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「もう紡ぐべきでもない記憶でしかないの」

O SPRING -4



夕方になっても携帯になにも連絡がこない。
ハヅキのやつ、あんなにちまちま返信してたのに……
というかどうでもいいことですら逐一話題の種にしてやろうと熱心にメッセージを送っていた。
当然未読だと怒ってくるのはあちらなのだが、今回は逆だ。
俺が無視される側になっていた。
最後に送った『今日は何時終わり?』ってメッセージに未だに既読すらつかない。

「先輩なんで今日ずっと携帯確認しまくってるんですか?」
「お前もだぞ!お前があの子を怒らせたから確認メール送っても反応してくれないじゃないか!」
「えー?俺はなんも悪いことしてねえもん。俺の方が正論だったでしょあの時は」
「でも拗れる原因にはなっただろ」
「なにいってんすか、こうなった決定打は先輩自身の発言でしたよね?都合よく責任転嫁しないでください」
「はああ…………

講義が終わったからと皆が席を立ち出ていく教室の中。
隣には相変わらず厄介者x2が座っている。
積極的に喋りかけてくるストーカーと、講義の間しっかりと居眠りしているアホが。

「はっ。侮辱の気配を感じた」
「先輩今日は後の時間どうするんですか!俺もついていきます!」
「両手に花じゃなくて両手にゴミだよお……
「うるせえクズ」

居眠りしていた方が持っている赤いカバーの本で俺の頭をわりと本気で叩いてきた。
漫画本くらいの軽さなのでそこまでの痛さではないが。
携帯に映る時刻はもう18時である。

「一応あいつの様子見に行こうかなあ」
「またですか?俺あの女ちょっと嫌なんすけど……
「お前は別についてこなくていいよ」
「あ~じゃあ俺がついてってあげる~」
「お前もめんどくさいからいらん」
「こないだ逃げられたからあの子とあんまり絡めなかったんだよね~。会うの楽しみ~」
「くんなって言ってんだろ」
「こ、こいつが行くなら俺も行きます!」

俺はどうしていつの間に自分の用事を一人で解決できる状態でなくなってしまったんだ。
片方はどこへでもついてこようとする犬だし、もう一方はきまぐれで何考えてるのかわかんないしめんどくせえ……

「なにかんがえてんの。ナカイさんのことをわかってあげれるのはこの世でオウイチロウくんだけなんだゾ(ほしっ)!」
「この頭おかしいクソミドリは何を言ってるかわかりますか?」
「わからないしわかりたくもない」

席を立ち、鞄を背負って外へ出るのだけど鞄以上に重いものがのしかかってくるから背筋は自然と悪くなる。
はあ。俺のことはほっといてほしいのに。
人気者はつらいね!
ははは……………………はあ……はやく俺を楽にしてくれ。

この大学はあの子の家とそこから通っている高校よりはさらに遠い距離にある。
自転車やバイクなどで登下校している方が圧倒的に多いだろう。
たまに俺みたいに徒歩で来れる範囲のやつもいるけど。
一応直接電話してみようともしたんだが、まったく反応がない。

「あ、思い出した。俺あの機械渡しに行かないといけないんだった」
「そういえば。直ったの?」
「もちろんですとも!俺に直せぬものなどあんまりありません!」
「そこはあんまりなんだ。なんか似たような言葉聞いたことあるな……
「ちょっと俺は先に行ってきます!後から行きますからね」
「多分お前後から来ても入れてもらえないよ」
「無理やり入りますからね」
「犯罪予告だろ」

ストーカーの人は機械を持って走り行ってしまう。
右肩の方が楽になった気がする。さてはあいつ悪霊かな?

「ん~。お目当ては今は公園にいるっぽいけど大丈夫?」
「ハヅキが公園に……?まずい!あいつのトラウマを持って行ったのに!なんで先に言わないんだよそれ」
「位置知ってたら余計に不審人物がられるじゃん俺」
「お前はとっくに不審人物だろ」
「インターネットにお前の個人情報ばらまくぞ」
「二人共犯罪者として捕まってくれ……とか今は呑気に話してる場合じゃねえよ!」

ストーカーの行方を急いで追うことにした。
しかし、奴は滅茶苦茶速いのかどれだけ追いかけても影すら掴めない。
あいつどんだけ足速いんだ。
いやでも過去バスの上に無理やり乗ってきたこともあったから多分人並じゃないんだろう。
ということはどう考えても俺達が走っても間に合わないのでは……

「つ、詰んだ~……!」
「言いつけ覚えてて守ってくれてるといいねー」

ナカイはニヤニヤしながら並んで走ってくる。
こいつも本来はもっと足が速いのにわざわざ煽る為だけに俺に合わせている。
俺がぜえぜえ息を荒げているというのにこいつは喋る余裕すらあるし。

「お前足速いんだからせめて止めて来いよ……っ」
「なーんで俺が?やだ~めんどくさ~い」
「協力してくれたっていいじゃん!一大事なんだよ!」
「だってお前の知り合いの一大事とか俺には関係ないし」

横目で無感情に言う姿を見て俺は再確認した。
ああ。そうだ。こいつは、そういうやつだった。
なんでも知ってるくせに予防とかそういうのやる気なんてまんざらない。
本当にすべて気まぐれで決めて、気が乗らなきゃ傍観者として見ているだけ。
自分の一言に後悔した。

