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「もう紡ぐべきでもない記憶でしかないの」

H SPRING -4



「オウイチロウさん……この学校ってこれ以外に可愛い柄のやつとかないんですか?」
「ないな」
「はあ……

学校へ向かう為オウイチロウさんと並んで歩く私だが、制服の地味さに嘆いていた。
勿論彼と全く同じデザインのものでお揃いだとかはしゃげばいいのかもしれないけどううん……可愛くない……
テレビで見かける高校生はもっと可愛いやつを着てたりするから憧れていたのに、私には選択肢がないことを悔やむ。

「っていうかその格好だとオウイチロウさんまで入学式に来た学生だと思われませんか?」
「俺、これ以外に服あんま持ってないから」
「え……、え?まさか制服だけいっぱいクローゼットに入ってるってことですか?」
「そうなるかな」
「私オウイチロウさんのこと滅茶苦茶好きですけどそういうところはちょっと無理かもしれません」

なんで制服にこだわるんだろう?
服は己を魅せるものだ。ならばプライベート位は自分をより良く見せるべきだろう。
なのに制服なんて着てたら高校生と間違われてトラブルになることが多いだろうしなーんにもメリットないと思うんだけど?

「変に勘ぐってそうな顔してるから言っとくけどほんとに意味はないからな?ただ、地味だからこそ着やすいだけだ」
「そんなのもったいないですよ!オウイチロウさんかっこいいのに~」
「ははは、どーも。でも……コンプレックスが強いからさ。何かを自由に楽しむってことが俺にはできないんだ」

私から見てオウイチロウさんがコンプレックスを感じるところ見た目にはないだろうに、と思ったけれど……

「角……
「やっぱみんな頭のこれ気にするよね、うん……。俺だって好きでこんな髪型してる訳じゃないんだけど」
「やっぱ寝癖じゃないんですね?」
「なんかね~気づいたら頭こうなってて。すごいでしょ~なぜか神経通ってるみたいに動くんだよ~」

そういって手品みたいに触角をぴよぴよ上限に動かす。
耳を自在に動かす特技なんてあるらしいけど、髪の毛なんてどうやって自分で動かすんだ……
私は奇妙な光景に「あ」の口を作り見つめていた。
オウイチロウさんもまた困った顔で溜息をついている。本当に悩みの種なんだろう。
困ってるということは切ればいいとかそういうのはもうすでに試しているだろうし、良い案は浮かばない。

「俺の悩みごとより今日はお前が主役の舞台なんだから入学式のこと考えなよ」
「それもそうね!まずはクラス発表を見るのが楽しみだわ!と言っても私こっちに友達はいないからみんな初対面だけども」
………そうだな。あ、でもハヅキちゃんと同じ学校に通うって子に会ったよ?もしかしたら同じクラスになるかもしれないからそしたらよろしくねって言ったんだけど」
「あら、どんな子?」
「金髪の男の子」
「今朝の子かな……

朝会った隣の子も同じ学校ならますますあんなさっぱりしたお別れせずにもっと喋っておけばよかった!
お隣さんならすぐ近くだし、頻繁に遊んだりできるだろうし——……
会ったら今度は私から挨拶してあげよう!

「おー、いっぱいいるな」

保護者同伴だったり、一人でやってくる子様々に学校へとどんどん人が集まってきているのがわかる。
私たちも当然その群衆の一つとして混ざっていく。
開け放たれた正門の付近は特に密集していて【○○年度 入学式】と書かれた看板の前で写真を撮ったりしている人もいる。


「ねえねえオウイチロウさん!私も撮りたいな!お母さんとお父さんに見せてあげなきゃ!」
「うん、そうだな。俺が撮ってやるよ」
「一番の笑顔で写って見せるわ!私のことぶれずに綺麗に撮ってね!」
「はいはい」

なんだか今だけオウイチロウさんがお父さんみたいに見えてしまう。
母も本当は付き添いたかっただろうけど、生憎昔から母は朝から夜まで忙しそうに仕事している。
だから私一人の時間が多かったのだけど……

あれ……

なにかがおかしい。違う。
もう一人誰かが——……

「お、空いたぞ。ほら行ってこい」
「わわ。よーしやるぞ!」

なにかを思い出しかけたけど、一瞬で切り替えることにした。
私ってモデルとしては滅茶苦茶理想的だと思う。可愛いし、表情操作もポージングも得意で写真映え最強。
将来はほんとに読者モデルとかやってるかも~……むふふ。

「よし、ちゃんと撮れた。写真撮るなんてあんまりやったことないけどまあいい方じゃないか?」
「見せて見せて!うーん……30点かしらね」
「はあ!?なんでだよ!初心者にしては綺麗だろ!」
「わかってないですねえ……。オウイチロウさんは機械のおかげで手振れ補正とか助かってるだけで腕前としては卵ですらないですよ?」
「せっかく撮ってあげたのに消そうかな」
「わーん冗談ですよー!撮ってくれてありがとうございました!」

あははっと互いに笑いあう。
ああ、桜舞い散る晴れやかな空の下の私たちはそれはそれは良い二人組だろうな。
私の思い出にまた素敵な景色が残った。

それから私はクラス発表を確認して、一旦オウイチロウさんとは別れて教室の方に向かうことにした。
オウイチロウさんは保護者説明会に参加して私は教室でクラスの子や担任になる先生と説明会が終わるまでなんかするみたいだ。
なんかってアバウトだけど何をするのか私もよくわかってない。自己紹介とかかな?
一人歩いていると、朝方見かけた男の子が人込みに紛れて一瞬見えた。
私はせっかくだから話しかけてみようと近づいてみる……。が。

「へ~ナヲ君って言うんだ!これからよろしくね~」
「うん。よろしくね」
「きゃー!ねえねえ~ナヲ君は好みのタイプとかいる?」
「え。えっと……明るくて元気な子かな」
「うわー私とかどう!?」
「うーんそうだなあ……

……どうやら女の子に人気みたいだ。
確かにまあ思い出してみると好きな子は好きそうな感じだった。
にしても、これがプレイボールってやつなのか。すごいな。
私もイケメンに囲まれてひたすら好意を向けられてみたいものだ。
しかし……しかし私にはオウイチロウさんという心に決めた相手がいる。あそこに混ざるのはちょっとなあ。今度でいいか。
そうして私は教室の中に入っていった。
黒板には指定の席が書かれていて、私は一番前の窓際席で隣は「アオセ」という人みたいだ。
ちらっと見るが隣の席に人は見えない。

(まだ来てないのかな?)

とりあえず席に座る。
他の町から来た私というのはここらへんに縁のある人がいないからかちょっとぼっち。
まだ先生も来ないからみんな昔から仲良い人とかと笑いあっている。
ま、しょうがないか。学校で過ごす内に人と仲良くできるチャンスなんていっぱいあるし。
あーあ早くオウイチロウさんに会いたいなあ。
妄想で時間を潰していると先生が入ってきて、一斉に自分の席へと動き始めやがて静かになった。
結局、私の隣の席の人は自己紹介や今日の段取りの説明などが始まっても来る気配はないまま体育館への移動時間になってしまった。

入学式をばっくれるなんてやばい人じゃないといいけどな……