。僕は后子を気にしながら、彼女の誘導に従ってスタンド前へ戻り来た道を帰る。
スタンド含め、場内はざわついていた。恐らくまだ決着が出ていないのだろうな、と僕と同じように帰っていくスワンレイクリターンズを見て思う。未だ決着はなく熱の残る会場では、騎手たちの声も馬の歩く音も、何もかもが全て遠いもののように聞こえていた。拍動している心臓の音だけが僕の鼓膜を揺らしている。
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