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「もう紡ぐべきでもない記憶でしかないの」
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H SPRING -10
今日はいつも通りのギリギリな時間に起きた私。
あくびをしながら、皆が一斉に向かう学校へと登校していく。
「うーん、眠そうだねえ」
「
……
よくも爽やかに私の隣に立てますね『先輩』さん」
「まだ怒ってるの昨日のこと」
「私は私を選んでくれない男を許しません」
「きゃー過激ー」
私に眠そうなどというオウイチロウさんの方が相変わらず目の下の隈がすごい。
いつだって瞼が重そうな目をしているし。
……
それにしても今日のオウイチロウさんは違和感がある。
「先輩さん、なんかイメージチェンジしました?なんだろ」
「ん?眼鏡じゃない?」
「あ、ほんとだわ」
はっと気づくと確かに黒いハーフリムの眼鏡をつけていた。
あれ?ひょっとして普段はコンタクトなのかな?
「ちょっとだけ視力悪いんだよね実は~と言っても普段は別に裸眼でも問題ないんだけど」
「ふぅん。眼鏡もまた似合いますね」
「よく言われる~」
「よく、言われるですってぇ
……
?」
「え。あ。いや別にそういうのって女の子に限らないだろ!」
「べーっだ。もう先輩なんか知んなーい」
うろたえているのを無視して私は駆け足で学校の方へと去っていく。
道が違うオウイチロウさんは別に追いかけてくる様子はない。
「おーい!帰る時は俺に連絡しろよー!」
「するかばーか!」
振り返りもせず大声で言い返してやる。
まったく。こんなに可愛いハヅキちゃんに何故惚れないのか不思議でならないものだ。
しかも、他の女の気配までにおわせてくる始末。
いくら女の子に興味ないからってそれでも乙女な気持ちを汲む努力は必要だ。
「あ、ハヅキ~おはよ~」
「うっす!おはよーっ!」
玄関の靴箱で丁度履き替え終えたところであるクラスの子に出会った。
私も一緒に教室まで行く為並んですぐに靴を履き替える。
ふたりで今日の授業の予定とか、昨日のドラマの話とかで盛り上がり笑いあう。
階段をあがりきって教室が並ぶ廊下へ曲がると相変わらず廊下は別のクラス同士の友達と話し合う子とかでいっぱいだ。
私達は当然教室の中へと入る。
あれ。これまた教室に違和感があるのは何故だ。
友達とは少し離れた席なのだが、一旦私は自分の席に荷物を置きに行った。
「あ。オハヨーゴザイマス」
「
……
?なんだ?いや、気のせいか
……
」
「ハヅキ?なにか気になることがありますか?」
隣の席にもう来ないと言ってたはずの人物が座っている。
なんでいるんだろう。いや、来るのが普通だし来てくれって言ったけどほんとに来たか。
椅子に座って私を見上げる姿は昨日と一緒だ。デジャヴのように同じ。
昨日というとこの子のゲームを壊してしまったので口にバッテンをつけて会話を避けたいくらい私にはバツが悪い。
「あ、あーうん。あんた来たのねおはよー
……
」
「あれ~?もしかしてハヅキその子例のアオセさん?」
「オハヨーゴザイマス?」
「おはよー。すごいじゃん、入学式と始業式バックレるなんてさー」
「バックレ
……
とはなんですか?」
「ん?え?バックレる
……
って伝わんない?」
私のところまで来てくれた友達は、見慣れない存在に話しかけてみるが伝わらない言葉があることが心配になってか私の方にヘルプを求めた。
いや私は意味わかるし伝わってるよ、と表情と頷きで伝える。それに対してあ、やっぱりわかるよね?と同じく表情で返ってくる。
「えっと~
……
。あ。ねえハヅキ
……
。アオセ
……
くん?さん?どっちなの?」
「多分くんでいいんじゃないかな
……
多分
……
」
「あ、アオセくんさー!はじめて見るけど前はどこ中通ってたの~?」
「ドコチュー?ドコ
……
ショーチュー
……
ウーン。わかりません」
「あ、ひょっとして別のエリアから来た?だから言葉わかりづらいかな?」
「いえ。私はここで産まれたのでここの人間ですが」
「
…………
」
友達はついに言葉を止めてしまった。
何を言っても不思議ちゃんムーブでかみ合わない。
アオセは至って純粋なのだろうが、冗談じゃないからこそ茶化しづらい。
私達にとって普通な話題が伝わらない。
合計して、これ以上会話を続けるには苦しいと判断して友達はまた私を置いて別の人のところへと逃げて行った。
「行ってしまいました」
「
…………
まじであんた今までどうやって生きてきたのよ。世間知らずにも程があるわよ」
「ンート。あの公園でゲームをしていつも過ごしてます」
「でも昨日ゲーム壊れたわよ。今日からどうすんのよ」
「どうすればいいですか?」
「私に聞くな!」
「ハヅキがいろんなこと教えてくれると言ってたのに
……
」
「あーもうあんたと喋ってると頭痛くなるわ!」
「頭痛いですか?痛いの飛んでけします?」
「いらん!」
アオセは私に手を伸ばして本当にしようとしてくるが、手を振り払って拒否した。
よくわからないけどこいつが私にとても懐いていることは嫌でもわかった。
子犬みたいに真剣に私を見つめてくるし。
「いい?私にやたらと話しかけてこないでよね!頭痛が加速するから!」
「わかりました」
こくんと頷く。
大丈夫かなこいつ
……
。
先生がやってくると朝の時間でアオセは自己紹介させられたが、相変わらずぎこちない言葉の数々がクラスに微妙な空気を作っていた。
義務的な拍手にいつもより空気が混じっている気がする。