「一緒にいるのに使えないやつめ!」
「使われる為にいる訳じゃないからね」

持てる全力で公園まで追いかけ続けたが結局、当然の結果となった。

「ハヅキ、これ返却ダメですか?」
「ダメです!どうせあんたそれないと暇なんだからまだ暫く持ってなさい」
「わかりました、更新します。あ。エート。オニーサン。直してくださって有難う御座いました」
「いいってことよ」
「あんたどうしたの。先輩さんのストーカーしてたんじゃなかったの」
「してたけどこっちの約束の方が大事だろ?」
「してたっていう時点であんたってキモイわね」
「なんだぁ!?テメェ!」
「アオセ、こんなおっさんといるとキモくなるからもう関わらない方がいいわ」
「わかりました」
「恩人に対してお前も無礼だろ!」

……想像を裏切ってくれて深刻な雰囲気にはならなかったみたいだ。
もしかしたらゲーム機で色々思い出しちゃうんじゃないかって心配してたけど……
案外ハヅキの防御性能はもう少し強かったようだな。

「はああ……まじでよかった~」
「挨拶してこよ」
「え、あ!?」

隣にいたナカイが俺を置いてハヅキたちのところへと近づきに行った。
俺も後ろからよろよろ荒い呼吸のままついていく。

「やっほー」
「うわクソミドリが!……あれ!先輩も?どうしたんすか?」
「え、えっとその~」
「こないだぶりだね?オウイチロウのお気に入りなハヅキちゃんさんよ」
「私は先輩さんのこと許さないのでお断りです」
「うわあ、先輩さん呼びちくちくくるぅ~……

ハヅキは俺のことを見ると、不快そうな表情で視界にいれないようにぷいっとアオセと呼ばれた子の方へと顔を背けてしまう。
どんだけ少しの恨みすら根強いんだお前は。
するとナカイが話を続けようとハヅキにさらに近づきにいった。
こいつ悪い笑顔してるな。もしも行き過ぎたら殴ってでも止めねば。

「ねえねえハヅキちゃんさ、具合大丈夫?」
「は?なによ」
「だってまだ少し青白いから顔」
「う……ま、まあ怖い夢みたからかもね」
「どんな夢か聞いてもいい?」
「な、内臓お化けに襲われる夢」
「なんだそのキモい内容……

ストーカーの人がうわあ。と引きつった顔で聞いている。
ナカイはまだ何か企んでいるような表情のままだ。
なにがしたいんだろう?

「ほんとにそれだけだった?」
「え?うーん…………。そうねえ、他に重要な内容を見た気はするけど思い出すほどのことでもないかな~。ってかなんでお兄さんに話さなきゃいけない訳?」
「面白そうだから~」
「アオセ。そろそろ帰りましょうか変態がいっぱいきたし」
「私まだここにいます」
「ダメよ!今日はおひらき!ね?」
「ウー……わかりました、マタアシタ。待ってます」
「えらいわね~。また明日ね~」

ハヅキとアオセは立ち上がり俺達を無視するように仲良く公園の出口へと向かっていく。

「え。おい、ハヅキ!俺もついていくって!」
「私の家の敷居を跨いでいいのは私を愛する権利を持ったものだけ――……
「わかったわかったハヅキ様を愛する!な!だから!」
「そんな半端もんが気安く私に触るんじゃねえわ」
「だめだ……誠心誠意込めないと許す気がないやつだ」
「センパイサン」

殺気を放つハヅキの隣のアオセが突然俺に話しかけてきた。
センパイサン呼びはハヅキの真似なのだろうか。

「ヒザマクラしてヨシヨーシすると良いです」
「へ?膝枕?よしよし……??」
「私はヒザマクラとヨシヨーシでハヅキとまた仲良くなれました」

この子なりの助け船のつもりなのだろうか。
確かに頭を撫でた時異様な反応を示していたし……べたべたに甘やかしてやれってことかな?
まあそれで機嫌が治るならお安いか。

「よし!わかった!ハヅキ、俺が膝枕してなでなでしてやる!お前が寝るまでやってやろう!」
「は、はあ!?もうアオセ!先輩さんに変な入れ知恵しないでよ!」
「だめでしたか?スミマセン」
「今なら特別に抱きしめてやってもいいんだぞ!ほ~らおいで!」
「そんなんに誘われて近づく程私は単純じゃないわよ!!」

と強がるが、誘惑に対して体を震わせて我慢している。
こうなったらしょうがない……俺から行くしかない。
腕を組んであくまで興味がない態度をするハヅキに歩み寄り、俺はハヅキを抱き寄せてやった。

「ホ、ホギィャヤァアアアア?!?」

胸の中で奇声を発するハヅキの頭をついでにやさしく撫でる。

「オ!?オゴイァオギォアアアアア!?」
「人間やめてねえかそいつ」
「よしよし。ごめんな?俺はハヅキが一番大事だからな……
「うわあ。そしてこっちは妖怪オンナタラシ」

びくびくと時折強く震えるハヅキをこれでもかと甘い言葉で包み込んでやる。
これくらいやればやっと機嫌を直してくれるだろうか?
ハヅキが俺にとって大事な存在なことは嘘じゃないんだけども。

「フ、フギョォオオ……
「ハヅキ。ハヅキから言語能力低下や熱異常が出ています。大丈夫ですか?」
「シ、シヌ~……
「死、ぬ?それはダメです。センパイサン。やめてください」
「へ、銃!?」

アオセは突然拳銃を手に取って俺に突きつけてきた。どこから出てきたんだそれ?
ナカイもなかなか普段は表情が死んでる方だが、この子は徹底して真顔な所為で余計殺意が籠ってるように見える。怖い。

「先輩を殺すなら俺にも考えがあるぞ!」

ストーカーの人もあせり顔で懐から尖ったドライバーを出してきて余計混乱が加速しそうな構図になってきた。
俺はただハヅキの機嫌を直したかっただけなのにどうしてこんな。
誰か止めてください!

「おもしれ~お前らそのままバトルロワイヤルの果てにオウイチロウをハチの巣にしろ」

うん。やっぱこいつまじで使えないわ。