授業の間や休憩時間いずれも、アオセは私の言いつけ通りにあまり話しかけてこなかった。
たまにちらっと見る限りぼんやり空を見ていたり居眠りしてばかりである。
先生に指名されても眠っていて反応しないのはさすがに呆れられるし怒られていたが。
「ねえハヅキさあ
……
あいつやばくない?」
「そりゃもう隣の席だからよくわかりますとも」
「不良の隣とは、災難だったねあんたも」
「隣の席だから私まで被害くるのは勘弁してほしいわ
……
」
「二人とも解答ダメダメコンビだもんね~」
二人の女の子があははは!と笑う。私は赤っ恥で縮こまった。
私がここにきた理由でもあったが、勉強がまっっっったくできない私もまた悪い意味で注目に含まれてしまっている。
数学や英語の時間に先生に席が手前だからと答えを聞かれたりしたがまったくわからない。
見当違いな読み方や答えをしてはクラスに笑われていた。
そんな笑われている私の姿を隣のやつは静かに見つめていたが、内心ではひょっとすれば滑稽だと思っていたかもしれない。
私達は並べられて面白おとぼけコンビとこのままではクラスの周知となってしまいかねない。
私のネームにもプライドにも傷がつき後に響くやばい問題である。
「わ、私数学と英語はそもそも苦手なんだもん!」
「うんうん。これからがんばりなー」
「はい
……
」
中学の友達にも「これからがある今がダメでも未来を生きればいい」とよく励まされていたっけ
……
。
結局同じ高校に通う夢は叶わず私はここにいるけども。
そして、今日は5限まで授業があった訳だが授業で聞いた内容はほぼほぼ頭に残ることはなかった。
「うう
……
。もうテストが心配だわ
……
」
しくしくと悲しみに暮れながら帰り支度をする私と、隣でずっと寝ているアオセ。
「おーい。あんたそろそろ帰る時間ですよ」
「
…………
」
ぐっすり眠っているらしく私が話しかけても反応しない。
しかしなんとなくこいつを起こさず放置したらまじで明日までこの状態なのではないかという不安が突然大きくなった。
「ちょっと。ちょっと!起きなさいってば!」
「んぇ。なんですか」
「もうすぐ帰りの会して終わりなんだから起きとけ」
「帰りの会とは儀式ですか?」
「違うわ!」
「へー」
アオセは全く帰る為の支度をするつもりがない
……
というかそもそもこいつ今日一回もまともに筆記用具出してなかったな。
ここまでずっと椅子に座っていただけだ。学校のことをまじでなんだと思っているんだ。
まじでこいつ私の隣に座る為だけにやってきたのか?そうだったらもう、救えないのかもしれない。
私は大きくため息をつき、眉間をつねった。
いつもの起立礼をして一斉解散。
静かな空間が一瞬で解放感に和気あいあいとしはじめた。
さて私も帰ろうと立ち上がるとアオセは同じようについてきた。
「
……
あんたまさか私と帰るつもり?」
「ハヅキについていきます」
「私は公園にはいかないわよ」
「何故ですか?」
「用事ないからよ!」
「私も用事はないですけど、いますよ?」
「あんたと私は違うのー!」
きょとんと見つめる子犬。
それだけ見ると悔しいがこいつ案外可愛い。
「ハヅキちゃん!よかった。一緒にかえ
……
」
廊下に出た私達に人気者さんが今日は一人なのかにこにこ嬉しそうに近づいてくるが、私の隣をみた瞬間固まった。
見知らぬ人物に驚いたか。
「えっと、はじめまして?ハヅキちゃんのクラスの子だよね?」
「うん。こいつはアオセよ、まあ気にしないで勝手についてくるだけだから」
「ハヅキちゃんがそう言うならわかった」
ナヲ君はアオセの存在を気にして戸惑いながらも並んで帰ってくれるようだ。
一方、並ぶのが正解だと思ったのかさっきまで後ろにいたのが私の横へとやってくる。
うーん。中性的な美形に挟まれてしまった。
「そういや今日は私と一緒でいいの?」
「え?なんで?」
「いやほらそっちはそっちでクラスの仲いい子とかいるんじゃない?」
「そんなの、僕にとってはハヅキちゃんの方が大事だから
……
」
「ま。私も昨日は用事がなければナヲ君と帰ろうと思ってたんだけどね」
「用事ってなんだったの?」
「これ」
私は右隣の無言の眼鏡を親指で指す。
「ん?なんですか?」
白いカナル型イヤホンを片耳だけ外しながら応答するアオセ。
こいつイヤホンしてやがった
……
いつの間に
……
。
「あんたが昨日の厄災だったって話してたの」
「そうですか」
「そうですか、じゃないわ!」
「?スイマセン」
「もー話も怒りもなんも通じないこいつぅ
……
」
「あはは
……
」
ナヲ君を苦笑させてしまった。
ほんとうにこいつ、私の周りに厄を振りまく疫病神というやつなのではないだろうか。
「あ、じゃあ僕別の道だから」
十字路で自然と曲がろうとした時、ナヲ君は直進の道を指さし立ち止まって言う。
「こないだも思ったけど、ナヲ君って隣の家の子じゃないの?」
「え?ああ
……
あの日はえっと。よ、用事があったから!だから違うよ!」
「そうなんだ」
「じゃ、じゃあね!」
恥ずかしそうに誤魔化し笑いで去っていく。
別に私はそれ以上に疑問はなかったのだがとりあえず手を振ってまたねーとだけ返す。
さて
……
イヤホンをつけている問題児と二人きりになった。
私はもう敢えて問答するのがめんどくさくなり、黙って家まで帰ることに決め歩く。
そして、オウイチロウさんに帰りに連絡するという項目は脳から消え失せているので朝の宣言通り無視することになった。
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